オンラインゲームで家族が動画を見るとPingが跳ねる原因はBufferbloat|SQM・CAKE・FQ-CoDelを解説
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SQM・CAKE・FQ-CoDelを解説
出典:RFC 7567(IETF AQM推奨)、RFC 7928(AQM特性評価ガイドライン)、RFC 8290(FQ-CoDel定義)、OpenWrt公式SQMガイドにもとづきます。本記事の情報は2026年8月15日時点のものです。
オンラインゲームを一人でプレイしているときはPingが安定しているのに、家族がYouTubeや動画配信サービスを見始めたり、別のPCで大容量ファイルをダウンロードしたりすると、突然Pingが跳ね上がることがあります。回線速度が数百Mbps以上出ていても、通信が集中したときにルーターや回線終端付近のキューへ大量のパケットがたまると、ゲームの小さな通信まで順番待ちさせられます。このように大きすぎるバッファによって遅延が増える問題が「Bufferbloat」です。
IETFのRFC 7567では、ルーターなどで入力されるデータ量が出力できる量を上回るとキューが発生し、キュー自体は突発的な通信を吸収するために必要な一方、過剰なキューは不要な遅延につながると説明されています。オンラインゲームで家族が動画を見ているときだけラグくなる場合は、最大通信速度だけでなく、「回線へ負荷をかけたときにPingがどれだけ増えるか」を確認することが重要です。
この記事では、Bufferbloatが起こる仕組み、通常のQoSとSQMの違い、FQ-CoDelやCAKEとは何なのか、家庭用回線でPingを安定させるための考え方を解説します。
目次
要点まず何を確認すればよいか
速度とPing回線速度が速くてもPingは悪化する
オンラインゲームでは、ダウンロード速度が500Mbps出ているからといって、Pingも必ず安定するわけではありません。通信速度と遅延は別の指標だからです。ゲーム中に必要なのは、大容量データを一気に転送する能力だけではなく、キャラクターの位置・操作・サーバーとの同期などに使われる小さな通信を、できるだけ待たせず送受信できることです。
一方、動画視聴やゲームダウンロードでは大量のデータが連続して流れます。回線の処理能力に近いところまで通信が増えると、すぐに送信できなかったパケットがルーターやネットワーク機器のキューへ並びます。IETFは、過剰なキューによって遅延が増加し、ネットワークアプリケーションの性能が低下することをAQM(Active Queue Management)が対処すべき問題として説明しています。つまり「速度は速いのにゲームだけラグい」という状態は十分に起こり得ます。
Bufferbloatとはキューにパケットがたまりすぎることで起きる遅延
Bufferbloatは、ネットワーク機器が持つバッファへパケットをため込みすぎることで、通信遅延や遅延のばらつきが大きくなる現象です。バッファそのものが悪いわけではありません。ネットワークでは瞬間的に通信量が増えることがあるため、すぐ送れないデータを一時的に保存するキューが必要です。問題になるのは、キューが長時間いっぱいに近い状態になり、大量のパケットが順番待ちするケースです。
RFC 7928では、大きく管理されていないバッファによる遅延が、音声・映像・ゲームなどリアルタイム性を要求するアプリケーションへ悪影響を及ぼすと説明されています。オンラインゲームに置き換えると、Steamなどのダウンロード通信が大量にキューへ並び、その後ろにゲームのパケットが入れば、ゲーム側はデータ量が小さくても待たされ、Pingの上昇やジッターとして現れることがあります。家族が動画を見るだけで必ずBufferbloatになるわけではなく、重要なのは家庭内の合計通信量が実際の回線容量へどの程度近づいているかです。
家庭用インターネットでは下りより上り速度が小さいサービスもあります。写真や動画のクラウドバックアップ、オンラインストレージへの同期、ライブ配信などによってアップロード帯域が埋まると、ゲームの上り通信まで待たされることがあります。OpenWrtのSQM設定でもDownloadとUploadの両方に速度を指定する仕組みになっており、下りだけで判断しないことが重要です。
診断方法「負荷中のPing」で確認する
Bufferbloatを疑う場合、何も通信していないときのPingだけ測っても判断できません。重要なのは、回線が空いている状態の遅延と、ダウンロード・アップロードへ負荷をかけた状態の遅延を比較することです。OpenWrtの公式SQMガイドでも、設定前に回線が空いている状態で通信速度と遅延を測定してBufferbloatを確認し、設定後にも同じテストを行って負荷中の遅延が改善したか比較する流れが案内されています。
普段20ms程度なのに、大容量ダウンロード中だけ100ms以上になるようなら、単純なサーバー距離とは別の問題を疑えます。反対に、アイドル時からPingが高い場合は、ゲームサーバーとの物理的な距離、ISP側の経路、Wi-Fi環境など別の原因が考えられます。「Pingが何msならBufferbloat」と固定値だけで判断するのではなく、通信負荷をかける前後でどれだけ増えるかを見ることが重要です。
切り分けWi-Fiが原因の場合もある
家族が動画を見始めるとゲームがラグくなるからといって、すべてBufferbloatとは限りません。ゲーミングPCも家族のスマートフォンも同じWi-Fiアクセスポイントを利用している場合、無線区間そのものが混雑する可能性があります。OpenWrtのSQMガイドでも、Wi-Fiアクセスポイントを使用している場合は上流側のルーターを別途テストし、BufferbloatがWAN側にあるのかWi-Fi側にあるのかを切り分けるよう案内されています。
まずゲーミングPCを有線LANでルーターへ接続し、同じ症状が発生するか確認すると分かりやすくなります。有線でも家族の通信中だけPingが大きく跳ねるのであれば、WAN側のBufferbloatを疑う材料になります。ただし、有線LANにすればBufferbloatが必ず直るわけではありません。PCとルーターの間を有線化するとWi-Fi由来の遅延や干渉は減らせますが、ルーターからインターネット側へ出ていく回線が飽和し、そのキューでパケットが待たされているのであれば、有線PCのゲーム通信も同じボトルネックを通ります。有線接続まわりの切り分けをさらに詰めたい場合は、有線LANでゲーム中だけPingが跳ねる原因もあわせて確認してください。
QoSとSQM「優先順位をつけるだけ」と「キューを管理する」の違い
家庭用ルーターにはQoS(Quality of Service)と呼ばれる機能が搭載されていることがあります。QoSはネットワーク上のトラフィックを分類し、特定の通信を優先したり帯域を割り当てたりするために使われます。たとえばゲーム通信を高優先度へ設定し、大容量ダウンロードを低優先度にする考え方です。ただし、「QoSをオンにすればBufferbloatが必ず直る」とは限りません。QoSという名称で提供される機能でも、実際に行っている処理はルーターによって異なります。
OpenWrtは従来型のQoSについて主に優先順位を扱うものと説明し、それに対してSQM(Smart Queue Management)はパケット/フロー単位のスケジューリング、AQM、トラフィックシェーピング、速度制限、QoS優先制御を組み合わせた仕組みとして説明しています。SQMの重要なポイントは、単に「ゲームを最優先にする」だけではないことです。回線の実効速度を把握し、ルーター側で少し低い速度へシェーピングすることで、制御できない場所に巨大なキューができる前にルーター自身が通信を管理し、その上でAQMやフローキューイングを利用して、通信が一つの大きな転送に占有されにくい状態を作ります。
AQM・CAKE・FQ-CoDelSQMを構成する要素技術
SQMを理解するうえで重要なのがAQM(Active Queue Management)です。キューが完全にいっぱいになるまで何もせず待つのではなく、キューの状態を積極的に管理する考え方で、RFC 7567はインターネット性能を改善するためAQMをネットワーク機器へ広く導入することを強く推奨しています。「パケットを絶対にため込まない」という意味ではなく、必要以上に長いキューを維持しないよう制御する仕組みと考えると分かりやすいでしょう。
FQ-CoDel(Flow Queue CoDel)は、Flow QueueingとCoDelを組み合わせたキュー管理方式です。RFC 8290では、FQ-CoDelをBufferbloatと遅延を抑えるためのパケットスケジューラ+AQMアルゴリズムとして定義しています。特徴は、すべての通信を一つの巨大な列へ単純に並べるのではなく、送信元IP・宛先IP・送信元ポート・宛先ポート・プロトコル番号などから通信フローを複数のキューへ分けて扱うことです。これにより、大容量ダウンロードのフローだけがキューを占有し、DNSやWeb、ボイスチャットなど小さな通信を長時間待たせる影響(Head-of-Line Blocking)を抑えられます。
CAKEもBufferbloat対策で広く使われるQueue Disciplineです。現在のOpenWrtではSQMの基本設定としてCAKEが推奨されており、Bufferbloat対策に優れる方式として案内されています。FQ-CoDelもより軽量な選択肢として用意されており、CPU負荷が高い環境ではFQ-CoDelの方が高いスループットを出せる場合があります。一般ユーザーがOpenWrtでSQMを初めて設定する場合、特別な理由がなければCAKEを使う構成から試すのが分かりやすいでしょう。
設定の勘所なぜ回線速度を少し下げるとPingが安定するのか
SQMを設定すると、最大ダウンロード速度や最大アップロード速度が少し低下することがあります。これは失敗ではありません。ルーターが実際の回線限界よりわずかに低い位置を意図的なボトルネックにすることで、キューを自分で制御できるようにするためです。実際に900Mbps程度出る回線でルーター側も900Mbpsを完全に使い切ろうとすると、制御できない上流側でキューが発生する可能性があります。そこで少し低い速度でシェーピングし、ルーターのAQMが先にパケットを管理できる状態を作ります。
OpenWrtの公式SQMガイドでは、最初の設定として実測したDownload・Upload速度の90%を入力することが案内されています。その後、負荷中の遅延が発生するところまで少しずつ速度を上げ、問題が出る直前まで戻して調整する方法が推奨されています。ただし90%という数値がすべての回線に対する正解というわけではありません。時間帯によって実効速度が変動する回線では、ピーク値を基準に90%へ設定しても本当のボトルネックを管理できない時間帯がありますし、反対に実効速度が安定している環境なら90%から少しずつ上げても負荷中のPingを維持できる場合があります。自宅回線を実際に測定してから調整することが重要です。
OpenWrtの公式ガイドでもSQMはCPUに依存し、性能の低い機器では回線の最大速度に追従できない場合があると説明されています。1Gbps以上の高速回線でSQMを有効にした結果、Pingは安定したものの速度が大きく落ちるケースもあるため、ルーターの処理能力にも注意が必要です。またOpenWrt環境ではHardware Flow Offloadingがカーネルの一部処理を迂回するためSQMと互換性がなく、SQM利用時には無効化するよう公式に案内されています(Software Flow Offloadingは併用可能とされています)。
SQM非対応の場合普通のQoSしかないルーターではどうする
使用しているルーターにSQMやCAKEがなく、QoSしか搭載されていない場合でも試す価値はあります。ゲームPCやゲーム機の通信を優先し、大容量ダウンロードを行う端末の優先度を下げることで、混雑時の症状が改善する可能性があります。端末ごとに最大帯域を制限できるルーターなら、動画視聴やダウンロードが回線を完全に埋めないよう余裕を持たせる方法もあります。
ただし、単純な優先順位制御とSQMは同じものではありません。OpenWrtが説明しているように、SQMはQoS優先制御だけでなくAQM・トラフィックシェーピング・フロー単位のスケジューリングなどを組み合わせています。QoSを「ゲーム優先」に設定しても負荷中のPingが大きく上昇するなら、SQM対応ルーター(OpenWrt対応機や市販のBufferbloat対策済みルーター)への買い替えを検討する余地があります。
Q&Aよくある質問
総括まとめ|家族の動画を止める前にルーターの設定を確認する
オンラインゲーム中に家族が動画を見たり大容量ファイルをダウンロードしたりするとPingが跳ねる場合、回線速度不足だけが原因とは限りません。負荷が回線のボトルネックへ到達し、ルーターやネットワーク機器のキューにパケットが大量にたまる「Bufferbloat」が発生している可能性があります。重要なのは、何も通信していない状態のPingだけを見ることではなく、家族が動画を見る・大容量ダウンロードを行うといった負荷をかけた状態でPingがどれだけ増えるかを確認することです。
負荷中だけPingが大幅に上昇するなら、まず有線LANでWi-Fiの影響を切り分け、その後ルーターのSQMやQoSを確認します。SQMを設定できる場合は、実測回線速度より少し低い速度からシェーピングを開始し、最大速度と負荷中Pingのバランスを調整してください。オンラインゲームでは「最高で何Mbps出るか」だけでなく、回線が混雑しているときでも小さなゲーム通信を待たせないことが重要です。
オンラインゲーム中に家族が動画を見るとPingが跳ねる主な原因は、回線速度不足ではなく「Bufferbloat」である可能性があります。ルーターや回線終端付近のキューへパケットがたまりすぎることで発生し、IETFのRFC 7567・7928はAQM(Active Queue Management)による対策を推奨しています。家庭用ルーターのQoSは主に優先順位づけの機能である一方、SQM(Smart Queue Management)はAQM・トラフィックシェーピング・フロー単位のスケジューリングを組み合わせた本格的な対策です。OpenWrtではCAKEまたはFQ-CoDelというQueue Disciplineが提供されており、実測速度の90%を初期値にシェーピングすることが推奨されています。Bufferbloatかどうかは、アイドル時と負荷をかけた状態のPingを比較することで確認できます。



