SSDのSLCキャッシュ切れとは?大容量ゲームを移動すると速度が急落する理由とサーマルスロットリングの見分け方【2026年版】
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大容量ゲームを移動すると速度が急落する理由
出典:Kingston公式(SSDキャッシュの仕組み)、Samsung公式(980 PROデータシート)にもとづきます。本記事の情報は2026年8月15日時点のものです。
「PCIe 4.0 SSDなのに遅すぎる」「SSDが故障したのでは」。大容量ゲームをSSD間で移動しているとき、途中から急に転送速度が落ちるとそう感じやすくなります。この現象の代表的な原因の一つがSLCキャッシュ切れです。現在の多くのコンシューマー向けSSDは、NANDの一部を高速なSLC相当として動作させ、書き込みデータをいったん受け止める仕組みを採用しています。
普段のゲームインストールや小容量ファイルの保存ではこのキャッシュ内で処理が終わるため、高速な公称書き込み速度を体感しやすくなります。しかし100GB・200GBといった大型ゲームを別SSDへ移動すると、短時間でキャッシュを使い切り、TLCやQLC NANDへ直接書き込む必要が生じて速度が大きく下がることがあります。
この記事では、SLCキャッシュ切れで速度がどこまで下がるのか、容量によって下がり方が違う理由、そしてサーマルスロットリングやコピー元のボトルネックなど紛らわしい別原因との見分け方を中心に整理します。SLCキャッシュそのものの詳しい仕組みは、SSDの空き容量とゲーム性能を解説した既存記事でも扱っています。
目次
要点まず何を確認すればいいか
基本SLCキャッシュとは?NANDの一部を一時的に高速化する仕組み
SLCはSingle-Level Cellの略で、NANDフラッシュの1つのセルへ1bitの情報を保存する方式です。現在の一般向けSSDでは1セルへ3bit保存するTLC、4bit保存するQLCが主流ですが、Kingstonは、bit数が増えるほど記録密度は高まる一方、SLCは1bitしか書き込まないぶん高速だと説明しています。そこでTLC・QLC SSDの多くは、NANDの一部を一時的にSLC相当として動作させる「SLCキャッシュ(pSLCキャッシュ)」を備えています。SamsungはこれをIntelligent TurboWriteとして実装しており、まずSLCバッファへ高速に書き込み、SSDがアイドルのタイミングでTLC・QLC本来の領域へデータを移動すると説明しています。
つまりSLCキャッシュは、SSDの入り口に用意された高速な一時保存領域です。ゲームを移動するとき、転送開始直後はこのキャッシュに空きがあるため高速に書き込めますが、書き込み量がキャッシュ容量を超えると、TLC・QLCへ直接書き込む持続書き込み性能へ切り替わり、速度が下がります。
持続性能公称速度と持続書き込み速度は別物
SSDの商品ページに「最大7,000MB/s」と書かれていても、その速度でSSD全容量を書き続けられるという意味ではありません。公称シーケンシャル書き込み速度は、メーカーが定めたテスト条件での最大値です。Samsung 990 PROの公式データシートでも最大書き込み速度6,900MB/sはIntelligent TurboWrite有効時の数値とされ、TurboWriteは特定のデータ転送サイズ内で動作すると注記されています。日常用途では最大速度が体感を左右しますが、100GB以上のゲーム移動では、SLCキャッシュを使い切った後にどれだけの速度を維持できるかのほうが重要になります。
容量差同じシリーズでも容量によってキャッシュ終了後の速度が大きく違う
キャッシュ切れでどこまで速度が下がるかはSSDによって大きく異なり、「必ず500MB/sになる」といった共通値はありません。分かりやすい例がSamsung 980 PROです。公式データシートによると、Intelligent TurboWrite領域終了後のシーケンシャル書き込み速度は、250GBモデルで最大500MB/s、500GBモデルで最大1,000MB/s、1TBモデルで最大2,000MB/sとされています。
そのためSSDレビューやスペック表を見るときは、シリーズ名だけでなく容量まで確認する必要があります。「2TBモデルのレビューが高速だったから500GBも同じ」とは限りません。
NAND種別TLCとQLCで速度低下の見え方が違う
QLCは1セルへ4bit記録するため大容量SSDを安価に作りやすい一方、SLC相当の状態から本来のQLC状態へ書き込む処理に時間がかかります。QLCを採用するSolidigm 670pについて、Solidigmは1セルにSLCの4倍のデータを記録するため書き込みに時間がかかり、性能を高めるためNANDの一部をSLC相当のダイナミックキャッシュとして使うと説明しています。そのためQLC SSDでは、キャッシュ内とキャッシュ終了後の速度差が大きく見える製品があります。ただし「QLCは全部遅い」とも言い切れません。TLC SSDでもSamsung 990 PROのようにIntelligent TurboWriteを使う製品があり、SLCキャッシュ切れ自体はTLC・QLC問わず起こり得ます。高性能なTLC SSDではキャッシュ終了後のネイティブ書き込み性能も高く、速度低下が比較的小さい製品もあります。
温度サーマルスロットリングとの見分け方
大容量転送中の速度低下には、SLCキャッシュ以外にもう一つ代表的な原因があります。SSDの温度です。高性能NVMe SSDは長時間の連続書き込みで発熱します。Samsungは、数百GB規模の高負荷データ転送ではSSDを保護するためDynamic Thermal Throttlingによって性能を抑える場合があると公式に説明しています。Kingstonも、NVMe SSDが高温になるとサーマルスロットリングが働き、長時間の高負荷処理で目に見える性能低下が起こり、温度が安全な範囲へ戻れば速度も回復すると説明しています。
200GBのゲームを高速NVMe SSDへ転送すると、キャッシュへの書き込み中にSSD温度も上昇します。キャッシュを使い切る頃にはSSDが高温になっている可能性もあり、キャッシュ切れによる低下と温度による制限を同時に受けることがあります。「100GB書いたところで遅くなった」という情報だけでキャッシュ切れと断定せず、SSD温度や公式仕様もあわせて確認してください。
転送元コピー元SSDがボトルネックだとキャッシュ切れは見えない
コピー速度はコピー先SSDだけでは決まりません。書き込み先が最大7,000MB/s級のNVMe SSDでも、コピー元がSATA SSDなら読み出し速度が先にボトルネックになります。SATA IIIはインターフェースが6Gb/sで、KingstonはSATA III SSDについてオーバーヘッド後のスループットは最大約550MB/sと説明しています。この場合、コピー先SSDのキャッシュ終了後性能が700MB/sあっても、コピー元SATA SSDの方が遅いためキャッシュ切れによる速度低下は表面化しません。反対に高速NVMe同士なら、コピー先SSDのキャッシュ終了後性能がそのまま体感速度に表れやすくなります。
世代PCIe 4.0なのに遅くても規格の故障とは限らない
PCIe 4.0 x4のNVMe SSDなのに途中から500MB/sになると「SATA並みだからリンクがおかしい」と考えやすくなります。しかしPCIe 4.0 x4はSSDとPCを結ぶインターフェース側の帯域であり、SSD内部のNANDが常にその帯域いっぱいに書き込めることを保証するものではありません。実際、Samsung 980 PRO 250GBはPCIe 4.0 x4対応ながらTurboWrite終了後の書き込みは最大500MB/sという公式仕様です。速度が落ちたときは「PCIe 4.0なのに遅い」ではなく「そのSSDのキャッシュ終了後性能として正常か」を確認するのが先決です。なお、SSDがそもそもPCIe 3.0(Gen3)相当でしかリンクしていない場合は、キャッシュとは別問題としてスロットやBIOS設定を確認する必要があります。この切り分けはPCIe 4.0 SSDがGen3で動作する原因を解説した記事で詳しく扱っています。
構成同じSSD内での移動と別ドライブ間コピーは条件が違う
同じ物理SSD内でフォルダの場所を変えるだけの操作は、実データをすべて読み書きし直さない場合があります。一方、同じ物理SSDを複数パーティションに分けてその間でコピーする場合などは、1台のSSDが読み込みと書き込みの両方を担当するため、SSD Aから SSD Bへ一方向に転送する場合とは負荷条件が異なります。SLCキャッシュ切れの挙動を正確に確認したいなら、コピー元とコピー先が別の物理ドライブである方が動作を理解しやすくなります。
診断再現性で切り分ける
SLCキャッシュ切れを疑うときは再現性を確認すると分かりやすくなります。SSDを十分にアイドル状態にしたあと同程度の大容量データを書き込み、毎回似た書き込み量で速度が一段下がるなら、キャッシュ容量との関係を疑いやすくなります。
また、SLCキャッシュを使い切った直後にコピーを止めてすぐ再開しても、最高速度へすぐ戻らないことがあります。SLC領域を再び使うには、キャッシュ内のデータをTLC・QLCへ移動して空きを作る必要があるためです。Samsungも、TurboWriteのキャッシュデータはSSDが読み書きしていないタイミングで多ビットセルへ移動すると説明しています。速度確認をするなら、大容量コピーの後は少しアイドル時間を置いてから再度試すと判断しやすくなります。
改善策空き容量を増やすと改善する場合もある
SSDによっては、空いているNAND領域を利用してSLCキャッシュを動的に拡大する方式を採用しています。この場合、SSDの空き容量が少ないほど動的キャッシュに使える余裕も小さくなり、以前より早くキャッシュ切れが起こることがあります。空き容量とSLCキャッシュ・TRIM・Garbage Collectionの関係については、SSDの空き容量とゲーム性能を解説した既存記事で容量別の目安まで詳しく整理しています。SSDがほぼ満杯で以前よりキャッシュ切れが早くなったと感じる場合は、まずそちらを確認するとよいでしょう。
判断SLCキャッシュ切れならSSDを交換する必要はない
SLCキャッシュを使い切ったあと、メーカーの想定範囲の持続速度へ下がっているだけなら、それはSSDの故障ではなく設計通りの動作です。ゲームをインストールしたあとは問題なく高速に読み込めており、大容量ゲームを別SSDへ移す数分間だけ速度が落ちるのであれば、そのまま使い続けて困らないケースが多いでしょう。反対に、毎日のように数百GBのデータを移動するなら、持続書き込み性能の高いTLC SSDへの変更を検討する価値があります。ゲームをプレイするだけの用途では読み込み中心になるため、SLCキャッシュ切れの影響はゲーム移動時ほど大きくありません。
Q&Aよくある質問
総括まとめ|途中から急落しても再現性があれば故障ではない
大容量ゲームをSSD間で移動したとき、最初は数GB/s出ていた書き込み速度が途中から数百MB/sまで急落しても、すぐSSD故障とは判断できません。多くのコンシューマーSSDはNANDの一部をSLC相当として使うキャッシュで短時間の書き込み性能を高めており、書き込み量がキャッシュを超えると持続書き込み性能へ移行して速度が下がります。その低下幅はSSDごと、さらに同じシリーズでも容量ごとに異なります。
一方で、大容量転送中の速度低下にはサーマルスロットリングやコピー元ドライブのボトルネックなど別の原因もあり、キャッシュ切れと同時に起こることもあります。毎回ほぼ同じ書き込み量で速度が落ち、アイドル時間を置くと再び高速に戻るなら、SLCキャッシュの動作と整合する可能性が高い状況です。転送開始直後から遅い、温度上昇とともに徐々に遅くなるといった場合は、キャッシュ以外の原因もあわせて確認してください。
大容量ゲーム移動中の速度急落は、SLCキャッシュ切れという設計通りの動作である場合が多く、必ずしもSSD故障ではありません。Samsung 980 PROでは容量によってキャッシュ終了後の速度が250GB=500MB/s・500GB=1,000MB/s・1TB=2,000MB/sと大きく異なります。毎回同じ位置で速度が落ちるならキャッシュ切れ、温度上昇とともに徐々に落ちるならサーマルスロットリングを疑い、転送開始直後から遅い場合はコピー元ドライブやPCIeリンク速度を確認してください。



