ASUSがβBIOSでCXMT製DDR5の低レイテンシ動作に対応|AGESA 1.3.0.1dの中身とEXPO ULLとの違い
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AGESA 1.3.0.1dの中身とEXPO ULLとの違い
出典:ASUS公式サポートページ「ROG CROSSHAIR X870E HERO」BIOS変更履歴、VideoCardz「ASUS prepares AM5 BIOS updates with low-latency CXMT DDR5 optimizations」、TrendForce「CXMT DDR5 Reportedly Tops 9,000 MT/s on AMD Platform」、AMD公式メモリ互換性リストにもとづきます。
AM5環境でDDR5メモリを使っていて、構成表やパッケージに「CXMT」という聞き慣れないメーカー名を見かけたことがある人もいるはずです。中国メーカー製のDRAMチップは、数年前までは「安いが動作が不安定」という評判が先行していました。ASUSがROGコミュニティフォーラムで配布を始めたベータBIOSは、その評判をもう一段階過去のものにしようとしています。
今回ASUSが公開したのは、AGESA ComboAM5 PI 1.3.0.1dを採用したベータBIOSです。対象はROG Crosshair X870E APEXなどのX870/X870Eシリーズ、B850、X670/X670E、B650と幅広く、ASUS自身の説明は「選択されたCXMT製メモリに対する低レイテンシ性能の最適化」というものです。これまでASUSがCXMT製DDR5に対して行ってきたのは、EXPOメモリプロファイルへの対応追加や、安定して動かすための互換性改善でした。今回はその先、レイテンシを詰める段階に踏み込んでいます。
ASUS公式のBIOS変更履歴を実際にさかのぼると、EXPO ULL対応の追加、CXMT製DDR5の安定化、そして今回のCXMT製DDR5の高速化という3段階の流れを、具体的なバージョン番号と日付で確認できます。CASレイテンシが理論上どれだけ縮むのか、AMD公式のEXPO ULLベンチマークをどこまで参考にしていいのか、そして今回のCXMT最適化がなぜEXPO ULLとは別物なのかまで、数字で整理します。
目次
要点まず何が公開されたか
ASUSのオーバークロッカーSAFEDISK氏が2026年9月、ROGコミュニティフォーラムでAGESA ComboAM5 PI 1.3.0.1dを採用したテストBIOSを公開しました。通常のASUS製品サポートページでは、2026年9月19日時点でもまだ旧バージョンが正式版として掲載されており、このベータ版はフォーラム配布のみです。対象モデルとバージョン番号は次のとおりです。
| 対応チップセット | ベータBIOSバージョン |
|---|---|
| X870・X870E(ROG Crosshair X870E APEX 等) | 2503 |
| B850 | 1804 |
| X670・X670E | 4002 または 4004 |
| B650 | 4004 |
ASUSは今回のBIOSについて「selected CXMT memory with optimized low-latency performance(選択されたCXMT製メモリに対する低レイテンシ性能の最適化)」と説明しています。単に動く・動かないという互換性の話ではなく、性能を詰める方向の調整であることが、この一文からうかがえます。
経緯ASUSのCXMT対応は3段階で進んできた
ASUSのCXMT製DDR5への対応は、今回が最初の一歩ではありません。ROG Crosshair X870E HEROのBIOS変更履歴をたどると、3段階の流れが見えてきます。
- 2026年6月17日公開のBIOS 2306(AGESA ComboAM5 PI 1.3.0.1b)で、EXPOメモリプロファイルへの対応を追加。
- 2026年7月15日公開のBIOS 2402(AGESA ComboAM5 PI 1.3.0.1b Patch A。2026年9月19日時点でも正式版)で、CXMTメモリチップのメモリ性能・システム安定性・互換性を改善。
- 今回のベータBIOS(AGESA ComboAM5 PI 1.3.0.1d)で、選択されたCXMT製メモリの低レイテンシ性能を最適化。
整理すると、AMD自身が認証するEXPO ULLメモリへの対応、CXMT製DDR5を安定して動かすための互換性改善、そして今回のCXMT製DDR5の性能を詰める調整という3段階です。CXMT製DDR5がAM5マザーボードで採用され始めた経緯は、CorsairのDDR5-6000キットにCXMT製DRAMが採用された件でも触れたとおりで、当初は「動くかどうか」自体が焦点でした。今回のベータ版は、そのフェーズがすでに終わりつつあることを示しています。
進化CXMT製DDR5自体も9,000MT/s超えへ
最適化の対象になっているCXMT製DDR5自体も、性能を伸ばしています。2026年8月に明らかになったところでは、Colorfulの「iGame Shadow II」48GB(24GB×2)キットが、Colorful自社のAM5マザーボード「iGame X870E VULCAN W OC」上で4,507MHz、実効9,014MT/sを記録しました。CXMT製DDR5が9,000MT/sを超えたのはこれが初めてです。
これとは別に、ASUS製マザーボードを使った検証でもDDR5-6000のCL30が確認され、CL28についても試験が進められていることが分かっています。9,000MT/s超えは転送速度側の記録、CL30・CL28は低レイテンシ側の記録で、この2つは別々の検証結果です。今回のベータBIOSは、この低レイテンシ側の記録をさらに引き出すための土台と位置付けられます。
計算CASレイテンシはどれだけ縮むのか
CL値がどれだけ効いてくるのか、DDR5-6000を例に計算してみます。DDR5-6000の実クロックは3,000MHzで、1クロックはおよそ0.333ナノ秒です。CASレイテンシ(CL)はこのクロック数で表される遅延なので、クロック時間にCL値を掛けると理論上のCASレイテンシが求められます。
| CL値 | 理論CASレイテンシ(DDR5-6000) |
|---|---|
| CL36 | 約12.0ns |
| CL30 | 約10.0ns |
| CL28 | 約9.3ns |
| CL26 | 約8.7ns |
CL36からCL28まで詰めても短縮幅は約2.7ナノ秒、CL26まで詰めても約3.3ナノ秒です。数字だけ見ると小さく感じますが、注意したいのはCASレイテンシがメモリの遅延全体のごく一部でしかないことです。実際のメモリアクセス遅延にはtRCDやtRPといった他のタイミングに加えて、メモリコントローラー、Infinity Fabric、CPUのキャッシュ構成なども関わっています。「レイテンシがXナノ秒縮む、イコールゲームの入力遅延がXミリ秒縮む」という単純な話ではない点は押さえておく必要があります。
性能ゲーム性能への影響はまだ未公表
肝心のゲーム性能について、ASUSは今回のCXMT最適化に関する具体的なベンチマーク数値を公表していません。参考になるのはAMD自身が公開しているEXPO ULLのベンチマークです。Ryzen 7 9700XとGeForce RTX 5090、DDR5-6000環境・30タイトル超の社内テストで、EXPO ULL対応メモリは通常のEXPOメモリに対して平均約4%のゲーム性能向上を示しています。ただしこれはAMDが認証したEXPO ULLメモリについての結果で、今回ASUSが進めているCXMT最適化で同じ数字が出る保証はありません。
メモリ性能の差は、GPUの負荷が軽い1080pなど低い解像度で現れやすく、4K・最高画質でGPU使用率がほぼ100%になる場面では差が縮みます。今回のCXMT最適化の効果を確かめるときも、平均fpsだけでなく1% Lowやフレームタイムのブレに注目したほうが、実態をつかみやすくなります。
誤解今回の最適化とEXPO ULLは別物
ベータBIOSのリリースノートを見て「これがEXPO ULLか」と誤解しそうになりますが、両者は別物です。AMD EXPO Ultra-Low Latency(EXPO ULL)はAMDが認証するメモリ規格で、AMDの互換性リストでは通常のEXPO対応キットと「AMD EXPO Technology: Featuring Ultra Low Latency」認証キットが明確に分けられています。ULLの効果を得るには認証済みの新しいメモリキットが必要で、通常のEXPOメモリのままマザーボードのBIOSだけ更新してもULLメモリに変わるわけではありません。
今回ASUSが告知しているのは、CXMT製メモリに対する別の最適化の取り組みです。ASUS自身も、現時点でこれをEXPO ULLとして説明していません。具体的にどのタイミング項目を自動調整しているのか、どのCXMT製メモリが「selected」に含まれるのかは、正式版BIOSのリリースノートやQVL更新まで公開されておらず、現時点では断定できません。
注意CXMT製ならどれでも速くなるわけではない
ここで見落としたくないのが「selected CXMT memory」という条件です。すべてのCXMT製DDR5が自動的に低レイテンシ化されるわけではありません。同じDDR5-6000という表記のメモリでも、容量・DRAMダイ・PCB設計・PMIC・ランク構成によって動作条件は変わります。手元のメモリがCXMT製だからといって、ベータBIOSを入れれば自動的に恩恵を受けられると考えるのは早計です。
結論日本のAM5ユーザーは今どうすべきか
急いでベータBIOSへ更新する必要は、ほとんどの日本のAM5ユーザーにはありません。理由は2つあります。ひとつは、AGESA 1.3.0.1dが現時点でベータ版であることです。このBIOSを公開したSAFEDISK氏自身が、旧AGESAバージョンで作成したCMO設定ファイルを1.3.0.1dへそのまま流用しないよう注意を呼びかけています。古い設定を読み込むと不安定化したり、再起動時にハングしたりする場合があるためです。もうひとつは、今回の主なターゲットがCXMT製DDR5であることです。SK hynix・Samsung・Micron系のDDR5を問題なく使えているPCなら、CXMT最適化だけを目的にベータ版へ移行するメリットはほとんどありません。
- CXMT製DDR5を実際に使っていて、性能を検証したい人(初期設定からのやり直し前提で)
- ベータ版特有の不具合を自己責任で切り分けられる人
- SK hynix・Samsung・Micron系のDDR5を問題なく使えている人(CXMT最適化の恩恵はない)
- 正式版が出るまで安定性を優先したい人
- 旧AGESA向けに作ったCMO設定ファイルをそのまま使い続けたい人
正式版がASUSの各マザーボード製品ページへ公開されてから更新するほうが安全です。ベータ版を試す場合も、更新前後で設定を流用せず、初期状態から設定し直すことをおすすめします。なお日本市場では、CXMT製DDR5自体がまだ主流ではありません。Colorfulは2026年9月16日からCFD販売との提携で日本市場へ本格復帰していますが、現時点で国内投入が明らかな中心製品はiGameグラフィックボードやBATTLE-AXマザーボードで、CXMT製メモリ単体の国内展開はまだ限定的です。
選択肢対象チップセットのASUS AM5マザー
今回のベータBIOSが対象とするチップセット帯から、X870EとB850それぞれの代表的なASUS製AM5マザーボードを紹介します。急いでベータ版を入れる用途ではなく、正式版が来た後にCXMT製DDR5を含めて安定運用したい人向けの選択肢です。
FAQよくある質問
まとめまとめ|正式版が出るまで急ぐ必要はない
ASUSがROGコミュニティフォーラムで、AGESA ComboAM5 PI 1.3.0.1dを採用したベータBIOSを配布しています。対象はX870/X870E・B850・X670/X670E・B650と幅広く、内容は「選択されたCXMT製メモリに対する低レイテンシ性能の最適化」です。EXPOメモリプロファイルへの対応追加、CXMT製DDR5の安定化、そして今回の性能最適化という3段階を経てきたことが、ASUS公式のBIOS変更履歴から確認できます。
CASレイテンシはCL36からCL28まで詰めても理論上約2.7ナノ秒の短縮にとどまり、メモリ遅延全体のごく一部にすぎません。ゲーム性能への影響についてASUSは具体的な数値を公表しておらず、参考になるAMD公式のEXPO ULLベンチマーク(平均約4%)も、今回のCXMT最適化とは別のメモリを対象にした結果です。今回の取り組みはAMD公式のEXPO ULLとは別物で、対象も「selected」と限定されたCXMT製メモリにとどまります。SK hynix・Samsung・Micron系のDDR5を問題なく使えているなら急ぐ理由はなく、CXMT製DDR5を使っている人も、正式版が各マザーボード製品ページへ公開されてから、設定を初期状態からやり直す前提で更新するのが安全です。





