Wine 11.18リリース|Steam経由のマウス入力不具合やKOTOR・Bard’s Tale IVなどを修正
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Steam経由のマウス入力不具合やKOTOR・Bard’s Tale IVなどを修正
出典:Wine公式リポジトリ ANNOUNCE.md(wine-11.18)、Wine Bugzilla Bug 60290、およびPhoronix「Wine 11.18 Continues Building Out Its NTOSKRNL Implementation」にもとづきます。記事内の情報は2026年9月19日時点のものです。
Wine Projectは2026年9月18日、開発版の最新版「Wine 11.18」を公開しました。WineHQでは現在Wine 11.0がStable、11.18がDevelopmentとして公開されています。
今回の主な変更点は、Windowsカーネルドライバーとの互換性に関わるNTOSKRNL対応の拡充、コードの正当性に関する多数の修正、標準Cヘッダーの互換性改善、そして21件の既知不具合の修正です。派手な新機能追加より、ゲームを実際に操作・起動できなくする回帰の解消が中心のリリースになっています。
特にLinuxでWindowsゲームを動かすユーザーにとって注目したいのが、Steam経由でゲームを起動した場合だけ発生していたマウスボタンの誤動作です。Wine 11.18で何が変わったのか、Steam経由のマウス入力問題はなぜ特殊だったのか、ゲーム目的なら更新する価値があるのかを一次情報にもとづいて整理します。
Wine 11.18はベンチマークでFPSが上がるタイプの更新ではありません。マウスクリックが正常に認識されない、起動時に黒画面で止まる、ゲーム開始後に描画が壊れるといった「プレイできるかどうか」に直結する複数の回帰が修正されています。該当する症状が出ていないなら急いで開発版へ切り替える必要はありません。
目次
概要Wine 11.18では21件の不具合を修正
Wine公式のANNOUNCE.mdによると、Wine 11.18では合計21件の報告済み不具合が修正されています。ゲーム関連だけを見ても、かなり幅広い内容です。
| ゲーム・アプリ | Wine 11.18で修正された問題 |
|---|---|
| Assassin’s Creed Rogue | 一部テクスチャのNormal Map表示異常 |
| Super Meat Boy | 音楽が周期的に破損する問題 |
| Screamer 4×4 v1.2 | XWaylandフルスクリーンで40〜50秒後にクラッシュ |
| Enclave | 輝度調整が動作しない |
| Steam経由の複数ゲーム | マウスボタン処理の回帰 |
| STAR WARS: KOTOR | 3Dシーンの描画破損 |
| Return to Krondor | メニューの文字・グラフィック破損 |
| Bard’s Tale IV: Director’s Cut | MP4再生失敗によるブラックスクリーン・ハング |
| In Sound Mind | 起動動画再生中のクラッシュ |
Wine 11.18は大型機能を前面に出したアップデートではありませんが、ゲーム互換性という観点では修正内容がかなり実用的です。特に興味深いのが、Steamと組み合わせた場合だけ発生する入力問題です。
マウスSteam経由だとマウスがおかしくなる問題を修正
Wine Bug 60290では、複数のSteamゲームでマウスボタン処理がおかしくなる回帰が報告されていました。原因となった変更は、WineのX11ドライバーでルートウィンドウ上のRaw Mouse Button Eventを監視するよう変更したコミットまで特定されています。
単に「マウスが動かない」という不具合ではなく、ゲームによって症状がかなり異なっていました。『Blades of Time』では通常の左クリックでメニュー項目やゲーム内アクションを実行できず、右ボタンを押しながらでなければ左クリックが正常に機能しませんでした。ポイント&クリック型アドベンチャー『Mata Hari』では、インベントリや会話の選択肢をクリックするとクリック音は鳴るものの、実際の操作が実行されません。『Disney Epic Mickey 2』ではメニューで左クリックが使えなくなるだけでなく、ゲーム内で右クリックを短く押しただけなのに押しっぱなしとして認識され、ペイントを使い切るまで噴射し続ける症状も確認されています。操作できないだけではなく、「押した」「離した」というマウスイベント自体の認識が崩れていたことが分かります。
KOTORでは1クリックがダブルクリック扱いに
『STAR WARS: Knights of the Old Republic』I・IIでも同じ回帰が確認されています。Steam版ではインベントリ内のアイテムやロード画面のセーブデータを1回クリックしただけなのに、ダブルクリックしたかのように即座に選択・実行されていました。ゲームそのものは動作していても、意図しないアイテムを使用したり、セーブデータをすぐロードしてしまったりするため、実際のプレイにはかなり影響する不具合です。興味深いのは、同じKOTORでもGOG版では再現しなかったと報告されている点です。
同じゲームでもSteam版だけ発生した
Bug 60290で特に重要なのが、問題がSteamを経由した場合に依存していた点です。報告者は『Blades of Time』について、Steamから起動すると問題が発生する一方、DRMフリーのデモ実行ファイルを直接起動するとマウスは正常に動作するとしています。KOTOR I・IIについてもSteam版では回帰が再現するのに対し、所有していたGOG版では発生しませんでした。
つまり「このゲームはWine 11.17だとマウスがおかしい」という単純な問題ではありませんでした。同じゲーム、同じWine、同じPCでも、Steamクライアントを経由するかどうかによって症状が変わっていたことになります。Wineでゲームのマウス操作がおかしくなった場合、ゲームそのものやマウスドライバーだけではなく、「どのランチャーを経由しているか」も原因切り分けの条件になるということです。Wine 11.18ではBug 60290が正式に修正済みとしてクローズされています。
Bug 60290の報告環境はArch Linux、XFCE 4.20、X.Org Server 1.21.1.24で、通常のフルスクリーンとWine Virtual Desktopの両方で再現したとされています。原因となったコミットも winex11 に関係するものです。「Wine 11.18以前ならLinux上のマウス入力全般がおかしくなる」というわけではなく、X11上のWine、Steam経由、特定ゲームという条件が組み合わさって表面化した回帰でした。
KOTORマウスとは別の描画不具合も修正
『STAR WARS: Knights of the Old Republic』については、Wine 11.18で別の不具合も修正されています。Bug 60292では、新規ゲーム開始またはセーブデータ読み込み後、3Dシーンの上に大きな半透明の模様が表示されるグラフィック破損が報告されていました。Wine 11.16では正常でしたが、その後の開発版でOpenGL関連の変更が入り、回帰したとされています。
報告環境ではNVIDIA GeForce GTX 1660 SUPERとNVIDIA 610.57.04ドライバーで症状が発生していました。さらに興味深いのは、Nouveauでは発生せず、NVIDIAプロプライエタリドライバーでもNative Wayland Driverを利用した場合には発生しなかった点です。X11およびKDE Plasma上のXWaylandでは再現していました。一時的にはAlt+Tabでゲームから離れて戻る、アンチエイリアスや異方性フィルタリングなどのグラフィック設定を変更してリソースを読み込み直すことで描画破損を消せたと報告されています。Wine 11.18では、このKOTORの描画回帰も修正対象に含まれています。
つまりKOTORユーザーにとってWine 11.18は、Steam版のマウス入力と、KOTOR Iの3D描画という異なる2種類の問題が改善されたバージョンになります。
動画再生Bard’s Tale IVのブラックスクリーンも修正
『The Bard’s Tale IV: Director’s Cut』では、Wine 11.12以降でMP4動画の再生に問題が発生していました。報告によると、GOG版でゲームを起動すると、本来はメインメニューへ進む前に3本のMP4動画が再生されます。ところが問題が発生するWineでは最初の動画すら開始せず、マウスカーソル以外は黒画面のまま停止します。その状態でもゲームプロセスは終了しておらず、報告環境では実行ファイルがhtop上で約135%のCPU使用率を維持していました。
原因はWine 11.11から11.12までの間に入ったwinegstreamerの変更まで絞り込まれています。さらに、この問題は起動時動画だけではありません。ゲーム内のアニメーション付きメニュー背景やムービーにもMP4が使用されているため、起動動画を削除してメニューまで進めても、別の動画コンテンツは黒画面になっていました。Wine 11.17の開発版でも残っていましたが、Wine 11.18でBug 60307は修正済みとなっています。「ムービーファイルを削除すれば起動できる」という回避策ではなく、Wine側で動画処理の回帰が修正されたことになります。
動画再生In Sound Mindの起動時クラッシュも修正
動画関連では『In Sound Mind』にも修正があります。こちらはWineの mfreadwrite に入った変更によって、ゲーム起動時の開発元・パブリッシャーロゴ動画を再生またはスキップするとクラッシュするようになっていました。以前からWineでは動画が正常表示されず黒画面になる問題があったものの、その段階ではゲーム自体はクラッシュしませんでした。新しい回帰では動画処理中にゲームそのものが落ちるようになっています。
報告ではWineD3DではなくDXVKのネイティブ d3d11.dll を使用してもクラッシュしたため、Direct3D描画側よりMedia Foundation周辺の問題であることも切り分けられていました。Wine 11.18ではこのBug 60326も修正されています。Bard’s Tale IVとIn Sound Mindの両方で動画再生が問題になっていますが、同じ原因だったわけではない点には注意が必要です。Bard’s Tale IVはwinegstreamerのリサンプラー変更、In Sound Mindはmfreadwrite側の別の回帰として報告されています。「Wineで動画が出ない=コーデックを入れれば直る」と一括りにできない例です。
その他古いゲームの互換性改善も継続
Wine 11.18では、比較的古いゲームの互換性改善も続いています。『Assassin’s Creed Rogue』では、一部テクスチャにNormal Mapが誤った形で適用されているように見える描画問題が修正されました。『Super Meat Boy』では、プレイ中に音楽が周期的に破損する問題が修正されています。『Screamer 4×4 v1.2』ではGOG版をXWaylandのフルスクリーンで実行した場合、40〜50秒ほどでクラッシュする問題が修正対象になっています。最新のAAAタイトル対応だけではなく、古いWindowsゲームをLinuxで維持するというWineらしい互換性改善も多いアップデートです。
基盤NTOSKRNL対応も引き続き拡大
Wine公式がWine 11.18の主要変更として最初に挙げているのは、ゲーム修正ではなくNTOSKRNL対応の拡大です。NTOSKRNLはWindows NTカーネルの中核を担うコンポーネントで、ハードウェア抽象化、メモリやプロセスなどWindowsの低レベル処理に関係します。Wine自体はWindows APIをLinuxなどのPOSIX APIへ変換する互換レイヤーであり、仮想マシンや一般的な意味でのエミュレーターではありません。Windowsアプリケーションのユーザーモード部分については長年互換性が高められてきましたが、実際のWindowsカーネルドライバーを必要とするソフトウェアはWineにとって難しい領域の1つです。
Wine 11.18ではNTOSKRNL周辺でPnPデバイスの有効化、Container ID、必要な関数の実装やテスト追加などが進められています。ただし、これを「Windows用ドライバーがWine 11.18ですべて動くようになった」と解釈するのは早すぎます。現状はカーネルドライバー互換性を構築している途中です。ゲーム用途では、将来的にドライバーや低レベルコンポーネントへ依存するWindowsソフトウェアの互換性を広げるための基盤整備として見る方がよいでしょう。
注意Wine 11.18にすればSteam Playも自動的に直る?
ここは区別しておく必要があります。WineとValveのProtonは密接な関係がありますが、同じものではありません。Steamの「Steam Play」でWindowsゲームを起動する際には、通常WineそのものではなくValveがWineをベースに開発しているProtonが使用されます。したがってWine 11.18が公開されたからといって、Steam DeckやSteamのProton環境へ同じ修正が即座に反映されるとは限りません。Wine側の修正がProtonへ取り込まれる時期は、Proton側の開発状況によって異なります。
今回Bug 60290で「Steam経由」とされているのも、Steam Play全般で問題が出たという意味ではありません。報告はWindows版SteamクライアントとWineを組み合わせた環境で、Steamから対象ゲームを起動すると問題が再現し、実行ファイルを直接起動した場合やGOG版では発生しないという内容です。「Wine 11.18が出たのでProtonをWine 11.18へ変更する」といった考え方はしない方がよいでしょう。Steam Deckや通常のSteam Playを利用している場合は、使用中のProton Stable、Proton Experimental、GE-Protonなどに該当修正が取り込まれているかを別に確認する必要があります。
判断Wine 11.18へすぐ更新するべき?
Wine 11.18は開発版です。WineHQでもWine 11.0がStable、Wine 11.18がDevelopmentとして明確に分けられています。そのため、現在Wine 11.0などの安定版で必要なゲームやアプリが問題なく動いているなら、「11.18が新しいから」という理由だけで開発版へ切り替える必要はありません。一方、今回修正されたゲームをプレイしていて実際に症状が出ている場合は、11.18を試す意味があります。特にSteam経由でマウスクリックがおかしい、KOTOR Iの3D画面が破損する、Bard’s Tale IVが起動動画で黒画面になる、In Sound Mindが起動時にクラッシュするといった症状は、Wine公式が11.18の修正対象として明記しています。
アップデート後も問題が残る場合には、Wine Prefix、DXVKやVKD3D、Mesa・NVIDIAドライバー、X11/Wayland、Steam経由か実行ファイル直接起動かなどを分けて確認した方が原因を切り分けやすくなります。
FAQよくある質問
まとめWine 11.18は「FPS向上」より互換性改善が中心
Wine 11.18は、ゲーム性能が一気に向上するタイプのアップデートではありません。Wine公式が発表した主な変更はNTOSKRNL対応の拡大、コード正当性の修正、Cヘッダーの互換性向上と21件のバグ修正です。
しかしLinuxでWindowsゲームを遊ぶという観点では、今回の修正内容は見逃せません。特にSteam経由でしか再現しないマウス入力問題は、同じゲームでもSteam版とGOG版、Steam経由と実行ファイル直接起動で結果が変わるという珍しいケースでした。KOTORではさらに、NVIDIA+X11/XWaylandを中心に発生していた3Dシーンの描画破損もWine 11.18で修正されています。
Bard’s Tale IVではWine 11.12から続いていたMP4再生の回帰がようやく修正され、In Sound MindでもMedia Foundation周辺の新しいクラッシュ回帰が解消されています。Wineでゲームが動かなくなった場合、単純に「Linuxではこのゲームに対応していない」と判断するのではなく、Wineのどのバージョンから症状が発生したのか、Steamを経由した場合だけなのか、X11とWaylandで違いがあるのかまで比較することが重要です。
Wine 11.18は大型機能追加こそ少ないものの、ゲームを実際に操作・起動できなくする複数の回帰をまとめて解消した、Linuxゲーマーにとって実用性の高い修正版と言えます。



