ValveがWindows向けRadeonドライバー「RADV」を開発支援|AMD Adrenalinの代わりになるか現状を解説
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Counter-Strike 2の動作に成功、AMD Adrenalinの代わりになるのか
Valveの支援を受け、Linuxで広く使われているAMD GPU向けオープンソースVulkanドライバー「RADV」をWindowsへ移植するプロジェクトが進められています。
開発を担当するCollaboraは、Windows上でRADVを使って『Counter-Strike 2』を動作させることに成功したと2026年7月28日に発表しました。
LinuxやSteam Deckではすでに実績のあるRADVがWindowsでも利用できるようになれば、Radeonのゲーム不具合を修正しやすくなり、WindowsとLinuxで共通のドライバー基盤を利用できる可能性があります。
ただし、現在のWindows版RADVは実験段階です。AMD Software: Adrenalin Edition全体を置き換えるものではなく、一般のRadeonユーザーがすぐに導入できる完成品でもありません。
ValveはなぜWindows向けのAMDドライバー開発を支援しているのでしょうか。Windows版RADVの仕組みと、Radeon環境へ与える可能性のある影響を、公式発表をもとに整理します。
本記事はCollabora公式ブログおよびMesa公式ドキュメントの掲載情報を基準に作成しています(2026年7月30日確認)。開発は実験段階であり、内容は今後変更される場合があります。
今回分かったのは、Windows版RADVで実際のPCゲームが動いたという技術的な到達点です。AMD Adrenalinが不要になる、性能が上がるという段階ではなく、一般のRadeonユーザーは引き続きAMD公式ドライバーを使うのが基本です。
目次
要点Windows版RADVで『Counter-Strike 2』が動作
オープンソースソフトウェア開発企業のCollaboraは、AMD GPU向けVulkanドライバー「RADV」をWindowsへ移植する取り組みを進めています。
今回のプロジェクトでは、コマンドストリーム処理や同期機能を改善したほか、スパースバインディング、テッセレーション、タスクシェーダー、GPU情報の動的取得などに対応しました。
その結果、Windows上のRADVで初めて実際のPCゲームを動作させることに成功しています。選ばれたゲームはValveの『Counter-Strike 2』で、起動オプションに「-vulkan」を指定し、Vulkanレンダラーを使用して実行されました。
検証には主にRadeon RX 7900 XTが使われています。
一方で、Collaboraは現在のWindows版RADVについて、Vulkan規格への適合が完了していないことも明記しています。テストの成功率は大きく向上したものの、幅広いゲームを安定して動かせる段階には達していません。
今回確認されたのは「Windows版RADVでCS2が動いた」という技術的な到達点であり、既存のAMD公式ドライバーより高いフレームレートが出た、スタッターが減ったといった性能比較はまだ公開されていません。
RADVとはSteam Deckでも使われるオープンソースVulkanドライバー
RADVは、AMDのGCNおよびRDNA世代のGPUに対応するオープンソースのVulkanドライバーです。
Vulkanは、ゲームや3DアプリケーションからGPUを利用するためのグラフィックスAPIで、Windowsで広く使われるDirectX 11やDirectX 12と同じように、ゲームとGPUの間をつなぐ役割を持っています。
RADVは「Mesa」と呼ばれるオープンソースのグラフィックス基盤に含まれており、多くのLinuxディストリビューションで標準的なAMD向けVulkanドライバーとして採用されています。
Valveの携帯型ゲーミングPC「Steam Deck」もAMD製APUを搭載しており、VulkanドライバーとしてRADVを使用しています。
RADVが対応するのは、Radeon RX 7000シリーズやRX 9000シリーズのような新しいGPUだけではありません。
Mesaの公式資料によると、Linuxカーネル側で対応しているGCNおよびRDNA世代のグラフィックス対応GPUが対象となり、GCN 1世代からサポートされています。
Linuxゲーミングに詳しくないユーザーには馴染みの薄い名前ですが、Steam Deckを含むAMDベースのLinuxゲーム環境では、すでに重要な役割を担っているドライバーです。
背景AMDもLinux向けVulkanドライバーをRADVへ一本化
AMDは以前、Linux向けのオープンソースVulkanドライバーとして「AMDVLK」も開発していました。
AMDVLKはAMDのPlatform Abstraction Library、通称PALを基盤としており、RADVとは異なるコードベースで開発されていました。
しかしAMDは2025年9月、Linux向けVulkanドライバー戦略を一本化するため、AMDVLKプロジェクトを終了すると発表しました。
AMDはRADVをRadeon向けの公式サポート対象となるオープンソースVulkanドライバーに位置付け、今後はRADVへ注力する方針を示しています。AMD Software for Linuxの新しいドライバーパッケージでも、AMDVLKに代わってRADVが標準でインストールされるようになっています。
つまりRADVは、単なる有志開発の代替ドライバーではありません。LinuxにおけるAMDのVulkan環境そのものが、RADVを中心とした構成へ移行しています。
もっとも、Windows版RADVについてAMDが正式な製品化を発表したわけではありません。今回の移植を進めているのはCollaboraであり、その開発段階をValveが支援しています。
誤解注意Windows版RADVはAMD Adrenalin全体を置き換えない
Windows版RADVについて、もっとも誤解しやすいのが「AMD Software: Adrenalin Editionが不要になるのか」という点です。
結論からいえば、現在開発されているRADVはAMDのWindowsドライバー全体を置き換えるものではありません。
現代のGPUドライバーは、大きくユーザーモードドライバーとカーネルモードドライバーに分かれています。
ユーザーモードドライバーは、VulkanやDirectXなどのAPIから受け取った処理をGPUが理解できる命令へ変換し、シェーダーのコンパイルやコマンドの作成を担当します。
カーネルモードドライバーは、GPUとの低レベルな通信、電力管理、VRAM管理、ディスプレイ出力などを担当します。RADVは、このうちVulkanを実装するユーザーモード側のドライバーです。
今回のWindows版RADVも、AMDの公式Windowsカーネルドライバーを残したまま、その上でオープンソースのRADVを動かす構成になっています。
したがって、Windows版RADVが完成しても、AMD Adrenalinに含まれるDirectXドライバー、ディスプレイ設定、録画機能、ゲームごとのプロファイル、ファン制御、オーバークロック機能までRADVが置き換えるわけではありません。
少なくとも現在のプロジェクトは、「AMDのWindowsドライバーをすべてオープンソース化する」という取り組みではなく、「Windowsで利用するVulkan実装をRADVへ置き換えられるようにする」試みです。
課題最大の壁はAMD公式カーネルドライバーとの接続
Windows版RADVの実用化における最大の障害は、RADVとAMDの公式カーネルドライバーを安定して接続する方法です。
Windows 10以降では、ユーザーモードドライバーとカーネルモードドライバーが通信するためのWDDM 2系インターフェースが整備されていますが、実際の通信にはメーカー独自の非公開データが含まれます。
Collaboraによると、AMDのユーザーモードドライバーとカーネルモードドライバーは組み合わせを前提に提供されており、非公開のデータ構造に後方互換性は保証されていません。
AMDが公式ドライバーを更新し、内部のデータ構造を変更すると、それまで動いていたWindows版RADVが突然利用できなくなる可能性があります。
現在は、AMD公式Vulkanドライバーの動作を記録し、通信内容を解析することでRADVを動かしています。しかし、非公開仕様の解析に依存する限り、一般ユーザー向けドライバーとして長期間安定運用するのは困難です。
Collaboraは実用化に向け、AMDが安定したインターフェースを文書化するか、非公開データの変化を吸収する中間ライブラリが必要になると説明しています。AMDから何らかの協力を得られるかどうかが、Windows版RADVの将来を左右することになります。
表示処理「最大3倍」の意味を正しく理解する
Windows版RADVは、画面へ完成した映像を表示する処理にも課題があります。
現在の実装では、描画した画像を画面へ表示する際に、比較的遅いCPU経由の処理を使用しています。
Windowsで効率よく映像を表示するには、DXGIスワップチェーンへの対応や、D3D12側で作成した画像を取り込む仕組みが必要ですが、ここでもAMD独自の非公開メタデータが障害になります。
Collaboraは、今後より効率的な表示処理へ対応できれば、GPU性能がボトルネックになっていないアプリケーションで最大3倍の性能向上につながる可能性があると説明しています。ただし、これは現在のAMD公式ドライバーに対して3倍高速になるという意味ではありません。CPU経由で表示している現在の実験版RADVと、将来想定される効率的な表示方式を比較した場合の話です。「Windows版RADVでゲーム性能が3倍になる」と解釈するのは誤りです。
さらに、ゼロコピーでの画面表示を実現するには、AMDだけでなくMicrosoftの協力も必要になる可能性があります。
利点オープンソース化でRadeonの不具合修正が早くなる可能性
Windows版RADVが実用化された場合、Radeonユーザーにとって大きな利点となり得るのが、ドライバーの内部を外部の開発者も確認できることです。
現在のWindows向けRadeonドライバーは基本的にプロプライエタリであり、ゲーム開発者や一般の開発者が内部の実装を直接確認することはできません。
不具合が発生した場合、利用者やゲームメーカーは再現手順やログをAMDへ提出し、AMD側の修正を待つことになります。
RADVではソースコードが公開されているため、問題が発生している箇所を開発者自身が調査し、修正案を提出できます。
Collaboraも、オープンソースのVulkanドライバーをWindowsへ持ち込む利点として、デバッグや実験を行いやすくなること、修正までの時間を短縮できること、ゲーム開発者を含むコミュニティーが改善へ参加できることを挙げています。
WindowsとLinuxで共通のコードを利用できれば、一方のOSで見つかった問題の修正を、もう一方へ反映しやすくなる可能性もあります。特定タイトルだけで発生する描画崩れやクラッシュ、シェーダーコンパイルの問題などでは、開発過程を外部から確認できること自体が大きな違いになります。
注意点DirectXゲームがすぐ高速化するわけではない
Windows版RADVのニュースを読むうえでは、RADVがVulkanドライバーであることを意識する必要があります。
Windows向けPCゲームの多くは、DirectX 11またはDirectX 12を利用しています。これらのゲームは通常、AMDのDirectXドライバーを使って動作するため、RADVを導入しただけで直接性能が変わるわけではありません。
今回動作した『Counter-Strike 2』も、通常のDirectXレンダラーではなく、起動オプションでVulkanを指定しています。
そのため、Windows版RADVが完成したとしても、すべてのRadeon搭載ゲームPCで自動的にフレームレートや安定性が向上するとは限りません。直接的な恩恵を受けるのは、Vulkanへ正式対応しているゲームやアプリケーションです。
一方で、DXVKのようにDirectX 9、10、11の命令をVulkanへ変換する技術を組み合わせれば、理論上はVulkan非対応ゲームでもRADVを利用できる可能性があります。
ただし、Windows上でRADVとDXVKを組み合わせた場合の互換性や性能は、まだ十分に検証されていません。現段階で既存のDirectXドライバーより快適になると判断することはできません。
動機ValveがWindows向けRADVを支援する理由
Valveはこれまでも、LinuxのGPUドライバー、Mesa、Proton、DXVK、SteamOSなど、Linuxゲーミング環境へ継続的に投資してきました。
RADVはSteam DeckのVulkanドライバーでもあるため、RADVそのものを改善すれば、Steam DeckやLinux版SteamOSのゲーム互換性と性能向上につながります。
では、なぜ今回はWindowsへの移植まで支援するのでしょうか。
Valveは具体的な事業目的を公表していませんが、WindowsとLinuxで同じVulkanドライバーを利用できるようになれば、両環境の不具合を再現しやすくなり、開発や検証の効率を上げられる可能性があります。
PCゲームの大半はWindowsを中心に開発されています。ゲームメーカーがWindows上でもRADVを使って不具合を再現できれば、その修正をLinuxやSteam Deckにも反映しやすくなります。逆に、Steam Deckで蓄積されたRADVの改善を、WindowsのRadeonユーザーへ還元できる可能性もあります。
『Counter-Strike 2』はValve自身が開発するゲームであり、WindowsとLinuxの両方に対応しています。最初の実ゲーム検証にCS2が使われたのも、ValveとCollaboraが問題を解析しやすい条件が揃っていたためと考えられます。
ただし、ValveがWindows版SteamOSや新しいゲーム機のためにRADVを開発していると断定できる情報はありません。現時点で確認されているのは、Valveが今回の実験的なWindows移植フェーズを支援したという事実までです。
対象範囲GeForceやIntel Arcにも影響するのか
今回のプロジェクトが直接対象としているのはAMD GPUです。RADVはRadeon向けに作られているため、GeForceやIntel Arcで使用することはできません。
Mesaには、NVIDIA GPU向けの「NVK」やIntel GPU向けの「ANV」といった別のVulkanドライバーも存在し、NVKは対応GPUでVulkan 1.4適合を取得していますが、Windows版RADVの成果がそのまま他社GPUへ適用されるわけではありません。
しかし、Windows上でオープンソースのユーザーモードGPUドライバーを動かすための知見やツールが整えば、将来的に別のMesaドライバーをWindowsへ移植する際の参考になる可能性はあります。
Mesa自体はLinux専用ではなく、Windows向けの仕組みも持っており、D3D12を利用してOpenGLを動作させるMesaのドライバーは、Windows Subsystem for Linuxなどですでに使われています。
Windows版RADVは、単にRadeon向けドライバーを一つ増やすだけでなく、WindowsにおけるオープンソースGPUドライバーの可能性を試すプロジェクトともいえます。
影響今のRadeonユーザーへの影響
一般のWindowsユーザーが、現在のRADVをメインドライバーとして導入することはおすすめできません。
開発中の実験版であり、Vulkan適合テストも完了していません。対応ゲーム、性能、安定性、ドライバー更新への追従など、実用化に必要な要素が残されています。
また、AMDの公式カーネルドライバーとの通信に非公開仕様を利用しているため、AMD Softwareの更新によって動かなくなる可能性もあります。
通常のゲーム用途では、引き続きAMD Software: Adrenalin Editionを利用するのが基本になります。
- Radeonの不具合修正を外部の開発者も調査・提案できるようになる可能性
- WindowsとLinuxで共通のドライバー基盤による不具合対応の効率化
- 実際にCS2が動作し、構想段階から実証段階へ進んだ
- Vulkan規格に未適合で、対応ゲームも限定的
- AMD公式ドライバー更新で動作しなくなるリスクを抱える
- DirectXゲームの性能には直接影響しない
おすすめ今Radeonを選ぶなら現行世代のコスパモデル
Windows版RADVが実用化されるのはまだ先の話ですが、AMDがRADVへ開発リソースを集中させている流れ自体は、Radeon環境の長期的な改善につながる材料です。
これからRadeonを新規に検討するなら、現行RDNA 4世代のモデルが安心です。
まとめまとめ|Windows版RADVは検証段階、Adrenalinはまだ現役
Windows版RADVが短期間でAMD Adrenalinを置き換え、Radeonユーザーの標準ドライバーになる可能性は低いでしょう。
現在置き換えられるのはVulkanのユーザーモード部分に限られており、AMDの公式カーネルドライバーへの依存も残っています。Vulkan適合、画面表示の高速化、複数GPU世代への対応、ドライバー更新との互換性確保など、実用化までには多くの課題があります。
一方で、今回『Counter-Strike 2』が実際に動作したことは、RADVのWindows移植が単なる構想ではなく、実ゲームを起動できる段階まで進んだことを示しています。
AMDはLinux向けVulkanドライバーをRADVへ一本化しており、RADVはSteam Deckでも利用されています。Windowsでも同じコードベースを利用できるようになれば、ゲーム開発者による不具合調査、OSをまたいだ修正の共有、ドライバー開発への外部参加が進む可能性があります。
今後の焦点は、AMDがカーネルドライバーとの安定した接続方法を提供するかどうかです。
Windows版RADVは、今すぐRadeonのゲーム性能を変えるドライバーではありません。一般ユーザーは引き続きAMD Software: Adrenalin Editionを使うのが基本です。しかし、WindowsのGPUドライバー開発をより開かれたものにできるかを試す、重要な一歩であることは間違いありません。AMDやMicrosoftの協力が得られるかどうかが、今後の実用化を左右します。



