「グラフィック減速器」と呼ばれた内蔵GPUがAI時代に復活|ローカルLLMも動く共有メモリという武器
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大容量の共有メモリが、単体GPUにはない武器になっている
内蔵GPUと聞いて、いまだに「映像を映すだけの最低限機能」というイメージを持っている人は少なくないはずです。2000年代のIntel Graphics Media Accelerator(Intel GMA)は3Dゲームを快適に動かせず、その名称をもじって一部では「Graphics Media Decelerator(グラフィック減速器)」と揶揄されることもありました。
しかし現在の内蔵GPUは、当時とは別物と言えるほど姿を変えています。この記事では、AMD Ryzen AI Max+ 395が搭載するRadeon 8060S、Intel Core Ultra 200Vシリーズが搭載するIntel Arc 140V、そしてNVIDIAの小型AI開発システム「DGX Spark」を軸に、内蔵GPU・APU・共有メモリ搭載機の演算性能とメモリ構成を具体的な数値で整理します。
気になるのは「AI用途なら単体のグラフィックボードを買わなくても済むのか」「大容量の共有メモリと専用VRAMは実際に何が違うのか」という2点ではないでしょうか。メモリ帯域幅の弱点やNPUとGPUの役割分担まで踏み込んで、ゲーミングPC選びにどう影響するかを具体的に整理していきます。
AMD Ryzen AI Max+ 395は16コアのZen 5 CPUと、RDNA 3.5世代のRadeon 8060S(コンピュートユニット40基・最大2.9GHz)を統合し、最大128GBのLPDDR5Xメモリのうち最大96GBをGPU用に割り当てられます。Intel Core Ultra 9 288VもArc 140V(Xe2・8基のXeコア)でGPU単体最大67TOPSのAI性能を発揮します。NVIDIA DGX Sparkは128GBの統合メモリを備えるAI開発向けシステムで、最大2,000億パラメータのモデル推論に対応するとされます。一方でメモリ帯域幅は専用VRAMを積む単体GPUに軍配が上がる場面が多く、ゲーミング用途では引き続き単体GPUが有力な選択肢です。
目次
基礎知識内蔵GPU・APU・共有メモリの基本用語
本題に入る前に、記事内で繰り返し使う用語を整理しておきます。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 内蔵GPU(iGPU) | CPUと同じチップの中に組み込まれたグラフィック処理装置です。専用のグラフィックボードを追加しなくても、映像出力や3D描画をこなせます。 |
| APU | AMDがCPUとGPUを1つのチップにまとめた製品に使う呼び方です。近年は内蔵GPU性能を大きく引き上げたモデルを指すことが多くなりました。 |
| 共有メモリ(統合メモリ) | CPUとGPUが同じメモリ領域を分け合って使う仕組みです。専用のビデオメモリを別に持たない代わりに、システムメモリの容量をそのままGPU側でも利用できます。 |
| VRAM(ビデオメモリ) | グラフィックボードに搭載される専用の高速メモリです。GPU単体で処理を完結できる一方、容量は製品ごとに固定されています。 |
| TOPS | AI処理の演算性能を示す指標の一つです。数値が大きいほど1秒間に多くの推論演算をこなせますが、演算精度(INT8やFP4など)や測定条件がメーカーごとに異なるため、単純な数値比較には注意が必要です。 |
変化内蔵GPUは画面を映すだけの存在ではなくなった
従来の内蔵GPUは、CPUやマザーボードの一部に小規模なグラフィックス機能を搭載し、メインメモリをそのままビデオメモリとして使う仕組みでした。専用GPUチップと高速ビデオメモリを積んだグラフィックボードと比べると演算性能もメモリ帯域幅も低く、本格的なPCゲームには向かないという評価が長く続いてきました。
スペック比較AMD・Intel・NVIDIAの主要製品を並べて見る
ここまでに登場した製品と、比較対象となる単体GPUのスペックを一覧にまとめます。
| 製品 | 分類 | CPU | GPU | NPU | AI性能の目安 | 利用可能メモリ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| AMD Ryzen AI Max+ 395 | 統合型APU | Zen 5 16コア(最大5.1GHz) | Radeon 8060S(RDNA 3.5・CU40基・最大2.9GHz) | XDNA 2・最大50TOPS | CPU+GPU+NPU合算で最大126TOPS | 最大128GB LPDDR5X共有(うち最大96GBをGPUに割当可能) |
| Intel Core Ultra 9 288V | 統合型SoC | Lion Cove+Skymont 4+4コア | Arc 140V(Xe2・Xeコア8基・最大2.05GHz) | 最大48TOPS | CPU+GPU+NPU合算で最大120TOPS(INT8) | 最大32GBのオンパッケージLPDDR5X(CPU/GPUで共有・増設不可) |
| NVIDIA DGX Spark | AI開発向けSuperchip搭載機 | Armコア20基(高性能10+高効率10) | Blackwell世代(CUDAコア6,144基・SM48基) | 専用NPUは非搭載(GPU/CPUで処理) | GPU単体でFP4・スパース時最大1,000TOPS相当 | 128GB LPDDR5X統合メモリ(CPU/GPU共有) |
| 単体GPU(RTX 5060 Ti 16GB例) | 単体GPU(グラフィックボード) | なし(別途CPUが必要) | Blackwell世代(CUDAコア4,608基) | 非搭載 | 精度・世代により異なる(単純比較は不可) | 専用VRAM16GB(GDDR7・拡張不可) |
上の表にあるAI性能の数値は、AMDとIntelがINT8精度、NVIDIAがFP4精度かつスパース(疎行列)演算という異なる条件で公表しています。数値が大きいからといって、そのまま体感性能の優劣を示すわけではない点に注意してください。
共有メモリAI時代に注目される共有メモリという強み
内蔵GPU・APUが見直されている最大の理由は、CPUとGPUがシステムメモリを共有できる点にあります。
DGX SPARKNVIDIAも128GB共有メモリのDGX Sparkを展開
共有メモリを重視した設計はAMD製品だけではありません。NVIDIAの小型AI開発システム「DGX Spark」は、Armコア20基(高性能コア10基+高効率コア10基、MediaTek設計)とBlackwell世代GPU(CUDAコア6,144基、48基のSM)を1パッケージに統合した「GB10 Grace Blackwell Superchip」を採用し、128GBのLPDDR5X統合システムメモリを搭載しています。NVIDIAはDGX Sparkについて、最大2,000億パラメータ規模のAIモデルの推論に対応するほか、最大700億パラメータ規模のモデルのファインチューニング(追加学習)が可能としています。
DGX Sparkは一般的なゲーミングPCやノートPCの内蔵GPUとは性格が異なります。AI開発を目的とした専用システムで、Armベースの CPU・Linux環境・NVIDIAのAI向けソフトウェア群を組み合わせた製品です。米国での価格は当初3,999ドルでしたが、メモリの供給制約を理由に2026年2月以降は4,699ドルへ引き上げられており、コンシューマー向けの一般的な価格帯ではありません。「高性能な内蔵GPU搭載PC」というより、小型のAIワークステーションと捉えるのが実情に近い製品です。
帯域幅メモリ容量が多くても高速とは限らない
共有メモリには大容量化しやすいという利点がある一方、弱点もあります。最大の違いはメモリ帯域幅(GPUとメモリの間で1秒間に転送できるデータ量)です。AI推論やゲームでは大量のデータを繰り返し読み書きするため、帯域幅が狭いとGPU演算ユニットが高性能でもその能力を引き出し切れません。
| 製品 | メモリ帯域幅 |
|---|---|
| NVIDIA DGX Spark 128GB LPDDR5X統合メモリ | 273GB/s |
| AMD Ryzen AI Max+ 395 LPDDR5X-8000・256bit幅 | 256GB/s |
| GeForce RTX 5060 / RTX 5060 Ti 16GB GDDR7・128bit幅 | 448GB/s |
VRAM容量ではDGX Sparkが大幅に上回りますが、メモリ転送速度では比較的普及価格帯の単体GPUのほうが上回っています。Ryzen AI Max+ 395も256bit幅のLPDDR5X-8000に対応するものの、GDDR7のような高速な専用VRAMを積むGPUほどの帯域幅は持っていません。
共有メモリ方式は大きなモデルを読み込めることに強みがありますが、同じモデルを最も速く動かせるとは限りません。ローカルLLMでは、出力速度よりも高精度な大規模モデルを1台のPCで動かしたい人に向いた選択肢です。画像生成・動画生成を短時間で繰り返す用途では、高速な専用VRAMを持つ単体GPUのほうが有利な場合が多くなります。
単体GPUゲーミングPCでは単体GPUが依然として有利
内蔵GPU・APUの性能向上によっても、ゲーミングPCにおける単体GPUの重要性がなくなったわけではありません。
ここまで比較してきた448GB/sのメモリ帯域幅を持つRTX 5060 Ti 16GBは、高フレームレートでのゲーミングを優先しつつ、軽めのAI処理にも余裕を持たせたい人に向いた単体GPUです。
NPUとGPUNPUではなくGPUが使われる理由
近年のAI PCにはGPUとは別に、AI専用プロセッサであるNPU(Neural Processing Unit)も搭載されています。しかし大規模な生成AIモデルを動かす用途では、NPUよりGPUが使われるケースが多くなります。
「AI PC」と書かれているだけで、巨大なAIモデルを快適に動かせるとは限りません。NPUのTOPS値だけでなく、GPUが利用できるメモリ容量や対応ソフトを合わせて確認する必要があります。
使い分け内蔵GPUと単体GPUは競合ではなく使い分けへ
AI時代の内蔵GPUは、単体GPUを完全に置き換える存在ではありません。今後のPC選びでは「グラフィックボードがあるかないか」の二択ではなく、用途に応じて以下のポイントを確認するのが現実的です。
| 確認ポイント | 内容 |
|---|---|
| GPUが使えるメモリ容量 | 内蔵GPU(APU)ならシステムメモリのうちGPUに割り当てられる上限、単体GPUなら専用VRAMの容量を確認します。 |
| メモリ帯域幅 | 容量が大きくても転送速度が遅いと、AI処理・ゲームのどちらでもGPU演算性能を活かし切れません。 |
| AIソフトの対応状況 | 利用したいAIソフトがAMD ROCm・Intel oneAPI・NVIDIA CUDAなど、どの環境に対応しているかで実際に使える構成が変わります。 |
| GPUの演算性能 | TOPSやCUDAコア数、コンピュートユニット数は精度条件が異なるため、同条件のベンチマークで比較するのが安全です。 |
| 消費電力と冷却性能 | 内蔵GPUはCPUと電力・冷却枠を共有するため、長時間の高負荷では性能が制限されやすくなります。 |
| ゲームとAIどちらを優先するか | 高画質・高リフレッシュレートのゲーミングを優先するなら単体GPU、大規模モデルをローカルで動かしたいなら共有メモリの多いAPUが選択肢になります。 |
内蔵GPUが単体GPUより高性能になったわけではありません。AI処理でメモリ容量が重視されるようになったことで、内蔵GPUが持つ共有メモリという特性が新たに評価されるようになった、というのが実情に近い変化です。
FAQよくある質問
まとめまとめ|共有メモリという新しい評価軸
かつて「グラフィック減速器」と揶揄された内蔵GPUは、AMD Ryzen AI Max+ 395のRadeon 8060S(RDNA 3.5・CU40基・最大2.9GHz)やIntel Core Ultra 200VシリーズのArc 140V(Xe2・8基のXeコア・最大67TOPS)のように、演算ユニットを大幅に強化した製品へと姿を変えています。AI時代に注目されているのは演算性能だけでなく、CPUとGPUがシステムメモリを共有できる点です。Ryzen AI Max+ 395は最大128GBのLPDDR5Xメモリのうち最大96GBをGPU用に割り当てられ、専用VRAMを積む単体GPUでは容量的に収まらない大規模なAIモデルを読み込める可能性があります。
NVIDIAのDGX Sparkも128GBの統合メモリを備え、最大2,000億パラメータ規模のモデル推論に対応するとされていますが、Armベースの専用AI開発システムであり、一般的なゲーミングPCの内蔵GPUとは性格が異なります。共有メモリはモデルを大きく読み込めることに強みがある一方、メモリ帯域幅では専用の高速VRAMを積む単体GPUに軍配が上がる場面が多く、DGX Sparkの273GB/sやRyzen AI Max+ 395の256GB/sに対し、GeForce RTX 5060 / RTX 5060 Ti 16GBは448GB/sの帯域幅を持ちます。
高画質・高リフレッシュレートのゲーミングを優先するなら、依然として単体GPUが有力な選択肢です。一方でフルHDを中心に遊びつつ、ローカルでのAI処理も両立したい人には、大容量の共有メモリを備えた高性能APUが現実的な選択肢になってきています。内蔵GPUが単体GPUを打ち負かしたわけではなく、AI時代の到来によって内蔵GPUが評価される新しい基準が生まれた、と捉えるのが実態に近い変化です。





