AIでゲーム保存は変わる?N64『スノボキッズ』を84日でデコンパイル|静的再コンパイルとPS5エミュの現在地【2026年】
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AIが削ったのはPCの性能の壁ではなく、人が解析にかける時間です
1997年にNINTENDO64で発売されたスノーボードレース『スノボキッズ』(海外名Snowboard Kids)が、84日で100%デコンパイルされました。デコンパイル(逆コンパイル)は、ゲームの機械語から人が読めるCのソースコードを組み立て直す作業です。作業にはAIのコーディングエージェントが使われ、10月2日にはWindows・macOS・Linuxで動く非公式の移植版『Snowboard Kids: Recompiled』も公開されています。
AIが変えたのは、古いゲームを動かすのに必要なPCの性能ではなく、人が関数を1つずつ読み解く時間です。ただし「AIで7倍速」ではありません。作業したChris Lewis氏は前作『スノボキッズ2』の解析で2年近く経験を積んでおり、その前作でも途中からAIを使っていました。古いコンパイラーに詳しい人たちの助けがなければ89〜90%で止まっていた、と本人が書いています。
AIの扱いは、プロジェクトによって正反対です。移植の土台になるN64Recompと『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』の移植版は生成AIのコードを一切受け付けず、『ウエーブレース64』の移植版はClaude Codeでコードを書いています。PS5エミュレータのKytyPS5は、人が理解・レビュー・テストすることを条件にAIを認めています。どの非公式移植版も、元のゲームデータを自分で用意しないと動かず、利用は推奨されません。
目次
要点AIとゲーム保存をめぐる2024〜2026年の動き
N64のゲームをPCで動かす取り組みは、2024年5月に静的再コンパイルのツール「N64Recomp」を使った『ムジュラの仮面』の移植版が出てから一気に広がりました。2026年に入ると、その解析や移植にAIを使う人と、使わないと宣言する人がはっきり分かれています。
| 時期 | 出来事 | AIとの関わり |
|---|---|---|
| 2024年5月 | 『Zelda 64: Recompiled』(ムジュラの仮面の移植版)公開 | 開発に生成AIを使わないと明言 |
| 2026年1月 | 『Banjo: Recompiled』(バンジョーとカズーイの大冒険の移植版)公開 | 同じく生成AIを使わない |
| 2026年4月 | 『パイロットウイングス64』のデコンパイルが74日で完了 | 専門家チームの速さの例として引き合いに出される |
| 2026年5月 | 『スノボキッズ2』のデコンパイルが596日で完了 | 途中からClaude・GLM・Codexを使用 |
| 2026年8月 | 『スノボキッズ』のデコンパイルが84日で完了 | 最初からAIエージェントを4並列で稼働 |
| 2026年9月 | 『ウエーブレース64』の移植版が初公開から約9日で1.0に | コードはClaude Codeで記述、指揮とテストは人 |
| 2026年10月 | 『Snowboard Kids: Recompiled』公開。AI主体の『バンジョーとカズーイの大冒険2』移植版に既存の開発者が反発 | AIの使い方をめぐる線引きが表に出た |
84日への短縮はAIだけの成果ではなく、経験・規模・道具の差も効いています。AIが大きく変えたのは、大量の関数を並行して試し、見つけたコツを共有する段取りです。そして同じN64の移植コミュニティでも、AIの扱いは全面禁止から全面活用まで割れています。
背景ゲーム保存は「ROMを残す」だけでは終わらない
ゲームは、データを残しても遊べるとは限りません。本や映像と違い、動かすにはCPU・GPU・OS・コントローラー、ゲームによってはオンラインのサーバーまで必要です。元のハードが壊れ、映像の出力端子も使えなくなれば、ROMやディスクのイメージが手元にあっても本来の形では動きません。
そもそも、昔のゲームを正規に買う手段はほとんど残っていません。Video Game History FoundationとSoftware Preservation Networkが2023年7月に公表した調査では、米国で2010年より前に発売されたゲームのうち、市販で手に入るのは13%でした。1985年より前の作品に限ると3%を切ります。
約390TBのゲームアーカイブ「Myrient」の閉鎖は、データを残す側の問題でした。もう半分は、残ったデータを将来のWindows・macOS・Linuxで動かせる状態に保つことです。そのための技術が、エミュレーション、デコンパイル、静的再コンパイルの3つです。
仕組みエミュレーション・デコンパイル・静的再コンパイルの違い
3つとも「昔のゲームを今のPCで動かす」ための技術ですが、何を作るかがまったく違います。
| 方法 | 何を作るか | 強み | 弱み |
|---|---|---|---|
| エミュレーション | 元のゲーム機のCPU・GPU・OSの動きを、PC上のソフトで再現する | 1つのエミュレータで多くのゲームを動かせる可能性がある | ハード固有の挙動を正確に再現する必要があり、世代が新しいほど重い |
| デコンパイル | 機械語から人が読めるCのソースコードを組み立て直す | ゲームの仕組みを読めるので、修正・移植・MODに使える | 作品ごとに数千の関数を解析する必要があり、人手と時間がかかる |
| 静的再コンパイル | 元のプログラムを丸ごとCのコードに機械的に変換し、PC向けにコンパイルし直す | ソースコードがなくても、PCでそのまま動く移植版を作れる | 対応するのは特定の作品の特定の版だけで、画面や入力まわりは作品ごとに手直しが要る |
N64Recompは、N64のプログラムをCのコードに変換するツールです。命令を1つずつ、ほぼそのままCの文に置き換え、出来上がったコードを今のPC向けにコンパイルします。N64本体をPCの中にまるごと作るエミュレータとは違い、特定のゲームを、PCで普通に動くアプリに作り替えます。ただし、画面の描画や音声の処理は実行環境(N64ModernRuntime)と描画エンジン(RT64)が受け持っており、ハードの再現がまったく要らないわけではありません。
見落とされやすいのは、静的再コンパイルにはデコンパイルのソースコードが要らない点です。『Snowboard Kids: Recompiled』の説明書きも、デコンパイルで得たソースを元にした移植ではないと明記しています。それでもデコンパイルで分かったゲームの中身は改良を入れる手がかりとして欠かせず、ゲームに手を加えるためにデコンパイルのヘッダーや一部の関数を使っているとしています。
3つの技術の関係でもう1つ面白いのは、デコンパイルに欠かせないSGIの古いコンパイラー「IDO」自体が、静的再コンパイルで今のPCに移されて使われていることです。N64Recompの作者は、このIDOの再コンパイルを開発のいちばんの手本にしたと書いています。
解析日数596日から84日へ、ただし「AIで7倍速」ではない
Lewis氏は2026年8月26日(米国時間)、『スノボキッズ』のデコンパイルが100%に達したと発表しました。ここでいう100%は「似た動きをするCコードを書いた」ではありません。組み立て直したCコードを当時と同じ条件でコンパイルすると、元のゲームとまったく同じ機械語になるところまで合わせた、という意味です。システムライブラリのうち、もともと手書きのアセンブリだったわずかな部分だけは、そのまま残っています。
| 作品 | デコンパイル完了までの日数 |
|---|---|
| スノボキッズ2 | 596日 |
| スノボキッズ | 84日 |
| パイロットウイングス64 | 74日 |
経過日数だけなら、前作の約7分の1です。ただしLewis氏は「差をすべてLLMのおかげにするのは、ひどい単純化だ」と書いています。条件の違いは次の表のとおりです。
| 作品 | 関数の数 | 解析の期間 | AIの使い方 |
|---|---|---|---|
| スノボキッズ2 | 2,995 | 2024年9月28日〜2026年5月17日 | 途中からClaude・GLM・Codexを使用。2026年2月にはAIを使っても約75%で行き詰まっていた |
| スノボキッズ | 2,145 | 2026年5月28日〜8月19日(本人の集計で84日) | 最初から最新のモデルとAIエージェントの仕組みを用意 |
| パイロットウイングス64 | 1,791 | 2026年1月26日〜4月10日 | Lewis氏が「専門知識を持つ人のチーム」の例として挙げた |
1つ目の違いは、作業者の経験です。Lewis氏は前作で2年近く同じ種類の作業をしており、始めた頃よりはるかに速くなっていたと書いています。2つ目は規模で、関数の数は前作より約3割少なくなっています。3つ目は道具で、AIの仕組みも解析ツールも前作の途中より格段に整っていました。
比較の物差しとして挙げられているのが『パイロットウイングス64』です。こちらは74日で完了しました。関数の数は『スノボキッズ』より16%少ない一方、コンパイル後のコード量は約838KBで、約732KBの『スノボキッズ』より多くなっています。Lewis氏は、適切な専門知識を持つ人のチームなら、今回の速さに並ぶか上回れるとしています。84日という数字だけで「AIのほうが人より速い」とは言えません。
AIの使い方AIは関数を書くだけでなく、解析の段取りを並列にした
それでも、『スノボキッズ』でのAIの使い方を見ると、ゲーム解析の進め方が変わったことは分かります。AIに関数を1つずつ渡してCコードを書かせただけではなく、作業の割り振りと知識の共有まで仕組みにしていました。
人に置き換えると、1人が順番にコードを読むのではなく、4人の担当者が別々の関数を同時に解き、「このコンパイラーではこう書くとこの命令列になる」というメモを共有ノートに書き足していく形です。AIの価値は、コードを1本書けることより、大量の試行錯誤を並列にし、その結果を次の試行に生かせることにあります。
使ったモデルについても記録があります。Lewis氏はGPT-5.5と5.6、Claude 4.5とFable、GLM 5.2を試し、本人も「まったく科学的ではない」と断ったうえで、全体としてはCodexがClaudeを上回ったと書いています。GLMは応答の遅さから途中で使うのをやめました。
限界最後の約1割は、古いコンパイラーを知る人が解いた
この事例は、AIの限界もはっきり示しています。前作の『スノボキッズ2』は広く使われているGCC 2.7.2でコンパイルされていましたが、『スノボキッズ』はSGIのIDO 5.3でした。IDOはSGI独自のコンパイラーで、ソースは公開されておらず、当時の開発環境も今はないSGIのワークステーションに結びついています。
IDOは最適化とコード生成を複数の段階に分け、そのたびにコードを大きく組み替えます。そのため、Cコードを少し書き換えただけで、レジスタの割り当てががらりと変わります。処理の中身は正しいのに、元の機械語と一致しない状態が起きやすいのです。Lewis氏は「LLMも自分も、IDOの出力を再現するのはあまり得意ではない」と書いています。
Git履歴を振り返った本人の集計では、専門家の手を借りて一致させた関数はおよそ41件で、関数を一致させる作業のコミットの約4.8%でした。数字だけなら小さく見えます。それでもLewis氏は、IDOに詳しい3人の協力者がいなければ、うまくいっても89〜90%付近で止まっていただろうとしています。
AIが簡単な9割を速く片付けても、最後の1割で全体が止まる。AIでコードを書く場面では珍しくない構図ですが、30年前のコンパイラーの癖まで再現する作業では特に目立ちます。
また、100%のデコンパイルは「ゲームの中身を100%理解した」という意味ではありません。自動で付けた関数名の置き換え、正体の分からない構造体の項目、大量のデータの意味づけなど、整理の作業はまだ大量に残っているとLewis氏は書いています。
移植版完了から約1か月半で、現行PCで動く移植版が出た
デコンパイルの最後の関数が一致したのは8月19日でした。10月2日には、N64Recompで作った移植版『Snowboard Kids: Recompiled』がWindows・macOS・Linux向けに公開されています。Linux版はFlatpakでも配布され、Steam Deckでも動きます。
主な追加要素は、ワイド画面・ウルトラワイドへの対応、モニターのリフレッシュレートに合わせた高フレームレート、キー割り当ての変更、MODの導入です。2人対戦の画面を縦割りと横割りから選べる、最大4人のローカル対戦にも対応しました。セーブは移植版が直接扱うため、仮想のコントローラパックを管理する手間もありません。参考用に、オープニングを飛ばすMODや、全要素を最初から解放するMOD、CPUが不自然に追いついてくる仕組みを外すMODも同梱されています。
フレームレートを上げても、ゲームの進み方は変わりません。古いハードを再現するのではなくPC向けのプログラムとして動くので、ロード時間もほぼなくなります。
| 項目 | 条件 | 補足 |
|---|---|---|
| GPU | Direct3D 12(Shader Model 6)、Vulkan 1.2、Metal(Argument Buffers Tier 2)のいずれかに対応 | 目安はGeForce GT 630、Radeon HD 7750(2012年のモデル)、Intel HD 510以降 |
| CPU | x86-64ならSSE4.1対応 | Core 2のPenryn世代、AMDはBulldozer以降。ARM64版はARM64のCPUなら動作 |
| Mac | Apple シリコン、または第7世代Intel CPU+macOS 13.0以降 | — |
| ROM | 北米版のN64ソフトのROMだけに対応 | ゲームデータは同梱されない。日本版や欧州版は読み込めない |
必要な性能は低く、10年以上前のGPUでも条件を満たします。ここでも、ボトルネックが性能ではないことが分かります。
今回取り上げた移植版はどれも任天堂の許諾を得たものではなく、ゲームデータを含みません。遊ぶには特定の版のROMを自分で用意する必要があり、その入手方法によっては権利の侵害になり得ます。動かせることと、使ってよいことは別の問題です。
AI主体『ウエーブレース64』はClaude Codeで書かれたPC移植版
AIへの任せ方をさらに進めたのが『Wave Race 64: Recompiled』です。コードはAnthropicのClaudeがClaude Code上で書き、Daniel Gomes Vieira氏が方針の決定とプレイでの確認を担いました。こちらもN64Recompで『ウエーブレース64』のプログラムをCに変換し、PCで直接動かしています。
開発の速さも際立ちます。最初の公開版0.1.0が出たのは9月4日で、当時はWindows版だけでした。そこからワイド画面、MOD対応、Linux・macOS版、新しい水面の描画を足し、約9日で1.0.0に達しています。
中身も単なる移植ではありません。ワイド画面、視野角45〜110度の設定、水平線まで描く描画距離、反射や波しぶきまで描き直す新しい水面の描画(切り替え可能)、原作になかったコントローラーの振動に対応しました。高フレームレートは、ゲーム本体の30Hz(メニューとタイムトライアルは20Hz)を保ったまま、物の動きを補間して表示する仕組みです。
ただし、AIだけで出来上がったわけではありません。土台のN64Recompと実行環境、描画エンジンのRT64、メニュー部品のRecompFrontendはいずれも人が作ったものです。関数名などは有志による『ウエーブレース64』のデコンパイルから借りており、謝辞には新しい水面の描画やmacOS対応に関わった人の名前も並びます。AIは人が長年積み上げた道具と解析結果の上で、移植作業を組み立てたというのが実態です。
Vieira氏は9月中旬に、同じくAIで書いた『パイロットウイングス64』の移植版も公開しました。こちらは北米版のROMが必要で、Windows版とLinux版があります。
反発N64Recompとゼルダ・バンジョーの移植版は生成AIを禁止
同じN64の再コンパイル界隈でも、AIの扱いは一致していません。N64Recompのコントリビューションガイドは、ChatGPT・Claude・Copilotなどで生成したコードの提供を禁じています。挙げている理由は次の3つです。
- AIが生成したコードは出どころが分からず、プロジェクトのライセンスと両立しない恐れがある
- AIは不具合の原因を理解しているとは言えず、誤った修正で別の不具合や保守できないコードを生んできた
- N64の挙動を正確に再現するには、仮説を立てて単体のテストで1つずつ確かめる必要がある。AIは1つのゲームを動かすために強引な修正を入れ、ほかのゲームを壊す傾向がある
3つ目は、ツールが多くのゲームの土台になっているからこその理由です。1本の移植版なら、そのゲームが動けば済みます。しかし土台に場当たりの修正が入れば、それを使うすべての移植版に影響が及びます。
『Zelda 64: Recompiled』と『Banjo: Recompiled』は、さらに踏み込んでいます。どちらも、開発のどんな目的にも生成AIを使ったことはなく、今後も使わない方針を掲げています。生成AIを少しでも使った貢献は一律に禁止で、開発中の『時のオカリナ』対応にも同じ方針が適用されます。
8月30日(日本時間)に公開された『ドンキーコング64』の移植版『DK64 Rekongpiled』も、公開の告知で「生成AIは工程のどこでも使っていない」と明言しました。Windows・Mac・Linuxで動き、こちらもROMは自分で用意する形です。AIを使っていないことを、わざわざ告知に書く移植版が出てきています。
この線引きが表に出たのは10月初め、『バンジョーとカズーイの大冒険2』の移植版をめぐってでした。作者は説明書きで「コードのかなりの部分をAIが生成し、設計とレビューも支援した。自分の役割は開発の指揮、プレイ、動作の確認」と開示しています。『Banjo: Recompiled』とは無関係だという断り書きも付けています。
RT64の開発者で、『Zelda 64: Recompiled』『Banjo: Recompiled』に関わるDarío氏は、10月2日(日本時間)にBlueskyで「この移植版は我々とは無関係で、すべてAIで生成されたものだ」と注意を呼びかけました。チームが以前から『大冒険2』の移植に関心があると公表してきたことにも触れ、「きちんと移植するには多くの手間と愛情が要る」と続けています。
| プロジェクト | AIの扱い | 条件・理由 |
|---|---|---|
| N64Recomp(ツール本体) | 生成したコードの提供は禁止 | ライセンスの不明確さ、回帰、ハード再現の検証の難しさ |
| Zelda 64・Banjo: Recompiled | 開発のどんな目的にも使わない | 生成AIを使った貢献は一律に禁止 |
| DK64 Rekongpiled | 工程のどこにも使っていない | 公開の告知で明言 |
| スノボキッズのデコンパイル | AIエージェントを全面的に活用 | 難所はIDOに詳しい協力者が解いた |
| Wave Race 64: Recompiled | コードはClaude Codeで記述 | 方針の決定とプレイでの確認は人 |
| 大冒険2のAI移植版 | コードのかなりの部分をAIが生成 | 説明書きでAIの利用を開示 |
| KytyPS5(PS5エミュ) | 調査・解析・開発の補助に使ってよい | 提出者がコードを理解・レビュー・テストし、AIを使った範囲を開示 |
| SharpEmu(PS5エミュ) | コード生成を含め歓迎 | 提出したコードをすべて自分で説明・修正できること |
AIを使えば解析や移植は速くなります。しかし、速く作ることと、10年後も別の人が直せる正確なコードを残すことは同じではありません。ゲーム保存の目的が後者にある以上、この対立はしばらく続きそうです。
現行機PS5エミュは、現役のうちに挙動を記録する作業でもある
発売中のPS5のゲームを動かそうとするエミュレータも、保存という視点で見ると意味が変わります。KytyPS5は、2Dのゲームと一部の3Dのゲームを起動できる段階です。10月6日時点の互換性リストには284タイトルの報告があり、ゲーム本編まで進んだのが143、メニューまでが39、ロゴまでが52、起動しないものが50でした。
ただし「ゲーム本編まで進んだ」は、快適に遊べるという意味ではありません。KytyPS5の説明書きも、クラッシュや表示の乱れが起こり得るとしています。9月末に話題になった『Marvel’s Wolverine』の描画も、公式のビルドではなく個人のビルドでの結果でした。
それでも、20〜30年後にPS5本体が壊れ始めてから一から調べるより、実機と調べる人がそろっている今のうちに、ハードやOS、GPUへの命令の扱いを解き明かしておくほうが有利です。エミュレータを作る作業そのものが、ハードの挙動を記録する作業になっています。
AIの扱いでは、KytyPS5とSharpEmuはどちらも禁止せず、人が責任を持つことを条件にしています。KytyPS5はさらに、Issueやプルリクエストでのやり取りを自律的なAIエージェントではなく人が行うよう求めています。全面禁止と全面活用の間にある、1つの現実的なルールです。
保存の層残すべきものは「データ」「動かす仕組み」「サーバー」「知識」
同じ「ゲーム保存」という言葉でも、解決しようとしている問題は層ごとに違います。
| 残すもの | 失われると | 2026年の動き |
|---|---|---|
| ゲームのデータ | 遊ぶための元がなくなる | 約390TBのアーカイブ「Myrient」が閉鎖 |
| 動かす仕組み | データがあっても動かない | N64Recompによる移植版、KytyPS5などのPS5エミュ |
| オンラインサービス | 買ったゲームが起動しない、遊べない部分が出る | Stop Killing Gamesの運動 |
| 仕様と開発の知識 | 直すことも別の環境へ移すこともできない | デコンパイル、AIが書き足した解析ノート |
データを残しても、動かす技術がなければ遊べません。逆に完璧なエミュレータがあっても、データやサーバー側のプログラムが失われれば元には戻りません。常時オンラインのゲームは、クライアントだけ残しても全体を戻せない可能性があります。オンラインサービスの終了をめぐる動きはStop Killing Gamesの法制化見送りの経緯で詳しく扱っています。
AIが力を発揮し始めたのは、このうち「動かす仕組み」と「知識」の層です。失われたソースコードを組み立て直し、移植版を作る部分の手間を大きく減らしています。
読者別遊ぶ人・作る人にとって何が変わるか
Q&AAIとゲーム保存についてよくある疑問
まとめまとめ|AIはゲーム保存を自動化しないが、手の届く作品を増やす
『スノボキッズ』は84日で100%デコンパイルされ、その約1か月半後には現行PCで動く移植版が公開されました。『ウエーブレース64』では、Claude Codeで書いた移植版が9日ほどで1.0に達しています。一方で、N64Recompやゼルダ・バンジョーの移植版は生成AIを締め出し、品質と保守性を理由にAI主体の移植版へ反発しています。
2026年の時点で、AIがゲーム保存を自動化したとは言えません。最後の難所は人の専門知識で解かれ、100%のデコンパイルの後にも整理の作業が残っています。ライセンスや保守性という新しい問題も生まれました。
それでも、数千の関数を1つずつ解く時間という、これまでいちばん高くついていた費用の多くを、AIエージェントに並行して振り分けられるようになりました。商業的な価値が小さく、誰かが何年もかけなければ解析されなかったゲームにも、手が届く可能性が広がっています。
古いゲームを動かす壁は、PCの性能から解析にかかる人の時間へ移り、AIはその時間を削り始めています。ただし難所を解くのは今も人で、AIの使い方はプロジェクトごとに禁止から全面活用まで割れています。非公式の移植版やエミュレータの利用は推奨されないため、遊ぶなら公式の復刻を先に探してください。
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出典:Chris Lewis「Decompiling a Nintendo 64 Game in 84 Days」(2026年8月26日)/Chris Lewis「Introducing Snowboard Kids: Recompiled」(2026年10月2日)/Chris Lewis「The Long Tail of LLM-Assisted Decompilation」(2026年2月)/GitHub Snowboard Kids: Recompiled/GitHub N64: Recompiled(README・CONTRIBUTING)/GitHub Zelda 64: Recompiled/GitHub Wave Race 64: Recompiled/GitHub Banjo-Tooie Independent PC Recompilation/Darío氏のBluesky投稿(2026年10月2日)/DK64 Rekongpiledの公開告知(2026年8月30日)/GitHub KytyPS5(10月6日取得)/Video Game History Foundation「87% Missing」(2023年7月)




