DirectX Agility SDK 1.620と1.722 Previewの違い|DXRの新機能と対応GPU、プレイヤーが今すること【2026年10月】
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DXRの新機能が入るのはPreview側
Microsoftは2026年10月28日、DirectX 12のAgility SDK 1.620(Retail)と1.722(Preview)を同時に公開しました。DXR(DirectX Raytracing)について「2018年の登場以来、最も重要な更新」とMicrosoft自身が説明しているのは、このうち1.722 Previewに入った機能です。
レイトレーシングの新機能はClustered Geometry・Partitioned TLAS・間接ビルドの3つで、動く物体が多いシーンのレイトレーシング用データを作り直す負担を減らします。対象は、NVIDIAの全RTX GPU、AMDのRadeon RX 9000シリーズ、IntelのArc BシリーズとCore Ultra(200V・Series 3)です。1.620 Retailに入ったのは、GPU診断やAdvanced Shader Deliveryの開発者向け機能が中心です。
どちらもゲーム開発者が組み込んで初めて効く機能で、既存のゲームが自動で速くなるわけではありません。プレイヤーがSDKを入れたり設定を変えたりする必要はなく、新機能を使うゲームの登場を待つ段階です。
目次
要点1.620はRetail、DXRの新機能は1.722 Preview
1.620 Retailは、ゲームに組み込んで配布できる正式版です。1.722 Previewは開発者が試すための提供で、Windowsの開発者モードをオンにしたPCでしか試験機能を有効にできません。DXRの新機能が正式版に入る時期は、Microsoftの発表に書かれていません。
| 版 | 主な内容 | プレイヤーへの影響 |
|---|---|---|
| 1.620 Retail(正式版) | GPU診断(DirectX Dump Files、Driver Reported Messages、Extended PIX Markers)、Advanced Shader Deliveryの更新(Partial Graphics Programsなど)、Fence Barriers Tier 1、Batched Asynchronous Command List APIs | ゲームが採用して初めて効く。プレイヤー側の設定はない |
| 1.722 Preview(開発者向け) | DXRのClustered Geometry・Partitioned TLAS・間接ビルド、GPU Timeline CopyDescriptors | 開発者モードが前提。標準APIとしては、製品版のゲームが使う段階ではない |
Retail1.620 Retailに入ったのはGPU診断とASDの更新
1.620 Retailの中心は、ゲーム開発者向けの診断機能とAdvanced Shader Delivery(ASD)の更新です。GPU診断では、DirectX Dump Files、Driver Reported Messages、Extended PIX Markersが正式版になりました。Driver Reported Messagesは、ドライバーが自分の検証で見つけた問題(シェーダーバインディングテーブルのエラーや加速構造の問題など)を、標準の経路でアプリへ伝える仕組みです。Microsoftの対応表では、この機能はAMD・Intel・NVIDIA・Qualcommのすべてが「今後のドライバーで対応予定」とされています。
ASDの更新では、Partial Graphics Programsが目を引きます。コンパイル済みシェーダーの共通部分をパイプラインの派生型どうしで使い回し、ダウンロード量とコンパイル時間を減らせる機能です。AMDはRX 7000・9000シリーズが対象で、Intel・NVIDIA・Qualcommはドライバーでの対応が今後です。
プレイヤー側のASDは、Microsoftが10月21日にWindows 11 24H2以降の対応ハードウェアへ広げたと発表しています。今回の1.620は、ゲーム開発者がASDの配信データを準備する側の改善で、プレイヤーが新しく設定するものはありません。GeForceでの条件と確認方法はASD対応ドライバーの記事にまとめています。
コマンド送信では、独立したコピーやクリアをまとめて指示できるBatched Asynchronous Command List APIsと、Fence Barriers Tier 1が加わりました。対象はAMDのRX 7000・9000、IntelのArc B・Core Ultraなどで、NVIDIAは全RTX(Fence Barriers Tier 1はRTX 30シリーズ以降)です。機能ごとに対象が違うため、一覧はMicrosoftの対応表で確認できます。
DXR加速構造を作り直す負担を減らす3つの機能
レイトレーシングでは、光線がどの三角形に当たるかを素早く調べるため、シーンを加速構造というデータにまとめておきます。物体ごとのデータがBLAS、シーン全体を束ねるデータがTLASです。アニメーションするキャラクター、ストリーミングで読み込む地形、プログラムで生成する形状が多いほど、これを作り直す負担が重くなります。

Clustered Geometry(三角形を塊で扱う)
Clustered Geometryは、三角形を最大256個(頂点も最大256個)の小さな塊に分けて扱う仕組みです。この塊をCLAS(Cluster Level Acceleration Structure)と呼び、BLASは塊への参照を並べて組み立てます。作る単位が小さな塊になり、塊を再利用できるため、大きなBLASを丸ごと作り直す回数が減ります。
描画に使う精細なジオメトリをそのままレイトレーシングにも使いやすくなり、影や反射を見えている形に合わせやすくなります。
Partitioned TLAS(動いた区画だけ更新)
Partitioned TLAS(PTLAS)は、シーンのインスタンスを区画(パーティション)に分け、変化があった区画だけを更新する仕組みです。TLASを作る負担を「シーンの変化量に比例」させることが狙いです。広い世界で少数の物体だけが動く場面に向いた機能です。
間接ビルド(GPUが入力を用意する)
間接的な加速構造ビルドは、ビルドの入力をGPUのメモリ上に用意し、CPU側で記述を作り直さずに済ませる仕組みです。ClusteredとPartitionedは、単独でも組み合わせても使えます。
これらの機能は、既存のレイトレーシング対応を超える新しいハードウェア機能を必要としません。仕様書では、対応の有無を専用のフラグ(ClustersAndPTLASSupported)で示す形で、DXRのTier 2.0をすべて満たさないGPUでも対応できます。ただし対応範囲は、各社がGPU世代ごとにドライバーを実装・検証するかで決まります。
実測値Microsoftのサンプルの数字と読み方
Microsoftは、Clustered GeometryのサンプルをRadeon RX 9070で動かし、従来のBLAS再構築と同じシーンで比べた数値を公開しています。
| 指標 | 従来のBLAS再構築 | Clustered Geometry |
|---|---|---|
| フレームレート | 1.2 FPS | 79 FPS |
| 加速構造の準備・ビルド 1フレームのGPU時間 | 788ms | 3.11ms |
| レイトレーシング 1フレームのGPU時間 | 72.6ms | 9.27ms |
| 加速構造メモリ TLAS込みの合計 | 7,519MiB | 774MiB |
| 静的ビルドのスクラッチメモリ | 1.83MiB | 526MiB |
この数字は、1つの構成で動かしたテスト用サンプルのものです。Microsoftの記事には解像度などの測定条件がなく、「ゲームでこの規模の改善が出るとは考えないでほしい」という注意書きが添えられています。光線を追う処理が遅くなっても、1フレームごとのシーン構築の節約がそれを上回る場合もあります。
加速構造のメモリは合計で約90%減る一方、ビルド時の作業用メモリ(スクラッチ)は静的ビルドで1.83MiBから526MiBに増えています。
Partitioned TLASは、ドミノを倒すサンプルで比べています。RTX 4090の画面表示では、TLASを毎フレーム作り直す更新が2.88msかかるのに対し、4,702か所に絞って書き込むPTLASは0.79msです。一方で、光線を追う時間は1.29msから1.96msへ約0.7ms延びていて、Microsoftは「この場合は引き換えに見合う」としています。

対応GPU新DXR機能の対象はメーカーごとに違う
| メーカー | 新DXR機能(Preview)の対象 | 提供ドライバー |
|---|---|---|
| NVIDIA | 全RTX GPU | Game Ready 621.01 |
| AMD | Radeon RX 9000シリーズ | Agility SDK Developer Preview Edition 26.20.12.01 |
| Intel | Arc Bシリーズ、Core Ultra(200V・Series 3) | Graphics Beta Preview Feature Driver 32.0.101.9154 |
| Qualcomm | Snapdragon X2 | 2027年第1〜2四半期に提供する目標 |
同じ対応表でAMDのRX 7000が載るのは、PreviewのうちGPU Timeline CopyDescriptorsだけで、新しいDXR機能の対象欄にはありません。Intelも、ドライバー自体はArc Aシリーズにも入れられますが、新DXR機能の対象として挙げているのはArc BシリーズとCore Ultraです。
対象外のGPUでも、従来のレイトレーシングが使えなくなるわけではありません。Microsoftのサンプルコードは、対応を問い合わせて、非対応なら従来のBLAS/TLASの作り方へ切り替えるか、非対応として扱う形です。
一部の古いレイトレーシング対応GPUは、対応が未定です。実装の過程で性能の問題が見つかれば、機能を公開するのが現実的でない場合もあるためです。
ゲーム側標準APIは正式版待ち、先行例はGears of War E-Day
新機能を使うには、ゲーム側が1.722 Previewのヘッダーとランタイム、Shader Model 6.10対応のシェーダーコンパイラーを組み込み、デバイスを作る前に試験機能を有効にして対応の有無を確認します。対応していないGPU向けには、従来の方式へ切り替える処理も用意することになります。
試験機能の有効化には、Windowsの開発者モードが前提です。試験機能を有効にするD3D12EnableExperimentalFeaturesは、開発と実験のためだけの仕組みで、開発者モードが有効でなければ使えません。そのため、製品版のゲームが標準APIでこの機能を使うのは、Retailに入ってからと考えられます。
Clustered Geometryのシェーダー命令にはShader Model 6.10が使われます。Shader Model 6.10は今回もPreviewのままで、Microsoftは12月上旬のAgility SDK 1.621 Retailで正式版になる予定だと案内しています。DXRの新機能がRetailに入る時期は書かれていません。
すでにゲームで使われている先行例が、NVIDIA独自のAPI「RTX Mega Geometry」でClustered Geometryを採用した『Gears of War: E-Day』です。RTX Mega Geometryによって、UE5のNaniteジオメトリを、簡略化したLumenのプロキシではなくそのままレイトレーシングできるようになりました。DirectXへ標準化されれば、対応ハードウェア共通の導入経路になり、今後のより多くのタイトルが使いやすくなります。『Gears of War: E-Day』先行版の検証とRTX Mega Geometryの仕組みは別の記事にあります。
影響期待できることと、まだ分からないこと
- 動く物体や広い世界が多いシーンで、レイトレーシング用データの更新負担が減る可能性がある
- 描画と同じ精細さのジオメトリで、影や反射を計算しやすくなる
- NVIDIA独自だった方式が標準化され、AMD・Intelも共通の経路で対応できる
- ゲームが対応するまでは何も変わらない
- 標準APIが正式版に入る時期は未発表
- 公開された数字はテスト用サンプルで、ゲームのfpsではない
- RX 7000・Arc Aは新DXR機能の対象欄にない
プレイヤー今すぐやることはありますか
- Agility SDKを個別に入れる必要はありません。Agility SDKは、ゲーム開発者がゲームに同梱する形で、Windows標準より新しいDirectX 12の機能を使えるようにする仕組みです。プレイヤーが別途ダウンロードするものではありません。
- 開発者モードをオンにする必要はありません。開発者モードはPreviewの試験機能を有効にするための前提条件で、プレイヤー向けの設定としてMicrosoftは案内していません。
- GPUドライバーは通常どおり更新します。NVIDIAは新機能の対象ドライバーをGame Ready 621.01としています。621.01導入後に動画が止まる・暗転する場合の対処は別の記事にあります。
- AMD・Intelのプレビュー用ドライバーは入れなくて構いません。AMDの「Developer Preview Edition」とIntelの「Beta Preview Feature Driver」は、開発者が新機能を試すための提供です。標準APIの新機能はPreview段階で製品版のゲームが使えないため、通常のゲーム用途で入れる理由がありません。
- 買い替えを急ぐ理由はありません。新機能は既存のレイトレーシング対応ハードウェアで動く設計で、対応ゲームもこれからです。
GPU選び次に買うなら対象の世代から
GPUの買い替えは、今回のPreviewを理由にする必要はありません。次に買うなら、新機能の対象に入る世代を選んでおくと、対応ゲームが出たときに使える可能性があります。ゲーム側の対応とドライバーの提供が前提です。
まとめDXRの新機能は1.722 Preview、いまは対応ゲームを待つ段階
Agility SDK 1.620は、GPU診断とASDの更新を含むRetailです。DXRのClustered Geometry・Partitioned TLAS・間接ビルドは1.722 Previewで、対象はNVIDIAの全RTX GPU、AMDのRX 9000シリーズ、IntelのArc BシリーズとCore Ultra(200V・Series 3)です。RX 7000とArc Aは、新DXR機能の対象欄にありません。
公開された数字はテスト用サンプルのもので、ゲームのfpsがその倍率で伸びるわけではありません。効果が出るのはゲームが対応してからで、プレイヤーがSDKを入れたり開発者モードをオンにしたりする必要はありません。いまは、GPUドライバーを通常どおり更新するだけで足ります。
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出典公式資料
Microsoft DirectX Developer Blog「Announcing Agility SDK 1.620 Retail and 1.722 Preview」 / Microsoft DirectX Developer Blog「[PREVIEW] Raytracing: Clustered Geometry, Partitioned TLAS, Indirect Acceleration Structure Builds」 / Microsoft DirectX-Specs「DirectX Raytracing (DXR) Functional Spec, Part 2」 / Microsoft Learn「D3D12EnableExperimentalFeatures」 / Microsoft DirectX Developer Blog「Getting Started with the Agility SDK」 / Microsoft DirectX Developer Blog「Advanced Shader Delivery is Available Now Across Hardware and Coming Soon to Other Storefronts」 / NVIDIA「Clustered Geometry and Partitioned TLAS Launch in DirectX 12, Standardizing RTX Mega Geometry」 / AMD「AMD Software: Agility SDK Developer Preview Edition 26.20.12.01」 / Intel「Intel Graphics Beta Preview Feature Driver」






