『スチームパイロッツ』訴訟終結。1,100万円超の未完STG、開発報酬請求は認められず
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1,100万円超の未完STG、開発報酬請求は認められず
ゲーム開発会社ピクセルは、PC向け縦スクロールシューティングゲーム『スチームパイロッツ』を巡り、作曲家の古川もとあき氏との間で争われていた訴訟について、仙台高等裁判所の判決を受け入れると発表しました。
仙台高裁は2026年7月7日、同年1月29日の仙台地方裁判所判決を支持しました。ピクセルは最高裁判所への上告を検討したものの、裁判を続けるより前へ進むことが最善だとして上告せず、判決を受け入れています。
一審では、ピクセルが古川氏に求めた開発報酬と、古川氏側がピクセルに求めた損害賠償の主要請求はいずれも認められませんでした。一方、ピクセル代表・佐々木英州氏の発信については名誉毀損が一部認められ、40万円の支払いが命じられたと報告されています。
本作はMakuakeで2度の募集を行い、合計1,102万2,700円を調達しましたが、当初予定した2020年9月を過ぎても完成せず、2023年には返金を希望する支援者に向けた手続きが案内されました。本記事では、裁判所の判断、双方が訴訟前後に示した主張、プロジェクトの経緯を混同しないよう分けて整理します。
判決内容はピクセルの2026年7月21日発表と報道に基づきます。判決全文を確認できていないため、公開情報から読み取れない法的評価は補わず、当事者の主張とも区別しています。
目次
裁判結果高裁が一審を支持、ピクセルは上告せず
ピクセルの発表によると、仙台地方裁判所は2026年1月29日に一審判決を言い渡しました。ピクセルは判決を不服として控訴しましたが、仙台高等裁判所は7月7日に一審判決を支持。ピクセルは7月21日、最高裁への上告を行わず判決を受け入れる方針を公表しました。
| 争点・請求 | 公開情報上の結果 | 区別すべき点 |
|---|---|---|
| ピクセルから古川氏への開発報酬請求 | 認められず | 販売後の利益折半とは別に、報酬を支払う合意が成立したとは認められなかったと報告 |
| 古川氏側からピクセルへの損害賠償請求 | 認められず | ピクセルの開発離脱に、やむを得ない事情があったと判断されたと報告 |
| 佐々木氏の発信を巡る名誉毀損 | 一部認容 | 佐々木氏に40万円の支払いを命じたと報告 |
重要なのは、開発報酬を請求したピクセル側だけが全面的に敗れたわけでも、古川氏側の請求がすべて認められたわけでもない点です。開発報酬と損害賠償の主要請求は双方とも認められず、名誉毀損に関する請求の一部だけが認容された、という整理になります。
ピクセルは高裁判決について、クラウドファンディングが実施された事情が考慮されていないとして納得できないとの立場を示しました。ただし、これは判決後にピクセルが表明した見解であり、裁判所の判断そのものではありません。
当事者発表:PiXEL公式「古川元亮(古川もとあき)氏に対する報酬請求事件についてのご報告」(2026年7月21日)
契約の争点「クラファンで集金」と「ピクセルへの報酬義務」は別に判断
争いの中心には、両者の契約内容と、クラウドファンディングで集めた資金をどのように扱う合意だったのかという問題がありました。
ピクセル側が示していた主張
2022年の提訴時にピクセルが公表した説明によると、同社は当初、古川氏側がすぐに開発費を準備できないことから、ゲーム販売後の利益を折半する条件で開発に参加しました。その後、開発規模の拡大に伴ってクラウドファンディングが行われ、調達資金から開発費を支払う合意も成立したものの、同社への支払いは行われなかったと主張していました。
ピクセルは2021年11月、完成済みデータや成果物の権利引き渡しを条件として報酬を請求。2022年1月にプロジェクトからの離脱を発表し、同年に仙台地方裁判所へ訴えを提起しました。
古川氏側から示されていた説明
一方、古川氏側は訴訟中の回答で、クラウドファンディングはピクセルへ制作費を支払う目的ではなく、外部への発注費やゲーム完成に必要な経費へ備えるために実施した、との趣旨を説明していました。
また、ピクセルの開発離脱によって損害が生じたとする請求と、佐々木氏による発信を巡る請求も提起されました。これらの説明は当事者間で食い違っており、一方の主張だけを確定した事実として扱うことはできません。
Makuakeの資金用途表示だけでは契約内容は決まらない
Makuake第1弾の募集ページは、資金の運用方法として「ゲーム制作費(グラフィック・エフェクト・UI制作/演出/プログラム/デバッグ/その他)」などを挙げています。第2弾も、遅延への対応で追加の開発費が発生したことを再募集の理由としていました。
ただし、募集ページで資金用途にゲーム制作費が含まれていることと、その資金からピクセルへ特定額を支払う個別の契約が成立していたかは同じ問題ではありません。公開情報によると、裁判所は販売後の利益折半とは別に報酬を支払う合意の成立を認めなかったとされています。
制作費を受け取っていないことと、法的な支払義務のある報酬が未払いだったことは別です。開発報酬の請求が認められなかったため、本記事では「開発費未払い事件」ではなく「開発費を巡る訴訟」「開発報酬の請求は認められず」と表現しています。
募集の経緯2度のMakuakeで合計1,102万2,700円を調達

『スチームパイロッツ』は、古川もとあき氏がプロジェクト実行者となり、ピクセルがゲーム制作を担当したWindows PC向け縦スクロールシューティングゲームです。キャラクターデザインにShuzilow.HA氏、テーマソングの歌唱に國府田マリ子さんを起用。1~2人プレイと3段階の難易度が案内されていました。
募集ページでは、ゲームソフト、サウンドトラック、設定資料集、Tシャツ、ゲーム内への名前掲載など、多数のリターンが用意されていました。第2弾では2021年6月にプログラムを完了し、7月にデバッグ、8月に製品発注と発送を行うスケジュールが示されていました。
募集ページ:Makuake第1弾「オリジナルシューティングゲーム『スチームパイロッツ』を、夢のメンバーで作りたい!」 / Makuake第2弾「『スチームパイロッツ』を完成させて、皆様にお届けしたい!」
時系列2019年の企画開始から2026年の訴訟終結まで
| 時期 | プロジェクト | 訴訟・支援者対応 |
|---|---|---|
| 2019年5~12月 | 企画開始。12月16日に第1弾Makuake開始 | ― |
| 2020年3~9月 | 第1弾終了。当初の完成・発送予定を迎えるも遅延 | ― |
| 2021年4~11月 | 第2弾募集。8月の完成予定を超過 | ピクセルが11月に報酬請求の内容証明を送付したと説明 |
| 2022年 | ピクセルが開発離脱を発表。古川氏側は別のプログラマーによる継続を説明 | ピクセルが仙台地裁へ提訴 |
| 2023年 | Makuakeの活動報告は2022年11月28日を最後に更新なし | Makuakeが返金希望者向けの手続きを案内 |
| 2026年1月29日 | 完成・発売の確認なし | 仙台地裁が一審判決 |
| 2026年7月7日 | ― | 仙台高裁が一審を支持 |
| 2026年7月21日 | ― | ピクセルが上告せず判決を受け入れると発表 |
支援者対応2023年にMakuakeが返金希望者へ手続きを案内
2023年8月、Makuakeから返金を希望する支援者に向けた案内メールが送られました。報道によると、返金を受けるには期限内の手続きが必要で、まずプロジェクト実行者へ返金依頼のメッセージを送ることなどが条件として案内されていました。
したがって、「支援者全員へ自動的に全額返金された」とまでは確認できません。確認できるのは、Makuakeが返金希望者向けの対応を実施し、対象者に手続き方法を案内したことです。
ピクセルはプロジェクトからの離脱を公表しており、Shuzilow.HA氏も現在は関与していないと報じられています。Makuakeの2つの募集ページはいずれも、2022年11月28日の活動レポートが最後の更新として表示されており、本記事執筆時点でゲームの完成や発売を示す新たな告知は確認できませんでした。
今回の意味資金用途の表示だけで個別の報酬契約は証明できない
今回の結果から直接いえるのは、この当事者間では、販売後の利益折半とは別にピクセルへ開発報酬を支払う合意が成立したとは認められなかった、という点です。クラウドファンディングで資金が集まった事実だけをもって、特定の開発会社に対する報酬請求が当然に認められるわけではありません。
一方で、古川氏側が求めた損害賠償も認められていません。公開情報によると、ピクセルが完成前に開発から離れたことには、やむを得ない事情があったと判断されたとされています。
この事例をあらゆるゲーム開発契約へそのまま当てはめることはできません。ただ、小規模な共同開発であっても、業務範囲、報酬額と支払時期、クラウドファンディング資金の配分、成果物の権利、開発中止時の処理を文書で合意しておく重要性が見える事例です。
『スチームパイロッツ』を巡る訴訟は、高裁が一審判決を支持し、ピクセルが上告しない方針を示したことで終結しました。開発報酬と損害賠償の主要請求は双方とも認められず、名誉毀損に関する請求のみ一部認容されています。裁判は終わりましたが、1,102万2,700円を集めたゲームの完成・発売は確認できないままです。

