DLSS 5をIntel Arc 140Vで再実装|NVIDIAコード不使用のXe2 XMX実装、1080pは約2.4fps
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NVIDIAコード不使用のXe2 XMX実装、1080pは約2.4fps
出典:GitHub「dlss-nr-on-intel」リポジトリ、NVIDIA Research「DLSS 5」技術ページ公式、Khronos「VK_KHR_cooperative_matrix」仕様(いずれも2026年9月19日確認)にもとづきます。
NVIDIAのGeForce RTX 50シリーズ向け技術「DLSS 5」のNeural Renderingを、Intel Arc 140Vで動作させる実験プロジェクト「dlss-nr-on-intel」が公開されました。NVIDIAのNGXやCUDAを一切使わず、推論処理をVulkan上で独自に再実装し、Intel Xe2に搭載された行列演算器「XMX」で計算させる内容です。
2026年9月18日計測のGitHub公式データでは、Arc 140Vは512×288なら約14fps、1920×1080では約2.4fpsにとどまります。実用的な速度ではありませんが、注目すべきはフレームレートではなく、NVIDIA向けのニューラルレンダリングモデルの推論を、別メーカーのGPUが持つ行列演算器へ実際に移植できたことです。
「NVIDIAのDLLを無理やり動かした」わけではない仕組み、学習済みモデルをどこまで自作したのか、そしてなぜ1080pでこれほど重いのかを、GitHub一次情報にもとづき整理します。
目次
要点まず結論
「dlss-nr-on-intel」は、DLSS 5 Neural Renderingの推論処理をVulkan上で再実装し、Intel Xe2のXMXで実行するプロジェクトです。NVIDIAのNGXやCUDAは使用しませんが、学習済みのweightsは利用者自身が用意する「nvngx_dlssnr.dll」から抽出する必要があり、モデル自体をゼロから学習し直したわけではありません。2026年9月18日計測の性能は、512×288で約14fps、1920×1080で約2.4fpsです。
仕組みNVIDIAのDLLを直接動かしたわけではない
今回の実験が、これまでの非公式DLSS 5 MODと大きく違う点はここです。プロジェクトの説明によると、NVIDIAのハードウェアだけでなく、NGXとCUDAも使用していません。ゲームがフレームを表示する際に呼び出す「vkQueuePresentKHR」をVulkanレイヤーで捕捉し、そのフレームを別プロセスのデーモンへ送ります。デーモン側ではArc 140VのXMXを使ってニューラルネットワークを実行し、処理結果をゲーム側へ返します。構造を単純化すると、ゲーム→Vulkanレイヤー→デーモン→XMXでニューラル処理→合成したフレームをゲームへ返す、という流れです。
そのため、これは「Intel GPUからNVIDIAのDLSS 5 DLLを直接実行できるようにした」プロジェクトではありません。DLSS 5 Neural Renderingの推論部分を、別の実行環境へ移植したものと考える方が実態に近いといえます。
モデル学習済みモデルまで独自に作ったわけではない
一方で、「NVIDIAとは無関係のDLSS 5を一から作った」と理解するのも正確ではありません。リポジトリにはNVIDIAのバイナリや学習済みweightsは含まれておらず、実際に動かすには利用者自身が「nvngx_dlssnr.dll」を用意し、そこからweightsを抽出する必要があります。プロジェクトの解析によると、抽出されるデータは649個の名前付きテンソル、合計1億4575万5123パラメーターです。DLL内では大規模な行列がFP8 E4M3形式で保存されており、Intel版では展開したデータを使って推論します。
つまり今回独自に作られたのは、主に学習済みモデルを実行するための推論経路です。「NVIDIAのコードなしで動作する」ことと「NVIDIA由来のモデルなしで動作する」ことは同じ意味ではなく、今回のリポジトリが実現しているのは前者だけです。
構造71ブロックのU-NetをXMXで実行
プロジェクトが解析したニューラルネットワークは、71ブロックからなる対称型U-Netです。32・64・128・256・512チャンネルの5段階のSwin系ステージで特徴を圧縮し、中央にViT-1Dのボトルネックを持ち、そこから元の解像度方向へ戻る構成です。ここで大量に発生する行列積(GEMM)を、Arc 140VのXMXで処理します。Intel版の実装ではFP16の入力に対してFP32で累積する方式が使われています。
重要なのは、Vulkan自体がIntel専用のAPIではないことです。今回使われている「VK_KHR_cooperative_matrix」は、複数のシェーダー実行単位が協調して行列演算を効率的に実行するための標準化されたVulkan拡張で、Khronosの仕様として定義されています。ニューラルネットワークの構造とweightsが分かり、対象GPUが十分な行列演算機能を持ち、そのハードウェアへ処理を適切にマッピングできれば、推論そのものを別GPUで実行できる可能性がある、ということを今回の実験は示しています。
条件Arc 140Vなら何でも動くわけではない
Vulkan対応GPUなら同じ方法で動くわけではありません。プロジェクトでは、VK_KHR_cooperative_matrixに対応し、FP16×FP16からFP32へ累積する構成を公開しているIntel GPUが必要とされています。開発・検証環境はLinuxとMesa ANVで、実際に確認されたGPUはArc 140Vです。Windowsネイティブで動くわけでもなく、現時点ではLinux上の研究実装と考えるべきです。
必要なデバイスバッファーも小さくありません。プロジェクトによると720pでは約2.3GiBを使用します。Arc 140Vは単体GPUのような専用VRAMを持たずシステムメモリを共有するため、ニューラルネットワークの演算だけでなくメモリアクセスも無視できない負荷になります。
性能1920×1080は約2.4fps
2026年9月18日にソケット経由で計測されたGitHub公式の性能表は以下の通りです。いずれもゲーム自体の描画コストを含まない、デーモン側の処理だけの数値です。
| 解像度 | render scale | 処理時間 | fps |
|---|---|---|---|
| 512×288 | 0.35〜0.50 | 72ms | 約13.9〜14.0fps |
| 640×360 | 0.35〜0.50 | 74〜80ms | 約12.5〜13.5fps |
| 854×480 | 0.50 | 105ms | 約9.5fps |
| 1024×768 | 0.55 | 168ms | 約6.0fps |
| 1920×1080 | 0.55 | 412ms | 約2.4fps |
※GitHubリポジトリの「What to expect」表(2026年9月18日計測、”nothing else on the GPU”の条件下)にもとづきます。実際のゲームプレイ中はこれに描画自体のコストが加わります。プロジェクトの実ゲーム計測では、Tekken 7で640×360・約10.5fpsという値も報告されています。
1920×1080でゲームを普通にプレイできる性能ではありません。ただし、これを「Intel Xe2ではDLSS 5が遅い」とそのまま一般化するのも早計です。Arc 140Vは単体GPUではなく内蔵GPUで、CPUとメモリを共有しながら動いています。かなり制約の大きい内蔵GPUでも、71ブロックのニューラルネットワークを実ゲームへ接続し連続して処理できたこと自体が、今回の成果です。
仕組みrender scaleを下げても1080pが重い理由
興味深いのは、ニューラルネットワークを低解像度で実行すれば単純に高速化するわけではない点です。このプロジェクトには「render_scale」という設定があり、たとえば0.55ならネットワークを縦横55%程度のサイズで実行します。ただし、DLSS Super Resolutionのようにゲーム画面そのものを低解像度から高解像度へアップスケールしているわけではありません。
プロジェクトの説明によると、ニューラルネットワークが生成するのは完成したゲーム画面そのものではなく、元のフレームへ加える補正成分(head)です。ゲーム本来のピクセルはそのまま残し、ニューラルネットワークが生成した部分だけを拡大して合成します。そのため、特徴抽出や合成といった一連の処理は出力解像度全体に対して実行され続けます。これが、render scaleを下げるだけでは1080pの負荷を大幅には削減できない理由です。
分析720pでは行列積だけで216ms
では何がこれほど重いのでしょうか。プロジェクトの解析では、720p時にニューラルネットワーク全体で約488msかかり、そのうち行列積(GEMM)が約216msを占めるとされています。逆に言えば、488msのすべてが行列積というわけではなく、特徴量の生成、リサイズ、合成、データ移動といった周辺処理にも大きなコストがかかっています。プロジェクトでは、単純なデータ移動だけの処理についてはすでにArc 140Vのメモリ帯域の上限に達しているとも説明されています。
つまり「XMXが遅いから2.4fpsしか出ない」と単純化することはできません。ニューラルネットワークそのものの演算性能だけでなく、巨大なweightsと中間データの保持、各処理へのデータの受け渡し、最後のフル解像度への合成まで含めたシステム全体の設計が問われる結果になっています。
選定なぜ内蔵GPUのArc 140Vを選んだのか
Arc 140VはDLSS 5のような巨大なニューラルレンダリング処理を試すには、かなり厳しいGPUです。Intel Core Ultra 200Vシリーズに統合されるXe2 GPUで、上位のArc 140Vは8基のXe2-coreを搭載し、Intel公式はGPU AI性能を最大67TOPSとしています。数字だけ見ればAI処理能力は十分高く見えますが、TOPSは特定のデータ形式を前提としたピーク性能であり、今回のDLSS 5推論処理がその数字通りの性能で動くわけではありません。Arc 140VはCPUとメモリを共有する内蔵GPUでもあり、今回の結果をそのまま「Intel Xe2は遅い」と一般化するのも適切ではありません。
今後Arc B580ならもっと速くなる?
ここからは現時点の実測ではなく、今回の結果から考えられる検証ポイントです。開発者自身も、Arc B580などのデスクトップ向けIntel Arcで試せるユーザーがいれば結果を見たいとしています。Arc 140Vと同じXe2世代のBattlemage GPUなら、より大きなGPUリソースと専用VRAMを利用できます。今回の実装では行列積だけでなくメモリ帯域がボトルネックになっている処理も確認されているため、専用VRAMを持つデスクトップGPUではArc 140Vより大幅に高速化する可能性があります。ただし、処理ごとにボトルネックの種類が異なるため、「Arc 140Vが2.4fpsだからB580なら何倍」という単純な比例計算はできません。デスクトップGPUでの実測が出れば、今回の低速さが内蔵GPU特有の制約によるものか、現在の推論実装そのものの限界なのかをさらに切り分けられます。
比較Radeon版とは単純比較できない
DLSS 5をAMD Radeonで動作させる非公式MOD「DLSS-NR-on-AMD」では、RX 9070 XTのCyberpunk 2077・1080pで約33fpsという結果が報告されていました。今回のArc 140Vは1080pで約2.4fpsのため、数字だけを見ると大きな差があります。ただし、使用しているハードウェアの規模がまったく違ううえ、DLSS 5を動かすための実装方法や測定条件も異なるため、この2つをそのままGPU性能比較として扱うことはできません。むしろ注目すべきは「どちらが何倍速いか」ではなく、NVIDIA向けニューラルレンダリングを別メーカーのGPUへ持ち出す方法が複数登場し始めたことです。
前提DLSS 5は従来のアップスケーリングとは性格が違う
今回のニュースを理解するには、DLSS 5そのものの位置づけを整理しておく必要があります。NVIDIA Researchは、DLSS 5を「3D-guided neural rendering」と説明しています。現在のレンダリングフレーム、エンジンのモーションベクトル、時間的な状態などで条件付けした生成モデルで、現実世界の見た目について学習した知識(appearance prior)を使い、サブサーフェススキャッタリングや葉を透過する光の散乱など、リアルタイムレンダリングだけでは表現しにくい視覚効果を補います。従来のDLSS Super Resolutionが低解像度から高解像度を再構成する技術だったのに対し、DLSS 5はゲームエンジンが生成したフレームに対して、ニューラルネットワークを新しいレンダリングステージとして追加する方向の技術です。今回Arc 140Vで実行されているのも、この推論部分にあたります。
注意「IntelでDLSS 5対応ゲームが遊べる」わけではない
ここまでを見ると期待したくなるかもしれませんが、現状ではArc 140VへDLSS 5を導入して普通にゲームを遊べる段階ではありません。LinuxとMesa ANVを前提とした研究実装で、利用者自身がnvngx_dlssnr.dllを用意しweightsを抽出する必要があり、対応するVulkan Cooperative Matrix環境も必要です。そして最大の問題は性能で、1920×1080では約2.4fpsしか出ません。開発者自身もリポジトリの冒頭で、このプロジェクトを「research port, not a product」と明記しています。現時点では実用品ではなく、NVIDIA向けニューラルレンダリングをIntel GPUへ持っていけるのかを調べる技術実証と見るべきです。
開発コードの大部分をAIエージェントが書いている
今回のプロジェクトには、もう一つ興味深い特徴があります。リポジトリの説明によると、コードと測定、開発ノートは「Claude Opus 5」と、並行して試した「Astra」によって作成されており、作者はマシンとバイナリ、開発の方向性を用意して判断を行う役割です。単に「DLSS 5をIntelで動かして」とAIへ依頼して完成したわけではなく、約180件のテストと、各測定値に対応するベンチマークプログラムが用意されています。
さらに、成功した結果だけでなく間違った仮説も記録されています。共有メモリのbank conflictを改善すれば理論上大幅に高速化できるという仮説は、実測すると約1.11倍にしかならなかったとされています。存在しないと後に判明した「ドライバーバグ」を前提に作業を進めてしまった例も、リポジトリ内で明かされています。作者自身もコードを1行ずつ説明できるとは主張しておらず、代わりにテスト・測定プログラム・ベンチマーク・失敗した仮説まで公開し、第三者が検証できる形にしています。
FAQよくある質問
まとめまとめ|1080pは重いが、推論経路そのものは移植できた
DLSS 5 Neural Renderingの推論処理をIntel Arc 140Vで実行する「dlss-nr-on-intel」が公開されました。NVIDIAのGPU、NGX、CUDAを使わず、VulkanのVK_KHR_cooperative_matrixを通じてIntel Xe2のXMXで71ブロックのニューラルネットワークを処理しますが、学習済みモデルまで独自開発したわけではなく、利用者自身がnvngx_dlssnr.dllを用意してweightsを抽出する必要があります。
性能は実用段階になく、2026年9月18日計測で512×288が約14fps、1920×1080では約2.4fpsです。「Intel ArcがDLSS 5に対応した」「Intel GPUでDLSS 5対応ゲームを遊べるようになった」と理解するのは正しくありません。今回の成果は、NVIDIA向けニューラルレンダリングの推論処理をCUDAやNGXから切り離し、別メーカーのGPUが持つ行列演算器へ載せ替えて、実際のゲームフレームを処理できたことにあります。
次に注目したいのは、より強力なXMXと専用VRAMを利用できるデスクトップ向けArcでの実測です。Arc B580などで大幅に高速化するのか、それとも別のボトルネックが支配的になるのかが分かれば、DLSS 5クラスのニューラルレンダリングに実際どれほどのAI演算性能とメモリ帯域が必要なのかも見えてきます。



