AMD Ryzen Masterに2件の脆弱性が判明|権限昇格とクラッシュの恐れ、修正版の確認方法を解説【2026年8月】
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権限昇格・クラッシュの恐れ、修正版への更新を推奨
出典:AMD公式セキュリティ告知「AMD Ryzen™ Master Vulnerability」(AMD-SB-9020)にもとづきます。本記事の情報は2026年8月16日時点のものです。
AMD Ryzen Masterは、Windows上からRyzen CPUの動作状態を確認したり、オーバークロックやPBO、Curve Optimizerなどを設定したりできるAMD公式ユーティリティです。CPUコアごとのクロックや温度、電圧をリアルタイムで監視する機能に加え、CPU・内蔵GPU・メモリなどのパフォーマンス設定を変更できます。Ryzen 7 7800X3DやRyzen 7 9800X3Dなどの状態確認、PBOやCurve Optimizerの調整目的でインストールしているゲーマーも少なくないでしょう。
AMDが公開したAMD-SB-9020では、このRyzen Masterに異なる仕組みの2件の脆弱性が報告されています。ひとつはインストーラーのDLL読み込みに関する問題、もうひとつはWindows上で動作するRyzen Masterドライバーのメモリ管理に関する問題です。CPUそのものに新しい脆弱性が見つかったわけではない点は、前提として押さえておく必要があります。
この記事では、2件のCVEの中身、Ryzen 5000シリーズ以降とRyzen 3000シリーズで異なる修正バージョン、Ryzen Master Monitoring SDKへの影響、そして自分のバージョンを確認する方法まで、AMD公式のセキュリティ情報にもとづいて整理します。
目次
要点まず何が起きたか
概要Ryzen Masterで2件の脆弱性が判明
今回AMDが公開したAMD-SB-9020は、CPUのオーバークロック・監視ユーティリティであるRyzen Masterと、その監視機能を組み込むための開発者向けSDK「Ryzen Master Monitoring SDK」を対象としたセキュリティ情報です。Ryzen CPUを搭載しているという理由だけで対象になるわけではなく、Ryzen Masterを実際にインストールしている環境が対象になります。AMD公式の謝辞欄によると、CVE-2025-54512は研究者「ycdxsb」氏、CVE-2026-0465はシンガポールCyber Security Agency(CSA)のAhmad Abdillah Bin Zaini氏が、それぞれ協調的な脆弱性開示を通じて報告したとされています。
脆弱性1CVE-2025-54512はDLLハイジャックで権限昇格の恐れ
より深刻度が高いのがCVE-2025-54512です。AMD公式によるCVSS v4.0評価は7.0でHighです。AMDの説明では「A DLL hijacking vulnerability within the AMD Ryzen™ Master installation may allow a local user-privileged attacker to escalate privileges, potentially resulting in arbitrary code execution.」、つまりRyzen Masterのインストール処理内にDLLハイジャックの脆弱性があり、ローカルの一般権限を持つ攻撃者が権限昇格や任意コード実行につなげられる可能性があるとされています。
低い権限しか持たない攻撃者が、Ryzen Masterをインストールする前に細工したDLLを対象ディレクトリへ配置しておくことで、管理者がRyzen Masterをインストールした際にそのDLLが読み込まれる可能性があります。「Ryzen Masterを起動しているだけでインターネットからPCを乗っ取られる」という脆弱性ではなく、攻撃にはローカル環境で事前に悪意あるDLLを配置できることに加え、ユーザーがRyzen Masterのインストールを実行するという条件が必要です。それでも、管理者権限で動作するインストーラーを悪用して低権限ユーザーから権限昇格できる可能性があるため、AMDはHighとして評価しています。
脆弱性2CVE-2026-0465はドライバーのUse-After-Free
もうひとつのCVE-2026-0465は、Ryzen Master Utility Driverに存在するUse-After-Freeの脆弱性です。AMD公式によるCVSS v4.0スコアは5.6でMediumです。AMDの説明では「A Use‑After‑Free (UAF) vulnerability in the AMD Ryzen™ Master Utility Driver may allow a local attacker to access kernel memory, potentially resulting in loss of availability.」とされています。
Use-After-Freeとは、プログラムがすでに解放したメモリ領域を再び参照してしまう問題です。AMDによる調査では、Ryzen Masterドライバー内のグローバルポインターが解放された後もNULLへ変更されず、IOCTLハンドラーがその解放済みポインターを読み続ける状態になることが原因とされています。ローカルの攻撃者がこの状態を意図的に発生させると、カーネルメモリへアクセスし、最終的にはシステムクラッシュやサービス拒否を引き起こせる可能性があります。CVE-2025-54512よりも高い権限と追加の攻撃条件が必要なため、CVSSはMediumにとどまっています。
注意「ゲーム中のクラッシュ」とは別の問題
CVE-2026-0465について「クラッシュの恐れ」と聞くと、Ryzen Masterを使っているだけでゲームやWindowsが突然クラッシュする不具合だと思うかもしれません。しかしAMDのセキュリティ情報では、ローカルの攻撃者がUse-After-Freeを意図的に発生させることで可用性が失われる可能性がある脆弱性として説明されています。ゲーム中のブルースクリーンや再起動、WHEAエラーなどが発生しているからといって、今回のCVEが原因だと判断することはできません。Ryzen Master 3.1.1自体にも、コア数が多いCPUではアプリの起動に時間がかかることや、AMD Software: Adrenalin EditionからRyzen Masterを起動した場合にダッシュボードの一部メトリクスが正確に表示されない場合があることが既知の問題として記載されています。今回のセキュリティ脆弱性と、通常のアプリケーション不具合は分けて考えた方がよいでしょう。
別件同日発表のTPM脆弱性とは異なる文書
AMDは同じ2026年8月11日に、Ryzen向けFirmware TPMに関する別のセキュリティ情報「AMD-SB-7064」(CVE-2026-6726・CVE-2026-6727)も公開しています。発表元・発表日が同じなため混同しやすいですが、対象製品もCVE番号も対処方法も異なる別件です。TPM関連の脆弱性はBIOS(AGESA/PI)アップデートで対処するもので、詳しくはAMD Ryzen「TPM 2.0」に脆弱性の解説記事で扱っています。今回のRyzen Master脆弱性はソフトウェア側の問題のため、BIOS更新は対処法になりません。
修正版製品・世代ごとに異なる対策バージョン
AMD公式の対策バージョン表では、Ryzen Master本体とRyzen Master Monitoring SDKについて、CVEごと・CPU世代ごとに修正版が示されています。
| 製品 | CVE | 修正バージョン |
|---|---|---|
| Ryzen Master (Ryzen 5000シリーズ以降) | CVE-2026-0465 | 3.1.1.5502(2026年7月22日) |
| Ryzen Master (Ryzen 5000シリーズ以降) | CVE-2025-54512 | 3.0.0.4199(2025年7月23日) |
| Ryzen Master (Ryzen 3000シリーズ) | CVE-2025-54512 | 2.14.3.5040(2026年3月13日) |
| Ryzen Master Monitoring SDK | CVE-2026-0465 | 3.1.1.5478(2026年7月22日) |
| Ryzen Master Monitoring SDK | CVE-2025-54512 | 3.0.1.4732(2025年11月21日) |
※出典:AMD公式セキュリティ告知「AMD-SB-9020」のAffected Products and Mitigationテーブル(2026年8月16日時点)。
Ryzen 5000シリーズ以降で現在のRyzen Masterを使用している場合、3.1.1.5502は3.0.0.4199より後のバージョンとなるため、3.1.1.5502以降へ更新しておけば両方のCVEについて対策バージョン以上になります。セキュリティ情報自体が公開されたのは2026年8月11日ですが、修正版はそれ以前から提供されていたことになるため、最近Ryzen Masterを更新した人はすでに対策済みバージョンを使用している可能性があります。
確認方法自分のRyzen Masterのバージョンを確認する
Ryzen Masterを現在使用している場合は、まずアプリ内のバージョンを確認してください。AMDの公式ユーザーガイドによると、Ryzen Masterにはアップデート機能があり、新しいバージョンが存在するとタイトルバー側にダウンロードボタンが表示されます。「Settings」から「General」へ進むと、現在インストールされているバージョンと利用可能な最新バージョンを確認でき、そこからアップグレードを開始できます。AMD公式サイトから最新版のインストーラーを直接ダウンロードし、既存環境へ上書きアップグレードする方法も用意されています。Ryzen 5000シリーズ以降で3.1.1.5502より古いRyzen Masterを使用している場合は、最新版への更新を検討した方がよいでしょう。
Ryzen Masterを長期間更新しておらず、現在のバージョンが分からない場合は、AMD公式サイトから使用しているCPU世代に合った最新版を入れ直す方法もあります。既存バージョンからのアップグレードが正常に行えない場合は、Microsoftのインストール・アンインストール用トラブルシューティングツールやAMD Cleanup Utilityの利用も、AMD公式のユーザーガイドで案内されています。
旧世代Ryzen 3000シリーズは別系統のインストーラー
注意したいのがRyzen 3000シリーズです。AMDは現在、Ryzen MasterのダウンロードをRyzen 5000シリーズ以降とRyzen 3000〜4000シリーズで分けています。AMD-SB-9020では、Ryzen 3000シリーズ向けRyzen MasterについてCVE-2025-54512の対策バージョンを「2.14.3.5040」(2026年3月13日公開)としています。古いRyzenを利用している場合は、「3.1.1.5502を入れればよい」と考えるのではなく、AMD公式のRyzen Masterダウンロードページから自分のCPU世代に対応した最新版を取得するのが安全です。AMD公式サイトでは、Ryzen 5000シリーズ以降、Ryzen 3000〜4000シリーズ、Ryzen 2000シリーズ以前でダウンロードページが分かれています。
開発者向けRyzen Master Monitoring SDKも対象
AMD-SB-9020では通常のRyzen Masterだけでなく、「AMD Ryzen Master Monitoring SDK」も対象になっています。Monitoring SDKは、ソフトウェア開発者がRyzen CPUやメモリに関する監視機能を独自のユーティリティへ組み込むためにAMDが提供しているSDKです。こちらについてAMDは、CVE-2026-0465を3.1.1.5478、CVE-2025-54512を3.0.1.4732で対策したとしています。一般的なゲーミングPCユーザーがRyzen Master Monitoring SDKを直接インストールして利用するケースは多くありませんが、このSDKを使ったソフトウェアを開発している場合には確認が必要です。
対処法BIOS更新やチップセットドライバーでは直らない
今回のRyzen Master脆弱性へのAMDの対策は、BIOS更新ではなくRyzen Masterソフトウェアの更新です。CVE-2025-54512やCVE-2026-0465だけを対策する目的でマザーボードBIOSを更新する必要はありません。これは前述のfTPM脆弱性のように、AGESAやBIOS側の更新が必要な問題との大きな違いです。
Ryzen MasterとAMDチップセットドライバーも別のソフトウェアです。AMDはRyzen Masterを独立したユーティリティとして配布しており、セキュリティ情報でも対策としてRyzen Master自体のバージョンを指定しています。AMDチップセットドライバーだけを最新版へ更新しても、古いRyzen Masterが自動的に今回の対策済みバージョンになるとは考えない方がよいでしょう。Ryzen Masterをインストールしている場合は、Ryzen Master側のバージョンを直接確認してください。
判断すぐアンインストールする必要はない
CVE-2025-54512のCVSSが7.0のHighであることから、Ryzen Masterをすぐ削除した方がよいのではないかと考える人もいるでしょう。しかしAMDが案内している対策は、Ryzen Masterの使用停止ではなく修正版への更新です。CVE-2025-54512はローカルの低権限攻撃者による事前準備とユーザーによるインストール操作が必要で、CVE-2026-0465についてもローカルアクセスと高い権限が要求されています。「古いRyzen Masterが入っているだけで外部から即座にPCを乗っ取られる」という問題ではありません。
最新版へ更新できる環境なら、AMDが示す対策バージョンへ更新するのが適切です。一方、Ryzen Masterを現在まったく使っておらず、今後もPBOやCurve Optimizer、CPU監視などに使用する予定がない場合は、不要なソフトウェアを残しておく必要性もありません。特にCurve OptimizerやPBOの設定を行うために以前インストールし、その後ほとんど起動していないPCでは、古いバージョンが残っている可能性があるため一度確認しておくとよいでしょう。
FAQよくある質問
AMDが2026年8月11日に公開したAMD-SB-9020では、AMD Ryzen MasterにCVE-2025-54512とCVE-2026-0465の2件の脆弱性が存在することが明らかになりました。CVE-2025-54512はインストール処理におけるDLLハイジャックの問題で、低権限のローカル攻撃者が悪意あるDLLを事前に配置することで権限昇格や任意コード実行につながる可能性があります(CVSS 7.0・High)。CVE-2026-0465はRyzen Master Utility DriverのUse-After-Free脆弱性で、悪用されるとカーネルメモリへのアクセスを通じてクラッシュやサービス拒否につながる可能性があります(CVSS 5.6・Medium)。
Ryzen 5000シリーズ以降を利用している場合は、2026年7月22日公開の3.1.1.5502以降へ更新しておけば両方の対策バージョンを満たします。Ryzen 3000シリーズ向けにはCVE-2025-54512の対策として2.14.3.5040が示されているため、古いRyzenではCPU世代に対応したRyzen MasterをAMD公式サイトから取得してください。今回の問題はRyzen CPUそのものやBIOSの脆弱性ではありません。Ryzen Masterをインストールしているユーザーは、CPUやBIOSを変更するのではなく、まずRyzen Masterのバージョンを確認し、AMDが提供する最新版へ更新することが基本的な対策です。



