日本のゲーム開発者85.8%が生成AIを業務利用|GDCの36%と大差、それでも単純比較できない理由をCESA調査で検証
本記事にはアフィリエイト広告(Amazon・楽天市場等)のリンクが含まれています。
GDCの36%と大差、それでも単純比較できない理由
出典:CESA公式「CESAゲーム産業レポート2026 プレビュー版」発刊のお知らせ(2026年9月17日)およびGDC公式「2026 State of the Game Industry」レポートにもとづきます。記事内の情報は2026年9月19日時点のものです。
日本のゲーム開発現場では、生成AIがすでに「一部の人が試す新技術」ではなくなりつつあるようです。CESAが2026年9月17日に発刊した調査によると、ゲーム開発者を中心とした回答者の85.8%が、生成AIを業務で「日常的」または「時々」利用していました。日常的に使うだけでも63.0%に達しています。
この数字を受け、海外メディアがGDC 2026調査の「36%」と比較し、日本のゲーム業界の方が北米より生成AIを積極的に受け入れていると報じました。85.8%と36%だけを見ると、2倍以上という極端な差です。
しかし、それぞれの調査対象や質問内容まで確認すると、この2つの数字をそのまま「日本と北米の生成AI導入率」として比較するのは適切ではありません。むしろ今回のデータから見えてくるのは、「日本はAI肯定、海外はAI否定」という単純な構図ではなく、生成AIを業務効率化には使いつつ、最終成果物への利用には慎重になるという線引きがゲーム業界で形成されつつあることです。
目次
CESACESA調査では85.8%が生成AIを業務利用
CESAが公開したデータは、「ゲーム開発者の就業とキャリア形成2026」という調査によるものです。2026年5月から8月にインターネット上で実施され、有効回答は1,349件。プロデューサー、ディレクター、エンジニア、アーティスト、テクニカルアーティスト、サウンドクリエイター、ゲームデザイナー、QA・テスターなど商業ゲーム開発者を中心に、役員・管理職、教育関係者、学生の回答も含まれています。
| 生成AIの業務利用状況 | 割合 |
|---|---|
| 日常的に利用 | 63.0% |
| 時々利用 | 22.8% |
| 試験的に導入・検証 | 8.6% |
| 一度も利用したことがない | 4.8% |
| 以前は利用していたが現在は利用していない | 0.7% |
「日常的」と「時々」を合計した数字が85.8%です。さらに興味深いのは、「試験的に導入・検証している」まで含めると94.4%になることです。つまり今回の回答者に限れば、生成AIへまったく触れていない層の方が少数派になっています。少なくとも、日本のゲーム開発周辺で生成AIがかなり広く浸透していること自体は間違いなさそうです。
注意ただし85.8%は「AI生成物をゲームに使っている割合」ではない
ここは今回のニュースで最も誤解しやすいポイントです。CESAが例示している生成AIには、ChatGPTだけでなくGitHub Copilot、画像生成サービス、アセット生成サービスなども含まれています。したがって、85.8%という数字には、ゲーム内の画像を生成AIで作っている開発者だけでなく、コードについて質問する、プログラムの補助にCopilotを使う、企画の下調べをする、文章を整理するといった使い方も含まれていると考える必要があります。
あるいは「日本で作られるゲームの85.8%にAI生成コンテンツが入っている」という意味でもありません。公開されたプレビュー版の数字だけでは、85.8%の回答者がどの作業で生成AIを利用しているのかまでは判別できません。「業務でAIを使う」と「AIが作ったものを製品へ入れる」を分けて考えることが、今回の調査を読むうえで重要です。
GDCGDC 2026では生成AI利用率36%
一方、この報道が比較対象にしたのがGDCの「2026 State of the Game Industry」です。GDCは2,300人を超えるゲーム業界関係者を調査しており、「仕事の一部として生成AIツールを使用している」と答えた割合は36%でした。CESAの85.8%と比べればかなり低く見えます。
ただし、GDC調査には重要な内訳があります。ゲームスタジオ勤務者だけを見ると生成AI利用率は30%だった一方、パブリッシング、サポート、マーケティング/PRなどでは58%でした。また、上級管理職は47%、それ以外の従業員は29%と、職種や役職によっても大きな差があります。つまりGDCの36%も、「ゲームを直接作っている開発者だけの生成AI利用率」ではありません。
CESAとGDCの条件を整理すると、次のようになります。
| 項目 | CESA 2026 | GDC 2026 |
|---|---|---|
| 回答規模 | 1,349件 | 2,300人超 |
| 主な対象 | 商業ゲーム開発者など | ゲーム業界全般 |
| 生成AI業務利用 | 85.8% | 36% |
| ゲームスタジオ勤務者のみ | 未公表 | 30% |
| 調査地域 | 日本中心 | 国際調査(米国中心) |
したがって、85.8%対36%という差そのものは事実でも、完全に同じ対象へ同じ質問をした結果ではありません。
補足GDC調査は「北米だけ」の調査でもない
この報道では、日本のゲーム業界と北米を対比しています。しかしGDC 2026の調査自体は、北米限定ではありません。回答者の居住地域を見ると米国が54%、カナダが8%で、確かに北米が過半数を占めています。一方で英国6%、オーストラリア3%、スウェーデン3%、日本在住者も1%含まれています。GDC自身も、回答者が北米と西欧に偏っており、世界のゲーム業界を完全に代表するサンプルではないと明記しています。
そのため「日本85.8%、北米36%」と断定するより、「日本のCESA調査では85.8%、北米の回答者が多いGDC国際調査では36%」と理解する方が正確です。それでも非常に大きな差があるため、日本で生成AIが浸透している可能性は十分考えられますが、現時点のデータだけで「日本人開発者は北米開発者の約2.4倍AIを使う」とまでは言えません。
用途GDCではAIを何に使っているのか
GDC調査はCESAより詳しく生成AIの用途を公開しています。ここを見ると、「生成AIを使っている」という言葉から受ける印象がかなり変わります。生成AI利用者の81%が「調査・ブレインストーミング」に使用。メールやスケジュールなどの日常業務とコード補助がそれぞれ47%、プロトタイピングが35%でした。対して、アセット生成は19%、プロシージャル生成は10%、プレイヤーが直接触れる機能への利用はわずか5%です。
つまりGDC調査でも、生成AI利用の中心は「ゲームそのものをAIに作らせること」ではありません。ChatGPTで調べ物をする、コードを書く補助として使う、メールや資料を作成する、プロトタイプ作成を高速化する——こうした裏側の作業が多数を占めています。ゲームにAI生成画像をそのまま入れるような利用は、生成AI活用全体の一部分にすぎません。これはCESAの85.8%を見る際にも重要な参考になります。
態度「AIを使う」と「AIに肯定的」は別の話
さらに面白いのが、GDCでは生成AIの業務利用者が36%存在するにもかかわらず、52%が「生成AIはゲーム業界に悪影響を与えている」と回答していることです。一見すると矛盾しているように見えますが、用途別データと合わせるとそれほど不思議ではありません。コードの補助や調査には生成AIを使うものの、ゲーム内アートやシナリオを生成AIへ置き換えることには反対する開発者がいてもおかしくありません。実際、GDC調査ではビジュアル/テクニカルアート職の64%、ゲームデザイン/ナラティブ職の63%、ゲームプログラミング職の59%が生成AIの影響を否定的に評価しています。
「AIを仕事で使っている=生成AIによるゲーム制作を全面的に支持している」とは限りません。この点を区別しないと、AI利用率だけからゲーム開発者の思想や態度まで推測してしまうことになります。GDC 2026の「悪影響52%」という数字自体は、当サイトの既存記事「Steam新作の3割がAI製」で詳しく扱っています。
企業側企業の78%にはすでに何らかのAI利用ルール
GDC調査でもう一つ注目したいのが企業側のルールです。回答者の78%が、勤務先に何らかの生成AI利用ポリシーがあると回答しています。具体的には「任意で利用可能」が28%、「一部のツールだけ利用可能」が22%、「使用禁止」が16%、「社内・独自ツールのみ」が6%、「利用が義務付けられている」が6%でした。ここから見えてくるのは、海外ゲーム会社でも「使うか、使わないか」という段階から、「どのAIなら、どの用途まで使ってよいか」を管理する段階へ進んでいることです。これはCESAの企業調査とも意外なほど共通しています。
企業調査日本企業も「AI任せ」にしようとしているわけではない
CESAではゲーム開発者とは別に、会員企業を対象とした「2026 CESA会員企業調査」も実施しています。2026年6月時点の会員企業220社を対象とし、生成AIに関する当該設問には48社が回答しました。生成AIへ期待する効果は以下のようになっています。
| 生成AIに期待する効果 | 回答社数(48社中) |
|---|---|
| 業務効率化・生産性向上 | 38社(約79.2%) |
| 開発期間の短縮 | 30社(62.5%) |
| 開発・運営コスト削減 | 29社(約60.4%) |
| 多言語対応・グローバル展開 | 24社(50.0%) |
| 新たな表現・アイデア創出 | 22社(約45.8%) |
| コンテンツ・サービス品質向上 | 21社(約43.8%) |
| 人材不足への対応 | 20社(約41.7%) |
複数回答ですが、上位3項目が「生産性」「期間」「コスト」で占められているのが特徴的です。少なくとも現時点では、企業が生成AIへ最も期待しているのは、人間のクリエイターを丸ごと置き換えることより、ゲーム開発にかかる時間と作業量を減らすことだと読み取れます。さらに管理・運用方法では、「人による確認・修正・監修を行う」が最多でした。使用可能なAIツールを制限したり、生成された出力をそのまま使用しない運用も多く採用されています。生成AIの利用率が高いからといって、日本企業が無制限に生成AIを使おうとしているわけではありません。
注意前年比較はまだできない
今回の海外報道でもう一つ注意したいのが、前年との比較です。CESA自身も、2026年にゲーム開発者と会員企業を対象として生成AI活用状況を調べた今回の調査を「初の独自調査」と説明しています。つまり、同じ条件・同じ設問で実施された過去のCESAデータは存在しません。85.8%という数字自体は非常に大きいものの、今後同じ条件で2027年、2028年と調査されて初めて、本当の増減が見えやすくなります。
他調査日本だけの特殊な現象でもなさそう
日本でAI利用が広がっていることを補強するデータはほかにもあります。日本オンラインゲーム協会(JOGA)の「オンラインゲーム市場調査レポート2026」では、回答した国内オンラインゲーム会社の生成AI利用率が100%だったと海外メディアが報じています。使用ツールはGoogle Geminiが94%、Claudeが84%、GitHub Copilotが76%でした。
ただし、この調査は「オンラインでプレイされるゲーム」を手がける会社に限定されており、コンソール・PC・単体で完結するモバイルゲームを扱う会社は対象に含まれていません。CESAの85.8%と同様に、日本のゲーム会社全体へそのまま当てはめることはできません。それでも異なる調査で高いAI利用率が続いていることから、日本のゲーム開発現場で生成AIが業務ツールとして急速に定着しているという方向性そのものには一定の裏付けがあります。
結論本当に見るべきなのは「使ったか」ではなく「何に使ったか」
今回の調査から最も重要だと考えられるのは、生成AI利用率そのものではありません。これからゲームを見るうえでは、AIを使ったかどうかより、AIの出力が最終的なゲームのどこまで残っているのかの方が重要になってきます。
例えばプログラマーがGitHub Copilotでコードのたたき台を作り、人間がレビューして完成させるケースと、生成AIで作ったキャラクター画像をそのまま製品へ収録するケースでは、同じ「生成AI利用」でも意味は大きく異なります。GDC調査でも、AI利用者の81%が調査・ブレインストーミングに使う一方、プレイヤー向け機能への利用は5%でした。CESA側でも、人による確認・修正・監修や、生成物をそのまま使用しない運用が多く採用されています。日本と海外は一見すると85.8%対36%で正反対に見えますが、実際の運用思想には似ている部分もあります。効率化にはAIを使う。しかし、最終的な責任までAIへ渡さない。少なくとも今回確認できるデータからは、ゲーム業界がこの方向へ進んでいる様子が見えてきます。
FAQよくある質問
まとめ85.8%は大きな数字だが「日本のゲームがAI製になる」という話ではない
CESAの2026年調査では、ゲーム開発者を中心とした1,349件の回答のうち、生成AIを日常的に利用する人が63.0%、時々利用する人が22.8%となり、合計85.8%に達しました。日本のゲーム開発現場で生成AIがかなり身近なツールになっていることを示す数字です。
一方、比較されているGDC 2026の36%は調査対象が異なり、北米限定調査でもありません。CESAが「初の独自調査」と説明している以上、過去データとの単純な前年比較もできません。そして何より、85.8%は「AI生成コンテンツをゲームへ採用している割合」ではありません。GDCでは生成AI利用者の81%が調査・ブレインストーミング、47%がコード補助に利用する一方、アセット生成は19%、プレイヤー向け機能は5%でした。
生成AIの普及を追う際は、「AIを使ったゲームか」という大きなくくりだけでは実態が分かりにくくなっています。これから重要になるのは、何の作業に使ったのか、生成物が完成品へ残っているのか、誰が最終確認と責任を負っているのかです。85.8%という数字は、日本のゲーム開発が一気に「AI製」へ向かっている証拠というより、生成AIが検索、文章作成、コード補助などを含む日常の制作ツールへ変わり始めたことを示す数字として捉える方が実態に近いでしょう。



