スクウェア・エニックスがGeminiでゲームQAを自動化|AIが画面を見てコントローラーを操作する仕組み【2026年7月】
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AIが画面を見てコントローラーを操作する仕組み
出典:ITmedia
大規模化するゲーム開発では、品質保証(QA)テストの負担が年々増えています。オープンワールドの広大なマップ、対応機種の多さ、PCの多様なハードウェア構成——すべてを人手だけで確認するのは簡単ではありません。
スクウェア・エニックスは2026年7月30日、GoogleのAI「Gemini」を使い、ゲーム画面を認識しながら自律的に検証を進めるQAテスト自動化の仕組みを披露しました。あらかじめ決めた手順をなぞるだけの従来の自動テストとは異なり、AIが状況を判断しながら地図を開いたりキャラクターを動かしたりします。
なお、スクウェア・エニックスとGoogle Geminiの組み合わせは今回が初めてではありません。渋谷・原宿で開催されたリアルイベント「ジェミニクエスト」は体験型の企画でしたが、本記事で扱うのは開発現場での品質保証(QA)への活用です。
目次
要点まず何が起きたか
スクウェア・エニックスは2026年7月30日開催の「Google Cloud Next Tokyo ’26」で、Googleの生成AI Geminiを使ったゲームQAテスト自動化のデモを披露しました。AIがゲーム画面を認識しながらコントローラーを操作し、地図を開いてキャラクターを移動させるなど、自律的に検証作業を進める仕組みです。対象のゲームタイトルやテストの精度は明らかにされていません。
経緯スクウェア・エニックスがGeminiによるQA自動化を披露
登壇したのは、スクウェア・エニックスでAI&エンジン開発ディビジョンのジェネラル・マネージャーを務める荒牧岳志氏です。『ファイナルファンタジーXV』でメインプログラマーを務めたほか、子会社ルミナスプロダクションズのスタジオヘッドとして『FORSPOKEN』のディレクターも歴任した人物です。
公開されたデモでは、AIがゲーム画面を確認しながらコントローラーを操作していました。与えられたテスト内容に応じてゲーム内の地図を開き、現在地や目的地を確認したうえで、キャラクターを移動させて検証を進めています。単純に録画された操作を再生するのではなく、画面の状態を認識しながら次の行動を決めている点が特徴です。
開発基盤には、Google Cloudが提供するAIエージェント構築基盤「Gemini Enterprise Agent Platform」(旧称Vertex AI)が採用されています。
荒牧氏は、ゲーム開発の現場で必要とされているのは、文章だけを処理できるAIではなく、ゲームの音を聞き、複雑に変化する画面を見て、現在の状況を理解できるAIだと説明しています。
相違従来の自動テストとは何が違うのか
ゲーム開発では以前から自動テストが利用されています。ただし、従来の自動テストは、「右へ3秒移動する」「メニューを開く」「特定のボタンを押す」といった操作を事前にスクリプトへ記述し、その手順を機械的に繰り返すものが中心でした。
この方式は、毎回同じ条件で動作を確認する場合には効果的です。一方で、カメラの向きが少し変わったり、キャラクターの位置がずれたり、敵やNPCの動きによって進路が変化したりすると、想定した操作手順が成立しなくなることがあります。
| 項目 | 従来のスクリプト型 | Geminiによる自律型 |
|---|---|---|
| 判断の仕方 | あらかじめ記述した手順を機械的に繰り返す | 画面を認識しながらその場で状況を判断する |
| 環境変化への耐性 | カメラ角度やNPCの動きがずれると手順が破綻しやすい | 目的地が見つからなければ地図を開くなど代替行動を選べる |
| 得意な場面 | 毎回同じ条件を確認する回帰テスト | 状況が変化しやすい探索的なテスト |
| 人間との近さ | 決められた操作の再現に近い | 人間のテスターの判断に近い |
今回のようなマルチモーダルAIを使ったテストでは、AIが画面を認識し、現在の状況を踏まえて行動を選択します。目的地が画面内に見つからなければ地図を開き、移動方向を確認してからキャラクターを動かすなど、人間のテスターに近い判断が可能になります。
Google Cloudも、Geminiがテキストだけでなく画像、映像、音声を扱えることを、ゲーム開発における強みとして挙げています。ゲーム会社は、こうしたマルチモーダルAIを利用して開発作業や品質保証を自動化できるとしています。
対象AIが自動化するのはゲーム操作だけではない
スクウェア・エニックスが目指しているのは、ゲームを自動でプレイさせるだけの仕組みではありません。
経済産業省が実施する「IP360」の採択情報によると、スクウェア・エニックスはAI駆動型品質チェックプラットフォームの構築を「開発プラットフォーム構築支援」の枠組みで進めています。対象となるのは、テスト設計、QAの自動プレイ、グラフィックス不具合の検出、ゲーム内テキストのチェックです。
つまり、AIにキャラクターを操作させるだけでなく、何をテストするのかを考える段階や、表示上の不具合を検出する段階まで自動化する構想です。
ゲーム画面に本来表示されるべきオブジェクトが存在するか、キャラクターが地形に埋まっていないか、エフェクトが正常に描画されているか、文章に誤字や不自然な表現がないかといった確認にも、AIを利用できる可能性があります。将来的には、AIがテスト項目を作成し、ゲームをプレイし、発見した問題を報告するところまでを一連の流れとして処理することも考えられます。
背景なぜゲーム開発でQAの負担が増えているのか
近年の大規模ゲームでは、検証すべき項目が急速に増えています。
オープンワールドゲームでは、広大なマップの地形やオブジェクト、クエスト、会話、時間帯、天候、NPCの行動などが複雑に組み合わさります。対応機種がPC、PlayStation、Xbox、携帯ゲーム機などに分かれている場合は、機種ごとの動作確認も必要です。
PCゲームでは、CPUやGPU、メモリ容量、グラフィックドライバー、解像度、アップスケーリング技術など、プレイヤーごとに環境が異なります。さらに、ライブサービス型ゲームではアップデートが継続的に行われます。新しいマップやキャラクターを追加した際には、新要素だけでなく既存コンテンツに問題が起きていないかも再確認しなければなりません。
ゲームの規模が大きくなるほど、すべての場所と条件を人間だけで繰り返しテストすることは難しくなります。Google Cloudは、ゲームテストと品質保証は時間とコストがかかる工程であり、ゲームが複雑になるにつれてAIエージェントによる自動化の重要性が高まっていると説明しています。
効率AI導入でゲームの開発期間は短くなるのか
スクウェア・エニックスは、Geminiをゲーム開発に導入することで、クリエイターがより創造的な作業へ集中できることや、開発期間を短縮できることをメリットとして挙げています。
AIが夜間や休日にも反復テストを続けられれば、人間の担当者が翌日に結果を確認する運用も可能です。たとえば、ビルドを更新するたびにAIが主要なマップを巡回し、進行不能や表示崩れがないかを確認できれば、問題を早い段階で発見しやすくなります。
ただし、AIを導入しただけで開発期間が必ず短くなるわけではありません。AIが正しく操作できているかを確認する仕組みや、AIが発見した異常を分類するシステム、誤検出を取り除く工程も必要です。ゲーム側に不具合があって目的地へ到達できない場合と、AIが操作を誤って到達できない場合を区別できなければ、テスト結果の信頼性は下がります。
そのため、実際の開発ではAIにすべてを任せるのではなく、人間がテスト内容や判定基準を管理しながら運用する形になると考えられます。
分業人間のゲームテスターは不要になるのか
今回の発表によって、ゲームテスターの仕事がすぐにすべてAIへ置き換わるわけではありません。
AIが得意とするのは、同じ操作を何度も繰り返すテストや、広いマップを巡回する作業、表示上の異常を機械的に探す作業です。一方で、「操作していて気持ちよいか」「難易度に納得感があるか」「演出が意図通り伝わるか」「ストーリーに感情移入できるか」といった評価には、人間の感覚が必要です。
ゲームとして正常に動いていることと、ゲームとして面白いことは同じではありません。AIがクリアできたからといって、プレイヤーにとって遊びやすいゲームであるとは限らず、反対にAIが失敗したからといって、人間にも難しすぎるとは限りません。
- 同じ操作を繰り返す反復テスト
- 広大なマップの巡回・進行不能チェック
- 表示崩れなど機械的に検出しやすい異常
- 操作していて気持ちよいかという体感
- 難易度の納得感や演出の伝わり方
- ストーリーへの感情移入
今後は、AIが単純な反復テストや大規模な巡回を担当し、人間のテスターがゲーム体験やバランス、操作感などを重点的に確認する分業が進む可能性があります。ゲームテスターが完全に不要になるというよりも、担当する仕事の中身が変わっていくと見るほうが現実的です。
品質バグのないゲームが増えるとは限らない
AIによるテスト範囲が広がれば、これまで見つけにくかった不具合を発見できる可能性があります。特に、広大なマップの一部でだけ発生する表示異常や、特定のルートを通った場合に起きる進行不能などは、AIによる長時間の自動プレイと相性がよい分野です。
しかし、AIを導入したからといって、発売時のバグが完全になくなるわけではありません。大規模ゲームでは、テストで見つかった問題をすべて修正できるとは限らず、発売日や開発予算との兼ね合いから修正の優先順位が付けられます。PC版では、膨大なハードウェア構成やドライバー環境を完全に再現することも困難です。
AIによって不具合を見つけやすくなることと、すべての不具合が修正されることは別の問題です。それでも、従来は人手不足や時間不足で十分に確認できなかった場所をAIが補えるのであれば、ゲーム全体の品質を底上げする効果は期待できます。
展開Geminiはゲーム内のキャラクターにも使われている
スクウェア・エニックスは、開発工程だけでなく、プレイヤーが直接触れるゲーム体験にもGeminiを利用しています。
Googleとスクウェア・エニックスは2026年3月、Gemini 2.5 FlashやGemini Live APIを活用し、『ドラゴンクエストX オンライン』向けの対話型AIバディ「おしゃべりスラミィ」を開発していることを公表していました。今回の7月30日の発表では、8月に14周年を迎える同作へ「おしゃべりスラミィ」を実装する予定であることも明らかにされています。
この取り組みは、ゲーム開発を支援するAIと、ゲーム内でプレイヤーを支援するAIが同時に広がり始めていることを示しています。今後は、プレイヤーの質問に答えるキャラクターや、進行状況に応じてヒントを出す仲間、プレイスタイルに合わせて行動を変えるNPCが増える可能性があります。
一方で、AIキャラクターが世界観に合わない発言をしたり、誤った情報を案内したりするリスクもあります。ゲーム内AIについても、人間のシナリオライターや開発者による監督が重要になります。
動向カプコンなど他社でもAIテストの活用が進む
ゲームの自動テストにAIを使う動きは、スクウェア・エニックスだけではありません。
Google Cloudは2026年4月の米国イベントで、カプコンがGemini Enterprise Agent Platformを活用し、月間3万時間を超える自律的なプレイテストのほか、Gemini Visionによる視覚検査エージェント、不具合の発生しやすい箇所を予測してテストを集中させる予測エージェントなどを構築している事例を紹介しています。
Google Cloudのゲーム業界向けページでも、AIを使ってゲームの企画、コード生成、品質保証を効率化し、開発期間を短縮する用途が示されています。今後、AIによるゲームテストは一部企業だけの実験ではなく、大手メーカーを中心に標準的な開発手法へ近づいていく可能性があります。特に、大規模なマップや継続的なアップデートを持つゲームでは、AIによる反復テストの効果が大きいと考えられます。
現状現時点ではテスト精度や対象タイトルは不明
今回の発表では、AIがテストしていた具体的なゲームタイトルは明らかにされていません。使用しているGeminiのモデル名や、テストの成功率、1回の検証にかかる時間、人間と比較したコスト削減率も公表されていません。
AIがどの程度複雑なゲームを安定して操作できるのか、想定外の場面でどこまで自力で立て直せるのかも分かっていません。デモ映像で動作していることと、実際の大規模開発で毎日安定運用できることには違いがあります。
現段階では、実用化に向けた重要な取り組みである一方、具体的な効果を判断するには今後の運用実績や追加発表を待つ必要があります。
総括まとめ|AIはゲームを作るだけでなくプレイして検証する時代へ
スクウェア・エニックスは、GoogleのGeminiを使い、AIがゲーム画面を認識しながらコントローラーを操作するQAテストの自動化を進めています。AIは地図を開いて場所を確認し、キャラクターを移動させながら、自律的に検証作業を実行します。
経済産業省IP360の採択情報では、自動プレイだけでなく、テスト設計、グラフィックス不具合の検出、ゲーム内テキストの確認までを含む品質チェック基盤を構築するとされています。
AIが人間のゲームテスターをすぐに置き換える可能性は低いものの、反復操作や広範囲の巡回テストを担当することで、人間が操作感や面白さなどの評価へ集中しやすくなるでしょう。対象タイトルやテスト精度、開発期間をどの程度短縮できるかは明らかになっていません。
それでも、AIがゲームを作るだけでなく、実際にプレイして不具合を探す時代が始まりつつあることは間違いなさそうです。



