PCに高さ1.1mの煙突を装着した結果|Ryzen 7 9800X3Dが90℃から71℃まで低下【der8auer氏検証】
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Ryzen 7 9800X3Dの温度が90℃から71℃へ、ファンなしで19℃低下
出典:Tom’s Hardware「Modder der8auer builds 110cm 3D-printed chimney to passively cool Ryzen 7 9800X3D without fans, cuts temps by 19C」、VideoCardz「3D-printed 110cm chimney lowers Ryzen 7 9800X3D temperature from 90°C to 71°C」、Hackaday「Using The Chimney Effect To Drop Passively Cooled PC Temperatures」にもとづきます。Ryzen 7 9800X3Dの動作温度・TDP仕様はAMD公式製品ページを参照しています。
ゲーミングPCの冷却というと、ファンの枚数や口径、水冷ラジエーターのサイズを増やす方向で考えがちです。しかし今回海外で話題になった検証は、その逆をいく発想でした。ラジエーターファンを一切使わず、代わりに高さ1.1mのダクトを取り付けるというものです。
検証したのは、CPUの直付けクーラーや簡易水冷キットのレビューでも知られるder8auer氏です。Ryzen 7 9800X3Dを水冷しながらラジエーターファンを取り外し、3Dプリントした煙突状のパーツを10cm、30cm、そして110cmへと段階的に延長。それぞれの段階で冷却液とCPUの温度を記録しました。最終的に、ファンを1枚も使わない状態でCPU温度が90℃から71℃まで下がっています。
この記事では、各段階の温度変化を追いながら、なぜ煙突を高くするだけで冷却効果が生まれたのか、その原理である「煙突効果」を整理します。あわせて、この結果がどのPCにもそのまま当てはまるわけではない理由と、一般的なゲーミングPCのエアフロー設計に応用できる考え方も解説します。
ラジエーターファンを外した状態で3Dプリント製の煙突を段階的に延長し、高さ1.1mに達した時点でRyzen 7 9800X3Dの温度が90℃から71℃まで低下しました。冷却効果を生んだのは、温かい空気が縦長の空間を上昇する煙突効果です。ただし水冷ポンプは動作したままで、煙突自体は通常のPCケースに収まらないサイズのため、実用的なクーラーの代替にはなりません。一般的なPCでも応用できる排気経路の考え方まであわせて解説します。
目次
実験開始ラジエーターのファンを外すと冷却液は約61℃まで上昇
今回の実験は、Ryzen 7 9800X3Dを水冷しながら、ラジエーターに取り付けられていたファンを取り外すところから始まりました。水冷ポンプによってCPUとラジエーターの間では冷却液が循環していますが、ラジエーターへ強制的に風を通すファンはありません。
煙突を取り付けていない状態では、冷却液の温度が約61℃まで上昇しました。ラジエーターには熱を効率よく逃がすための細かなフィンが並んでいますが、フィンの間を空気が通過する際には抵抗が発生します。通常はファンが圧力差を作り、空気をラジエーターへ押し込むか吸い出すことでこの抵抗を上回りますが、ファンがなければ温められた空気が自然に上昇する力だけに頼ることになり、フィンを通過する風量を確保しにくくなります。
最初の変化10cmの煙突を追加しても低下幅はわずか0.5℃
最初に取り付けられたのは、高さ約10cmの小型パーツです。これを追加すると、冷却液の温度は約0.5℃下がりました。大きな変化ではありませんが、短いダクトでも空気の流れにわずかな影響を与えたことになります。
この段階では、スモークを使って空気の動きを確認しても、目に見えるほど強い流れは発生していなかったと報告されています。煙突効果によって生じる圧力差は高さに応じて大きくなるため、10cm程度の高さでは十分な圧力差を作れなかったと考えられます。
中間結果煙突を30cmへ延長すると冷却液がさらに約5℃低下
次に煙突を延長し、全体の高さを約30cmにしました。30分間の安定化を経て温度を確認したところ、冷却液の温度はさらに約5℃低下しています。
ただし、この段階でもスモークによる確認では、目で見て分かるほど強い空気の流れは生じていなかったとされています。冷却液の温度は着実に下がっているものの、視覚的な変化として現れるにはもう一段階の高さが必要だったことになります。
最終形態1.1mに達すると冷却液は約50℃、CPUは71℃まで低下
最後に20cmの部品を複数追加し、煙突全体を約110cmまで延長しました。高さが1.1mに達すると、冷却液の温度はすぐに55℃を下回り、約5分後には50℃前後まで下がっています。ファンなしの状態だった約61℃と比較すると、冷却液は10℃前後低下した計算です。
Ryzen 7 9800X3Dの温度も、実験開始時の最大90℃から71℃まで低下しました。スモークをラジエーターの下へ流すと、空気がフィンへ吸い込まれ、そのまま煙突の上部へ向かって移動する様子が確認されています。ファンを1枚も使っていないにもかかわらず、ラジエーターを通過する明確な空気の流れが生まれました。
| 煙突の高さ | 冷却液温度の変化 | CPU温度 |
|---|---|---|
| なし(ファンも未装着) | 約61℃ | 最大90℃ |
| 約10cm | 約0.5℃低下 | ー(未公表) |
| 約30cm(30分後) | さらに約5℃低下 | ー(未公表) |
| 約110cm(1.1m) | 55℃を下回り、約5分後に約50℃ | 71℃ |
※各段階のCPU温度は、実験開始時の最大90℃と最終段階の71℃のみが報告されています。中間段階のCPU温度は情報源に記載がないため空欄にしています。
背景にある原理温度が19℃下がった理由は「煙突効果」
今回の実験で利用されたのが、煙突効果またはスタック効果と呼ばれる現象です。空気は温められると密度が下がり、周囲の冷たい空気より軽くなります。縦長の空間に暖かい空気が存在すると、その空気は上部へ移動し、上端の開口部から外へ排出されます。
暖かい空気が上へ抜けると、煙突の下部には周囲より低い圧力が生じます。その圧力差を埋めるように、下側から新しい空気が吸い込まれます。今回の装置では、ラジエーターによって温められた空気が1.1mの煙突内を上昇し、その空気が上端から排出されました。空気が上へ抜け続けることで、煙突の下にあるラジエーターへ室内の冷たい空気が引き込まれ、ファンを使わなくてもフィンを通過する空気の流れが発生したことになります。
圧力差のしくみ煙突を高くするほど冷却性能が上がる理由
煙突効果によって生じる圧力差は、煙突の高さと、内部と外部の空気密度の差に影響されます。世界保健機関がまとめた自然換気に関する資料でも、こうしたスタック圧力は空気の密度差、重力、上下の開口部の高低差によって決まるとされており、煙突が高いほど圧力差を大きくできるという考え方が示されています。
10cmの煙突では、空気を動かす圧力が小さいため、冷却液の温度改善はわずか0.5℃にとどまりました。30cmまで延長すると効果が明確になり、110cmまで高くした段階で、ラジエーターの抵抗を上回るだけの圧力差が生まれたと考えられます。煙突を単なる排気ダクトとして使ったのではなく、高さによって自然な空気の流れを発生させたことが、今回の実験のポイントです。
スペック上の上限Ryzen 7 9800X3Dにとって90℃は危険な温度なのか
AMDが公表しているRyzen 7 9800X3Dの最大動作温度、Tjmaxは95℃です。デフォルトTDPは120Wで、AMDは最適な性能を得るために水冷クーラーの使用を推奨しています。
実験開始時の90℃はTjmaxを下回っているため、この温度だけを見て即座に故障につながると判断することはできません。ただし、最大動作温度まで残された余裕は5℃しかなく、長時間の高負荷が続けばクロックや電力を調整する温度制御が働きやすい状態です。今回90℃まで上昇した主な理由は、Ryzen 7 9800X3Dが異常に発熱したからではなく、実験のためにラジエーターファンを取り外していたためです。一般的な水冷クーラーや空冷クーラーを正常に取り付けたPCで、必ず90℃に達するという意味ではありません。
結果の一般化19℃低下はすべてのPCで再現できるわけではない
Ryzen 7 9800X3Dが90℃から71℃へ低下した結果は、特定の水冷システムとラジエーター、室温、負荷、煙突の形状を組み合わせた一つの実験です。複数の環境や室温で繰り返し測定された平均値ではないため、PCケースに長い排気ダクトを付ければどの環境でもCPU温度が19℃下がる、と一般化して解釈するべきではありません。
通常のPCにはCPUだけでなく、GPU、メモリ、SSD、マザーボードの電源回路、電源ユニットなど複数の発熱源があります。CPU用ラジエーターだけを煙突で冷却できても、ケース内のほかの部品へ十分な風が当たらなければ、システム全体の冷却は成立しません。
電力を使う部分水冷ポンプは動作したまま、完全なファンレスではない
今回取り外されたのは、水冷ラジエーターに付いていたファンです。CPUブロックからラジエーターへ熱を運ぶには冷却液を循環させる水冷ポンプが必要で、実験中もポンプは動作していました。
そのため、電源を使わずにRyzen 7 9800X3Dを冷却した、あるいは完全ファンレスかつポンプレスで動作したという実験ではありません。正確には、水冷ポンプを使用しながら、ラジエーターを通過する空気だけを自然対流で発生させた構成です。ポンプ音は残りますが、ラジエーターファンの回転音をなくせる点は、静音化という観点では興味深い結果といえます。
巨大サイズの代償1.1mの煙突は現実的なCPUクーラーとは言えない
高さ1.1mの煙突は、一般的なデスクトップPC本体よりも大きくなります。通常のPCケース内部へ収めることはできず、PCの上にも大きな設置スペースが必要です。煙突が倒れないように固定する必要もあり、机の下や棚の中にPCを置くことも難しくなります。
der8auer氏自身も、通常のPCではファンを使ったほうが合理的で、煙突方式は実用的な代替手段ではないという結論を示しています。PC用ファンは数cm程度の奥行きで、ラジエーターのフィンを通過するための圧力を発生させられます。同じ圧力差を自然対流だけで作るために1.1mの高さが必要になるなら、設置面積やコストを考えてもファンのほうが現実的です。
排気計画普通のPCケースにも生かせる空気の流し方
1.1mの煙突を実際に取り付ける必要はありませんが、今回の実験から通常のPC冷却に応用できる考え方があります。重要なのは、温められた空気がケース内を循環せず、外部へ抜ける経路を作ることです。
排気口のすぐ近くに壁や棚板があると、排出した暖かい空気がケースの吸気口へ戻りやすくなります。ケースの上面や背面には、排気した空気が広がるための空間を確保したほうが安全です。また、吸気口から排気口までの経路に多数のケーブルや部品があると空気抵抗が増加します。前面や底面から冷たい空気を取り込み、背面や上面から暖かい空気を排出する流れを遮らないことが重要です。煙突効果だけで高性能CPUを冷却するのは非現実的ですが、暖かい空気が上昇する方向とケースファンの排気方向を合わせる設計は、自然な空気の流れを補助できます。より具体的なファン配置や正圧・負圧の考え方は、ゲーミングPCのエアフロー設計ガイドで詳しく解説しています。
効果は保証されない短いダクトを追加すれば通常のPCも冷えるのか
煙突ほど長くないダクトでも、排気した暖かい空気の再吸入を防ぐ効果は期待できます。たとえば、CPUクーラーやラジエーターから出た空気をケースの排気口まで直接導けば、暖かい空気がケース内部へ広がるのを抑えられます。
一方、ダクトを細くしすぎたり、途中に急な曲がりを作ったりすると空気抵抗が増え、ファンの風量が低下する可能性があります。ダクトを取り付ければ必ず温度が下がるわけではなく、取り付け前後でCPU温度、GPU温度、ファン回転数、騒音を測定してシステム全体への影響を確認する必要があります。今回の実験でも、10cmの煙突による改善はわずか約0.5℃にとどまりました。短いダクトを追加するだけでは、目に見えるほどの煙突効果が得られない可能性があります。手元のPCの温度がそもそも適正な範囲に収まっているかどうかは、GPU温度の適正値と冷却対策ガイドを参考に確認してみてください。CPU側の冷却に不安がある場合は、Ryzen 7 9800X3D用CPUクーラーの選び方も参考になります。
FAQよくある質問
総括まとめ|1.1mの煙突が示した空気の流れの整え方
der8auer氏が水冷ラジエーターへ高さ1.1mの3Dプリント製煙突を取り付けたところ、Ryzen 7 9800X3Dの温度は90℃から71℃へ低下しました。冷却液の温度も約61℃から50℃前後まで下がり、スモークを使った確認では、ファンがなくても空気がラジエーターへ吸い込まれる様子が確認されています。
冷却性能が向上した理由は、温められた空気が縦長の煙突内を上昇し、下部に生じた圧力差によって新しい空気が吸い込まれる煙突効果です。ただし、1.1mの煙突は通常のPCケースへ収まらず、水冷ポンプも動作したままのため、完全にファンを不要にできたわけではありません。一般ユーザーがラジエーターファンの代わりとして採用するのは現実的ではないというのが、der8auer氏自身の結論です。
それでも、排気経路を確保すること、暖かい空気の再循環を防ぐこと、ダクトの高さや形状が空気の流れを変えることを実際の温度で示した点には価値があります。巨大な煙突をPCへ取り付ける必要はありませんが、ケースの上面や背面を塞がず、吸気から排気までの流れを整えることは、通常のゲーミングPCでも有効な冷却対策です。



