PS3エミュレーターRPCS3で『リトルビッグプラネット』初期版が動作可能に|6年越しで直った原因はソケット型10、ベータ・デモ版も対象
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6年4か月前に報告された「ソケット型10」の未実装が、ようやく解消されました
出典:RPCS3公式Xの投稿(2026年8月10日) / RPCS3公式GitHub Issue #8000 / 同Pull Request #19170 / RPCS3ソースコード sys_net.h / PlayStation公式「オンラインでプレイできるゲームのサポート」 / インサイド「『リトルビッグプラネット3』のサーバーが復旧」(2021年9月14日)。状況は本記事公開時点(2026年8月12日)の情報にもとづきます。
『リトルビッグプラネット』(原題 LittleBigPlanet)は、英国のMedia Moleculeが開発し、ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)が2008年に発売したPS3向けのアクションゲームです。用意されたステージを遊ぶだけでなく、自分でステージを作って公開できる点が特徴で、日本では2008年10月30日に発売されました。
このタイトルをPS3エミュレーター「RPCS3」で動かす場合、これまでは実質的にアップデート済みのバージョンしか選択肢がありませんでした。発売当時のディスクを吸い出したままの状態や、当時配信されたデモ版は、最初のロード画面で止まってしまい先へ進めなかったためです。それが2026年8月10日(日本時間では8月11日未明)、RPCS3公式のアナウンスによって解消されたと告知されました。
興味深いのは、この不具合が2020年4月に報告されてから6年4か月ものあいだ未解決のまま残っていたこと、そして原因が「ソケット型10」という、通信処理のごく限られた部分にあったことです。開発リポジトリに残された記録から、何が起きていて何が直ったのかを追いかけます。
目次
要点まず何が起きたか
RPCS3公式は2026年8月10日、『リトルビッグプラネット』の初期バージョンがPCで遊べる状態になったと発表しました。対象はv1.20までの製品版に加えて、ベータ版とデモ版も含まれます。従来はv1.21以降にアップデートしたものだけが起動でき、それ以前のエンジンを積んだバージョンは最初のロード画面で停止していました。RPCS3のネットワーク処理に残っていた複数の不具合が修正されたことで、この停止が解消されています。
技術解説ロード画面から進めなかった原因はソケット型10
今回の発表そのものは「ネットワークコードの不具合を多数修正した」という説明にとどまっていますが、RPCS3の開発リポジトリをたどると、どこで止まっていたのかがはっきり分かります。該当する報告は2020年4月9日に登録されたIssue #8000で、表題からしてLittleBigPlanet Demo [NPEA00147] uses socket type 10、つまり「デモ版がソケット型10を使っている」というものです。
ソケットとは、ゲームが通信するときに使う出入口のようなもので、用途に応じて種類が分かれています。PS3のシステム側では、この種類が数値で管理されていました。RPCS3のソースコードにあるsys_net.hを確認すると、種類の一覧は次のように定義されています。
SYS_NET_SOCK_STREAM = 1(一般的なTCP通信にあたる接続型のソケット)SYS_NET_SOCK_DGRAM = 2(一般的なUDP通信にあたる非接続型のソケット)SYS_NET_SOCK_RAW = 3(低レベルな生のパケットを扱うソケット)SYS_NET_SOCK_DGRAM_P2P = 6(PS3独自の、機器同士を直接つなぐ非接続型のソケット)SYS_NET_SOCK_STREAM_P2P = 10(PS3独自の、機器同士を直接つなぐ接続型のソケット)
問題になっていた型10は、いちばん下のSYS_NET_SOCK_STREAM_P2Pです。P2Pは「ピアツーピア」の略で、サーバーを介さずゲーム機同士が直接データをやり取りする通信方式を指します。PS3にはこのP2P通信専用のソケットが用意されており、一般的なPCの通信では見かけない独自仕様でした。
Issue #8000の報告内容によれば、デモ版と初期の未パッチ製品版はsys_net_bnet_socketという関数をこの型10で呼び出していました。一方、アップデートを当てたあとのバージョンは型6、つまり非接続型のP2Pソケットへ切り替わっており、そちらは正常にゲーム内まで進めていたということです。当時のRPCS3では型10が未実装だったため、報告者はこれがソフトロックの原因だろうと推測していました。結果的にこの見立ては正しかったことになります。
経緯2020年の報告から6年、二段階に分かれた修正
この不具合が長引いたのは、原因が一つではなかったためです。Issue #8000のやり取りを追うと、修正が二段階に分かれていたことが分かります。
第一段階は2024年3月です。RPCS3の開発者から「SYS_NET_SOCK_STREAM_P2Pは実装済みになったが、それでもゲームは動かない」というコメントが入り、報告者が新しいログを添えて状況を更新しています。このとき、ゲームはオープニングのムービーまでは再生されるようになったものの、その直後にまた固まる状態でした。ソケットの種類を受け付けられるようにしただけでは足りず、その先の通信処理そのものに別の問題が残っていたわけです。
第二段階が今回の修正です。2026年8月10日、Issue #8000に「Pull Request #19170で修正済み。このIssueは閉じてよい」というコメントが投稿され、報告から6年4か月を経てクローズされました。
そのPull Request #19170は「sys_net: fixes and improvements」という表題で、17ファイルにまたがる変更です。説明欄に列挙された修正内容には、次のようなものが含まれています。
- P2P・P2PS向けのpoll/select処理の書き直し(通信の待ち受け状態を確認する仕組みの再実装)
- P2Pソケットへのスレッドロック追加によるイベント取りこぼしの防止
- 接続前にbindされていないP2PSソケットで、内部の管理テーブルへの登録が抜けていた不具合の修正
- 切断済みを表すP2PSの状態を新設し、読み取り可能かつ0バイトとして扱うよう変更
- タイムアウト監視処理と接続処理に残っていたデッドロックの解消
- PS3のネットワーク基盤にあたるNP関連の関数で、エラーチェックが抜けていた箇所の追加
いずれもP2P通信まわりの地味な処理ですが、通信が待ち状態のまま先へ進めない、あるいは互いに待ち合ってしまうといった不具合が並んでいます。初期バージョンの『リトルビッグプラネット』がロード画面で固まっていた挙動と、症状はよく一致します。
なお、RPCS3公式は今回の修正についてGalCiv氏へ謝辞を述べています。ただしGitHub上でPull Request #19170を提出したアカウントの名義は異なるため、本記事では両者を同一人物として扱いません。
対象範囲v1.20以前の製品版とベータ・デモ版
RPCS3公式の説明では、今回動作するようになった範囲は「ベータ版、デモ版、そしてv1.20までの製品版」と示されています。これまで動いていたのはv1.21以降だけでしたので、境界がv1.21からv1.20以前へ広がった形です。
『リトルビッグプラネット』は発売後に何度もアップデートが配信されたタイトルで、遊ぶだけであればアップデートを当てたほうが不具合も少なく安定します。その意味では、v1.20以前が動くようになったことは、普段どおり遊びたい人にとって大きな変化ではありません。
意味が大きいのは、アップデート前の状態でしか確認できないものを扱いたい場合です。発売当時のディスクをそのまま吸い出した状態や、店頭用に配布されたデモ版、開発途中の段階で配られたベータ版は、いずれもv1.21以降へ更新する手段がありません。これらはこれまで、実機のPS3を用意しなければ確認できませんでした。今回の修正は、その前提を変えるものです。
なお、個別のバージョンがどこまで問題なく動くかについては、本記事の執筆時点で確認できた範囲では、Issue #8000の表題に記載されたデモ版のディスク番号NPEA00147のみが具体的に特定できています。ほかのベータ版やデモ版の詳細な動作状況は、RPCS3の互換性データベースやWikiで各自確認してください。
注意点オンラインプレイが戻ったわけではない
ここは誤解されやすいところなので、はっきり切り分けておきます。今回修正されたのは、RPCS3がPS3独自のP2Pソケットを正しく扱えるようになったという、エミュレーター側の内部処理です。ソニーが運営していた『リトルビッグプラネット』のオンラインサービスが復活したわけではありません。
そもそも日本国内では、このシリーズのオンラインサービスはかなり前に終了しています。PlayStation公式が公開しているサーバー終了済みタイトルの一覧を確認すると、『リトルビッグプラネット』(PS3)、『リトルビッグプラネット2』(PS3)、『リトルビッグプラネット PlayStation Vita』、『リトルビッグプラネット ポータブル』(PSP)、そして『リトルビッグプラネット3』(PS4・PS3)が、いずれも2016年7月31日に終了したと記載されています。『リトルビッグプラネット カーティング』(PS3)は2018年7月2日です。
海外版についても、2021年3月ごろから続いた攻撃を受けてサーバーが長期停止し、同年9月にPS3版とPS Vita版のオンラインサービスは恒久的に終了しました。このとき『リトルビッグプラネット3』のPS4版だけがパッチ配信によって復旧しています。つまり、ユーザーが作ったステージを公式サーバーからダウンロードして遊ぶという遊び方は、PS3側ではすでに成立しません。
今回のRPCS3の修正で可能になったのは、あくまで「初期バージョンのゲーム本体をPC上で起動し、ロード画面を越えて先へ進める」ことです。ここを混同すると、期待していた内容と実際にできることが食い違います。
早見表今回の修正でできること・できないこと
- v1.20以前の製品版をアップデートせずにRPCS3で起動する
- 当時配信されたデモ版をPC上で動かす
- 当時配布されたベータ版を動かす
- アップデート前後で仕様がどう変わったかを見比べる
- ソニーの公式オンラインサービスは復活していない
- 他プレーヤーが作ったステージを公式サーバーから取得する
- ゲーム本体がPC向けに販売されたわけではない
- 個別バージョンの動作品質までは保証されない
意義ゲーム保存の観点で何が変わるのか
アップデート前のビルドが動くという話は、遊ぶことだけを目的にすると地味に映ります。しかし、ゲームを記録として残す立場から見ると位置づけが変わります。
オンラインでアップデートを配信する仕組みが当たり前になって以降、多くのゲームは「発売当時の姿」と「最後に配信された姿」が別物になりました。バランス調整で数値が変わる、権利や表現上の都合で楽曲が差し替わる、機能そのものが削られる、といった変更は珍しくありません。『リトルビッグプラネット』自体、発売直前の2008年10月に収録楽曲の歌詞をめぐって世界的な回収と発売延期が起き、その後のアップデートで該当箇所が取り除かれた経緯を持つタイトルです。
そうした違いを検証するには、当時のディスクの状態を再現する必要があります。これまでは、PS3の実機とネットワーク接続を切った環境を用意し、アップデートを当てずに起動するという手間がかかりました。エミュレーターで起動できるようになれば、同じ検証をPC上で、しかも複数のバージョンを並べて行えます。
デモ版やベータ版はさらに条件が厳しく、当時それを入手した人の手元にしか残っていないことも多い部類です。今回のように、特定のタイトルの初期ビルドを動かせるようにする作業が積み重なることで、こうしたデータが「動かせないただのファイル」から「中身を確認できる資料」へ変わっていきます。
Q&Aよくある質問
総括まとめ|検証環境としてのRPCS3が一段進みました
今回の更新は、フレームレートが上がるとか対応タイトルが大量に増えるといった、分かりやすい派手さのある変更ではありません。それでも、6年以上前に登録された1件の不具合報告が、原因の特定から実装、そして周辺処理の書き直しを経て閉じられたという流れは、エミュレーター開発がどう進むのかをよく表しています。
RPCS3公式は2026年8月10日、『リトルビッグプラネット』の初期バージョンがPCで動作するようになったと発表しました。対象はv1.20までの製品版と、ベータ版・デモ版です。原因はPS3独自の接続型P2Pソケット、値でいえば型10の扱いにあり、2020年4月に登録されたIssue #8000として6年4か月にわたり残っていました。
修正は二段階に分かれています。2024年に該当ソケットの実装自体は済んでいたものの、それだけでは足りず、2026年8月のPull Request #19170でP2P通信の待ち受け処理やデッドロックがまとめて手当てされたことで、ようやくロード画面を越えられるようになりました。
一方で、ソニーの公式オンラインサービスが戻ったわけではない点は押さえておく必要があります。日本・アジア向けは2016年7月31日に終了済みで、海外のPS3版も2021年に恒久停止しています。今回の価値は、対戦や作品共有ではなく、発売当時のビルドをPC上で確認できるようになったところにあります。



