DLSS5のニューラルレンダリング処理を2枚目のGPUへ完全分離するReShade MOD「MGPU Bridge」、検証データを公開
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個人開発者のReShadeアドオン「MGPU Bridge」が検証データを公開
出典:Marcelo Guibout氏によるGitHubリポジトリ「Neural Coprocessor」README、RESULTS.md、VENDOR_LOCK.md(いずれも2026年9月7日時点の内容を確認)。開発者本人による検証結果の公開であり、NVIDIA・各ゲームの開発元からの本件についての公式コメントは確認できていません。
DLSS5のニューラルレンダリングは、映像の質感を大きく変えられる代わりに処理負荷が重く、GPU本来の描画性能を圧迫する懸念が指摘されてきました。フレームレートを稼ぐために内部解像度を下げても、ニューラルレンダリングの処理コストはほとんど変わらないため、アップスケーリングの恩恵をそのまま食いつぶしてしまう構造的な問題です。
この課題に対し、個人開発者のMarcelo Guibout氏が、DLSS5のニューラルレンダリング処理をまるごと2枚目のGPUへ移すReShadeアドオン「MGPU Bridge」を公開しました。着眼点は、ニューラルレンダリングが「完成したフレームを受け取り、完成したフレームを返す」終端処理であるという性質です。レンダリングの途中経過を分割する従来のSLIとは異なり、この処理だけを丸ごと別のGPUへ渡せるという発想にもとづいています。
公開されたGitHubリポジトリには、フレームレート実測値・発熱・レイテンシから、色味の不具合や動作しないケースまで、都合の悪い数字も含めた検証データが公開されています。この記事では、実測値が『The Blood of Dawnwalker』でのみ計測されたものであること(『サイバーパンク 2077』は互換性確認用途にとどまります)を明確にしたうえで、対応GPU世代の範囲や、導入前に知っておきたい限界まで整理します。
目次
発想ニューラルレンダリングは「完成したフレームを返すだけ」の処理
DLSS5のニューラルレンダリング(DLSS-NR)は、映像の反射やキャラクターの質感といった要素をAIが描き直す処理です。処理が重いことは知られていましたが、開発者のMarcelo Guibout氏が着目したのは、この処理が「完成したフレームを受け取り、完成したフレームを返す」終端処理(terminal stage)であるという性質でした。
従来のSLIやマルチGPUレンダリングは、1枚のフレームを描画している途中の処理を複数のGPUに分割する仕組みでした。これに対しニューラルレンダリングは、レンダリングがすべて終わったあとの最後の工程だけを担当します。つまり、ゲーム側のレンダリングには一切手を加えず、完成したフレームをコピーして別のGPUに渡し、そちらで処理させてから表示すればよいという理屈が成り立ちます。Guibout氏はこの着眼点にもとづき、開発者自身が「これは従来のSLIではない」と明言する形でMGPU Bridgeを実装しました。フレームの途中経過を分割する処理は一切行っていません。
仕組みフレームがGPU間を渡る経路と、導入に必要な条件
MGPU BridgeはReShadeの.addon64ファイルとして実装されたアドオンで、DirectX12のゲームに対して次の手順で動作します。
- GPU1(レンダリング用のカード)がゲームを通常どおり描画する
- 完成したフレームを、クロスアダプタ共有ヒープ経由でGPU2(ニューラル処理用のカード)へコピーする
- GPU2側でDLSS Neural Renderingを実行する
- GPU2に接続された専用モニターへ結果を表示する
ゲーム自体のレンダリング処理には一切手を加えず、完成したフレームを読み取って別の場所で処理するだけ、という構造です。この仕組みが成立するための条件がいくつか明記されています。
まず、GPU2枚とモニター2枚(各GPUに1枚ずつ)が必須です。ニューラル処理を担当したカードがそのまま結果を表示するため、処理結果をレンダリング側へ転送し直す必要がありません。逆にGPU2をモニターなしのヘッドレス状態で動かすと、スループットが33%低下し、レイテンシもほぼ倍増することが確認されています。
もうひとつの条件は、ReShade自体がアドオンに対応したビルド(6.8.0以降)であることです。エフェクトのみの通常版ReShadeは.addon64ファイルを読み込まず、ログにも何も残らないため、動作しない場合の原因として最も多いとされています。対象になるのはDirectX12タイトルのみで、DirectX11やVulkanのタイトルではアドオンが読み込まれても何も起きません。一部のUnityタイトルは-force-d3d12オプションで強制できるとされています。
NVIDIAのNGXライブラリのうち、ドライバーに同梱されている「NGXコア」はそのまま利用しますが、DLSS-NR本体にあたるDLLはゲーム側のインストールフォルダから読み込む方式です。このプロジェクト自体はこのDLLを同梱・配布しておらず、入手方法も説明していません。導入にはRTX50シリーズと対応ドライバーが別途必要です。
検証結果『The Blood of Dawnwalker』で計測されたフレームレート
この仕組みが実際にどれだけの効果を持つのか、開発者はメインの検証機材(Ryzen 7 7800X3D、DDR5 32GB、RTX 5060 Ti 16GB×2枚、両カードともCPU直結のレーンでPCIe5.0 x8を確保)を使い、1920×1080の『The Blood of Dawnwalker』で計測しています。
- DLSS5オフ67〜70fps
- レンダリング側で実行44fps
- 2枚目のGPUで実行67〜70fps
- DLSS5オフ98〜99fps
- レンダリング側で実行54〜55fps
- 2枚目のGPUで実行91fps
- DLSS5オフ127〜131fps
- レンダリング側で実行59fps
- 2枚目のGPUで実行106〜107fps
- DLSS5オフ172fps
- レンダリング側で実行69〜71fps
- 2枚目のGPUで実行157fps
「DLSS5オフ」はDLSSのアップスケーリング自体は有効で、ニューラルレンダリングの段階だけを無効にした状態です。すべての列で内部解像度は共通で、ゲームのレンダリングは常に同じカードで行われ、変わるのはニューラルレンダリングをどちらのカードが実行するかだけです。
このMODの紹介では『サイバーパンク 2077』の映像が使われることがありますが、開発者の検証で『サイバーパンク 2077』が使われたのは動作の互換性・安定性・消費電力の確認のみで、ここまでに紹介したフレームレートの数値はいずれもこのタイトルのものではありません。実測データの出典は『The Blood of Dawnwalker』(1920×1080)に限られます。
コストの構造画質を下げた際の伸びしろをどれだけ確保できるか
DLSS5オフを基準にした場合、ニューラルレンダリングの処理コスト(フレームレートの低下率)は次のとおりです。
| DLSSモード | レンダリング側で実行 | 2枚目のGPUで実行 |
|---|---|---|
| DLAA | -36% | 0%(実質コストなし) |
| Quality | -45% | -8% |
| Performance | -54% | -17% |
| Ultra Performance | -59% | -9% |
レンダリング側でニューラルレンダリングを実行すると、DLAAで36%、Qualityで45%、Performanceで54%、Ultra Performanceで59%とフレームレートが落ち込みます。DLSS-NRの処理コストは常に出力解像度基準でかかるためモードを変えてもほとんど変わらず、内部解像度を下げるほど、レンダリング側では処理コストが相対的に重くのしかかる格好になります。一方、2枚目のGPUで実行した場合のコストはDLAAで実質ゼロ、Qualityで8%、Performanceで17%、Ultra Performanceで9%にとどまっています。とくにDLAAは、レンダリング側のGPUがもっとも忙しくニューラル処理に回す余力が最も少ないはずの設定であるにもかかわらず、処理を移したことでコストが実質ゼロになっている点が特徴です。
開発者はフレームレートの絶対値よりも、DLAAからUltra Performanceまで画質設定を下げた際に本来得られるはずの伸び幅がどれだけ保たれるかを重視しています。
| 条件 | DLAA→Ultra Performanceの伸び | 確保できた割合 |
|---|---|---|
| DLSS5オフ | +151% | – |
| 2枚目のGPUで実行 | +129% | 86% |
| レンダリング側で実行 | +59% | 39% |
DLSS5をオフにした状態では、この伸び幅は+151%です。2枚目のGPUで実行した場合は+129%で、本来の伸び幅の86%を確保できています。レンダリング側で実行した場合は+59%にとどまり、確保できた割合は39%です。アップスケーリングでフレームレートを稼ごうとしても、ニューラルレンダリングをレンダリング側に残したままでは、その恩恵の6割以上を失っている計算になります。
発熱とレイテンシもう一つの効果と、まだわかっていないこと
発熱面にも変化が見られます。ヘッドライン計測に使われたメインの検証機(Ryzen 7 7800X3D、PCIe5.0 x8構成)では、同じセッション内でレンダリング側GPUの温度が、ニューラルレンダリングを2枚目のGPUへ移すことで71℃から61℃へ、およそ10℃下がりました。開発者はさらに条件の厳しい別の検証機でも同様の傾向を確認しています。こちらはレンダリング側GPUがチップセット経由のPCIe3.0 x2スロットに接続され、2枚目のGPUだけがCPU直結のレーンという、意図的に最も不利な構成でテストされたもので、1440p・Qualityモードでの計測では21℃の差が出ています。ただしこの2つの検証機は冷却構成やケースの有無が異なるため、開発者自身が単純比較はできないと注記しています。
レイテンシについては、2枚目のGPU上でのニューラル処理1回あたり約8.3ミリ秒(1080p)という実測値が公開されています。ただし、入力してから実際に画面に光が届くまでの本来の意味でのレイテンシ(フォトン・トゥ・フォトン)は計測されていません。計測されているのは、リンクを跨いだ「送信から消費まで」というより狭い範囲の時間です。開発者は数分間のプレイセッションでは違和感なく遊べたとしていますが、これは正式な計測ではないと明確に断っています。
対応GPU世代ニューラル処理側はRTX50必須、レンダリング側はRTX40でも動作確認
NVIDIA公式は、DLSS Neural RenderingをGeForce RTX 50シリーズ限定の機能として文書化しています。MGPU Bridge自身もこの制限を変更できるわけではなく、RTX 40シリーズ以前のGPUを2枚目(ニューラル処理側)に使った場合、アドオンは読み込まれてログも正常に出力されますが、ニューラル処理そのものは何も生成されません。NVIDIAは2026年秋以降、RTX50シリーズ向けの最適化を終えたあとにRTX40シリーズへの対応拡大に着手すると公式に認めていますが、これはMGPU Bridgeとは別に進んでいるNVIDIA自身の計画で、提供時期はまだ確定していません。
一方、1枚目(レンダリング側)のGPUについては、RTX40シリーズでもすでに動作が確認されています。GitHubユーザーのsalient-cyanocitta氏が、RTX 4080 SUPER(レンダリング側)とRTX 5060 Ti(ニューラル処理側)の組み合わせで、『Horizon Forbidden West』と『サイバーパンク 2077』を使って検証を行い、実際に動作することを報告しました。この検証では、OptiScaler経由でDLSS-NR用DLLを入手する方法ではうまく動かず、別途入手したMOD版のDLLを使って初めて動作したとされています。開発者自身はRTX40シリーズの実機を所有していないため、この結果は開発者本人による検証ではなく、第三者による報告にもとづくものです。
限界と注意点導入前に知っておきたいこと
公開されている検証データには、いくつかの重要な制約が明記されています。
まず、このMODがモデルに渡しているのは完成したフレームの色情報だけで、ゲームエンジンが本来持っているモーションベクトルや深度情報は一切渡っていません。モーションは2枚目のGPU側がオプティカルフローで独自に推定し、深度情報はnull(空)として扱われています。開発者自身は「これらの数値は上限ではなく下限(floor)である」、つまりエンジンの本来のデータを使えるバージョンならもっと効率的に動作する可能性があると説明しています。
また、レンダリング側・ニューラル処理側いずれの計測も、DLSS5をゲームへ後付けで注入する経路(RenoDX)を使ったものです。ゲームが最初からDLSS5に正式対応している場合のネイティブ実装とは条件が異なり、開発者は「注入したうえでの自GPU実行と、注入したうえでの他GPU実行の比較であり、ネイティブ実装との比較ではない」と明記しています。
そのほか、導入前に把握しておきたい点は次のとおりです。
- 動作確認された最長の連続セッションは20分(『サイバーパンク 2077』・1440p)で、それ以上の長時間動作は未検証です
- フレーム生成機能との併用は1回試したセッションで問題が発生しており、現状は非推奨・未検証とされています(このセッションでは他の設定変更でも不具合が出ていたため、フレーム生成そのものが原因と断定されているわけではありません)
- 色味の扱いは未実装で、検証した2本のタイトルのうち1本では出力が色あせて見える不具合があります。アドオン側の「tone」パラメータを下げることで開発機では改善したとされていますが、汎用的な解決策として保証されているわけではありません
- RTSSやMSI Afterburnerなど、Present関数をフックする外部オーバーレイツールとは構造的に相性が悪く、正しく動作しません。1つのプロセス内にゲーム用とブリッジ用の2つのスワップチェーンが存在するためで、開発者はReShade自体が持つFPS表示機能を使うことを勧めています
MGPU BridgeはNVIDIA公式のDLSS5実装ではなく、NVIDIAとは無関係・非公認の個人プロジェクトです。SLIの復活を謳うものでもありません。開発者自身も「これは研究コードであり、測定結果を公開してはいるが製品ではない」と位置づけています。
読者の判断影響を受けるのは誰か、いま何をすればいいか
今回の検証結果を踏まえると、取るべき対応は所有しているGPU構成によってはっきり分かれます。
- ほとんどのプレイヤーが該当します。RTX50シリーズを1枚だけ使っている環境や、シングルGPU構成では今回のMODを導入する条件を満たしません
- GPUの買い替えは不要です。ニューラルレンダリングそのものへの対応は、今後のドライバー・ゲーム側の最適化で変わっていく可能性があります
- 導入にはGPU2枚・モニター2枚・アドオン対応版ReShade・DirectX12タイトルという複数条件が同時に必要で、一般的な環境では現実的ではありません
- RTX50シリーズのGPUをすでに2枚所有している、またはニューラル処理用に2枚目を追加する予定がある人
- RTX40シリーズをレンダリング用に、RTX50シリーズをニューラル処理用に組み合わせる構成に興味がある人(第三者による動作確認のみで、開発者本人による検証ではない点に注意)
- 発熱やレイテンシなど、公開されている生データを自分の目で確認してから判断したい人
DLSS5を使わない構成で、余っているグラフィックボードを流用したい場合は、Lossless Scalingのフレーム生成をデュアルGPUで実行する構成も選択肢になります。こちらはニューラル処理側にRTX50シリーズを必要としないため、導入のハードルはより低くなります。
FAQよくある質問
総括まとめ|終端処理という着眼点と、包み隠さない検証データ
個人開発者のMarcelo Guibout氏が公開したReShadeアドオン「MGPU Bridge」(プロジェクト名Neural Coprocessor)は、DLSS5のニューラルレンダリングが「完成したフレームを受け取り、完成したフレームを返す」終端処理であるという性質を利用し、この処理だけを2枚目のGPUへ丸ごと移す仕組みです。従来のSLIのようにレンダリングを分割するものではありません。
『The Blood of Dawnwalker』(1920×1080)での実測では、ニューラルレンダリングをレンダリング側のGPUで実行すると最大59%のフレームレート低下が発生する一方、2枚目のGPUで実行するとコストはDLAAで実質ゼロ、他のモードでも8〜17%程度に収まっています。画質設定を下げた際に本来得られる伸び幅(+151%)のうち、2枚目のGPUで実行した場合は86%を確保できるのに対し、レンダリング側で実行した場合は39%にとどまります。
ただし導入にはGPU2枚・モニター2枚・アドオン対応版ReShade・DirectX12タイトルという条件が同時に必要で、ニューラル処理側にはRTX50シリーズが必須です。レンダリング側はRTX40シリーズでも第三者検証で動作が確認されていますが、開発者本人による検証ではありません。色味の不具合やレイテンシの正式な未計測分など、公開されているデータには限界も明記されています。NVIDIA非公式・非公認のプロジェクトであり、一般的なプレイヤーが今すぐ導入を検討する段階のものではありません。



