GPUダイへ水を直接流すとAIOより冷える?RTX 2060の実験と注意点を解説
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RTX 2060 Superで28℃を記録。ただし「AIOより優秀」と断定はできない
出典:今回の直接水冷実験はTrashBench氏の元動画「I Pumped Water Directly Onto a Running GPU」、TweakTownの実験紹介、データセンター向け技術の説明はTom’s HardwareのLiquidJet分析
GPUを冷やすなら、大きなヒートシンクや水冷ブロックを使うのが普通です。ところがPCハードウェア系YouTuberのTrashBench氏は、GPUダイ周囲だけを密閉したチャンバーを自作し、シリコンダイへ冷却水を直接流す実験を公開しました。
紹介されたUnigine Heavenの結果では、RTX 2060 Superは標準空冷で70℃、AIOで36℃、直接水冷で28℃を記録しています。数字だけなら直接水冷が最も低温ですが、これは同じ条件を完全にそろえた製品比較ではありません。
この記事では、直接水冷が低いコア温度を記録できた理由と、実用化できない理由を分けて解説します。結論から言えば、これは市販水冷を置き換える方法ではなく、GPU冷却の熱抵抗を極端に減らすと何が起こるかを確かめた危険な実験です。
目次
先に結論28℃は興味深い。ただしAIOとの優劣は断定できない
コールドプレートを介さずダイへ冷却水を触れさせると、GPUコア温度を非常に低くできる可能性があります。一方で、水温・室温・流量・消費電力・測定時間・周辺部品の冷却条件まで一致した比較ではないため、「直接水冷がAIOより常に8℃優れる」とは結論づけられません。
| 方式 | GPUコア温度 | この記事での受け止め方 |
|---|---|---|
| 標準空冷 | 70℃ | 同じカードでの基準値として紹介された結果 |
| AIO | 36℃ | GPUコア用に装着したAIOでの記録。すでに大幅な低温化 |
| ダイへ直接水を流す方式 | 28℃ | 今回の実験での最低値。比較条件の差を含むため、方式の絶対的な優劣は未確定 |
温度はすべて、公開された実験紹介におけるUnigine Heaven時の値です。チップ温度を比べる際は、冷却液の入口温度と負荷が定常状態まで続いているかを確認しなければ、冷却方式だけの差とは切り分けられません。
実験の中身「GPUへ水をかけた」のではなく、ダイ周囲だけに水路を作った
今回の方式は、通電中のGPU基板全体へ水をかけるものではありません。GPUダイの周囲を樹脂やシール材で隔離し、3Dプリントした小型チャンバーの内部だけに水を循環させる構造です。

GPUには、デスクトップCPUのような着脱式IHSが付いていない製品が一般的です。正確には「ヒートスプレッダを外す」のではなく、もともと露出しているGPUダイと冷却液の間から、サーマルペーストと金属製コールドプレートを取り除く実験といえます。
これは基板へ水や冷却液をかける方法ではありません。それでも漏水はPCIeスロット、VRM、メモリ、電源回路の故障につながります。低温の冷却液では結露も起こります。保証対象外になるだけでなく、PC本体や周辺機器まで損傷させるおそれがあるため、一般的なゲーミングPCで試す方法ではありません。
仕組み低温化の鍵は「水が近い」ことではなく熱抵抗の削減
一般的なGPU水冷では、熱はGPUダイからサーマルインターフェース材、銅製コールドプレートを通り、冷却液へ移ります。各層は必要な部品ですが、そのたびにわずかな熱抵抗が加わります。

直接水冷は、その中間層を減らします。ダイ表面から水へ熱が移る経路を短くできるため、チップと冷却液の温度差を小さくできる可能性があります。ただし、単に水を流せばよいわけではありません。流量、水流が当たる位置、流路の面積、圧力損失、冷却液温度によって結果は大きく変わります。
データセンター向けの直接チップ冷却でも、冷却液をシリコンへ近づけるだけでなく、熱密度の高い場所へ流量を配分するマイクロチャネル設計が重視されています。これはDIYの平坦な水路とは別物ですが、熱抵抗と流路設計が重要という考え方は共通します。
比較の限界28℃と36℃の差だけでは、冷却性能の勝敗を決められない
今回の数値はニュースとして十分に面白い一方、ベンチマークとしては確認すべき条件が残ります。直接水冷側に大きな水量や低い水温が使われていたなら、ラジエーターで定常状態に達したAIOと単純比較はできません。
| 確認したい条件 | なぜ重要か | そろわない場合の見方 |
|---|---|---|
| 冷却液の入口温度 | 液温が低いだけでGPU温度も下がる | 水路の性能差ではなく、冷却液の温度差を含む記録になる |
| 定常状態までの時間 | 大きな水槽は短時間なら熱を吸収して低温を保ちやすい | 長時間運転時の温度を予測できない |
| 消費電力・クロック | 同じ負荷名でもGPUの電力とブーストが違えば発熱量が変わる | 温度だけで冷却能力を比較できない |
| VRAM・VRM温度 | GPUコアだけ冷やしても、基板全体が安全とは限らない | 「GPU全体が冷えた」とは言えない |
したがって本記事では、28℃を「今回の装置と条件で得られた記録」として扱います。市販AIOやフルカバー水冷ブロックの一般的な性能を否定する結果ではありません。
見落としがちGPUコアが冷えても、VRAM・VRMまで安全とは限らない
市販のフルカバー水冷ブロックは、GPUコアだけでなく、VRAMやVRMにもサーマルパッドを介して接触する設計が一般的です。純正クーラーを外すDIY実験では、こうした周辺部品の冷却を別途考える必要があります。
- GPUコア温度やホットスポット温度を下げられる可能性
- コア周辺の熱抵抗を減らしたときの挙動を観察できる
- VRAM、VRM、基板裏面の温度と長期安定性
- 水漏れ、腐食、結露、シール材の経年劣化
ゲーム用GPUでは、コア温度が低いことは良い状態の一部にすぎません。温度を下げたい場合は、まずGPUホットスポット温度の確認方法で、何が高温なのかを見分けるほうが安全です。
実用性市販GPUがダイ直上へ水を流さない理由
量産製品では、温度だけでなく数年単位の信頼性が必要です。ダイ周囲に水路を作る場合、製造ばらつきや落下・振動、冷却液の汚れ、材料の膨張収縮に耐えながら、完全に密閉し続けなければなりません。
また、冷却液を室温より大幅に低くすると、空気中の水分が冷えた部品に付く結露が問題になります。なお、TrashBench氏の別の実験では、ASUS Dual RTX 2060のヒートパイプへ不凍液を含む低温の冷却液を流し、13℃を記録したと報じられています。これは今回のRTX 2060 Superのダイ直上実験とは、カード・冷却経路・液温が異なるため、同じ比較表へ並べるべき数字ではありません。Tom’s Hardwareの別実験紹介
GPU温度が高い場合は、ケースの吸排気、ファンカーブ、GPUクーラーの汚れ、サーマルパッドやグリスの状態を順に確認してください。サイドパネルを開けて温度差を確認する方法は、エアフロー不足の切り分けには使えますが、常用はおすすめしません。
技術の行方「液体をもっと近づける」発想はデータセンターでも続く
AI向けGPUでは、熱抵抗を減らす冷却プレートやマイクロチャネルの研究が進んでいます。Frore Systemsも、LiquidJetを次世代GPUへ対応させる見通しを公表しています。
ただし、同社が示す温度低下や性能向上の数値は、メーカー側の熱設計モデル・分析を含む見通しです。今回のDIY実験や第三者による実測ベンチマークと同列には扱えません。TrashBench氏の実験と同一の技術ではありませんが、熱源と冷却液の間にある層を減らすほど、冷却設計と信頼性の両立が難しくなることを示す例としては参考になります。
FAQGPUの直接水冷でよくある疑問
まとめ直接水冷は「AIOの代替」ではなく、熱抵抗を可視化した実験
GPUダイへ冷却水を直接流すTrashBench氏の実験では、RTX 2060 Superが28℃を記録しました。標準空冷の70℃、AIOの36℃より低い数字であり、ダイと冷却液の間の熱抵抗を減らす効果を分かりやすく示しています。
ただし、水温や定常状態、周辺部品の温度などが完全にそろった製品比較ではありません。28℃を「直接水冷がAIOより常に優れる証拠」と読むのではなく、GPUコアだけを極端に近い位置から冷やした場合の興味深い記録として受け止めるべきです。
一般的なゲーミングPCでは、標準クーラーのメンテナンス、ケースのエアフロー改善、適切なファン設定、対応する市販水冷ブロックを優先してください。水漏れや結露の危険を伴う直接水冷を再現する必要はありません。



