CRYENGINEはなぜ使われなくなった?Hunt: Showdown 1896のCRYENGINE 5.11とUE5代替論を検証
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Hunt: Showdown 1896のCRYENGINE 5.11とUE5代替論を検証
Unreal Engine 5に一極集中する状況に不安を感じている開発者は少なくありません。シェーダーコンパイル時のカクつきや移動時のスタッターがUE5採用タイトルで繰り返し話題になる一方、Unity・Unreal Engineに対抗できる汎用エンジンの選択肢は限られています。そんな中、かつて『Far Cry』『Crysis』を生み出したCRYENGINEを「もう一度見直すべきだ」と訴える声が海外コミュニティで話題になりました。
CRYENGINEの一般公開版は、2022年5月に公開された「CRYENGINE 5.7.1 LTS」から大きな更新がありません。それだけを見ると開発が止まっているように見えますが、Crytek自身が運営する『Hunt: Showdown 1896』は2024年8月、一般公開版より新しい「CRYENGINE 5.11」へ移行しています。さらに2025年2月に発売された『キングダムカム・デリバランス II』(KCD2)も、CRYENGINEをベースに独自改良されたエンジンで高い評価を得ました。
本記事では「CRYENGINEはなぜ使われなくなったのか」という疑問について、公式リリースノートやCrytekの発表など一次情報で確認できる範囲に絞って事実を整理します。「KCD2が軽いからCRYENGINEはUE5より軽い」といった単純化した俗説にも踏み込み、どこまでが事実でどこからが推測なのかを分けて解説します。
出典:CRYENGINE公式リリースノート / CRYENGINE公式(開発計画見直し発表) / Crytek公式(Hunt: Showdown 1896) / PC Gamer報道 / CRYENGINE公式ライセンス規約 / TechSpot
話題CRYENGINEの再評価を求める声が広がる背景
海外のゲーム開発者コミュニティでは、CRYENGINEを「過小評価されすぎている」として再評価を求める投稿が話題になりました。投稿者は、2016〜2017年に導入されたECS(Entity Component System)や、ビジュアルスクリプティング環境Schematycの実装によってエンジンの設計が現代的になったと主張し、UnityとUnreal Engineの中間に位置する興味深い選択肢だと評価しているとされます。背景には、Unreal Engine 5への一極集中が進み、有力な競合エンジンが少なくなっている現状への問題意識があるようです。投稿の一言一句までは確認できませんが、CRYENGINEが『Far Cry』『Crysis』シリーズに加え、『Hunt: Showdown』『キングダムカム・デリバランス II』のような実績あるタイトルで今も使われ続けているのは動かない事実です。
現状一般公開版はCRYENGINE 5.7.1 LTSで止まっている
CRYENGINEの一般公開版として現在も案内されているのは、2022年5月19日に公開された「CRYENGINE 5.7.1 LTS」です。これは同年4月に公開された「CRYENGINE 5.7 LTS」の修正版(ホットフィックス)で、アニメーション、グラフィックス・レンダリング、開発ツール、ビジュアルスクリプティングのSchematyc関連などの修正が中心でした。2026年8月時点でも、Crytek公式のドキュメントで案内されている一般公開版はこの5.7.1のままで、大型の機能追加は行われていません。エンジンはハードウェアやOS、周辺の開発ツールの変化に合わせて継続的な対応が必要な性質を持つため、4年以上前のバージョンが最新という状態は、新規に採用を検討するチームにとって不安材料になりやすいポイントです。
内部Crytek社内では開発が止まっていない
一般公開版が止まっている一方で、Crytek自身のタイトルでは新しいバージョンが使われています。2024年8月15日、看板タイトル『Hunt: Showdown』は大型アップデート「Hunt: Showdown 1896」として刷新され、一般公開版の5.7.1より新しい「CRYENGINE 5.11」へ移行しました。グラフィックスとオーディオの刷新に加え、新しいマップ「Mammon’s Gulch」の追加など大規模な更新で、これに合わせてPC版の最低・推奨動作環境も引き上げられています。CRYENGINEだから必ず動作が軽いという単純な話ではなく、新しいレンダリング機能や高品質なアセットを導入すれば、必要なGPU性能やメモリは相応に増加します。ただし、社内向けに使われている新機能や最適化技術が、そのまま一般公開版へ提供される見通しは示されていません。
経緯更新が止まった背景|2021年末の開発計画見直し
一般公開版の更新がなぜ止まったのか。Crytekは2021年12月16日、CRYENGINEの開発計画を見直すと公式に発表しました。声明では、新型コロナウイルスの流行に伴う働き方の変化によって当初の開発目標を達成できなかったことを認め、中規模の企業として「ゲーム開発を支援すること」を、エンジン開発の前進より優先せざるを得なかったとしています。この見直しを経て2022年4月にCRYENGINE 5.7 LTSが、翌月に5.7.1 LTSが公開されましたが、それ以降は大きな更新のないまま4年以上が経過しています。さらに2025年2月、Crytekは従業員の約15%を削減するリストラを発表し、開発中だった次世代『Crysis』の新作(Crysis 4)の開発を保留し、Hunt: Showdown 1896へリソースを集中させる方針を明らかにしました。ゲーム開発とエンジン開発を同時に進める余力が乏しいという構造的な事情が、一般公開版の停滞につながっていると見られます。
潮流UE5の代替として注目される理由
CRYENGINEが改めて注目される背景には、Unreal Engine 5への一極集中を懸念する声があります。UE5はNaniteやLumenといった高度な描画技術、幅広いプラットフォーム対応、マーケットプレイスやドキュメント、コミュニティの厚さで多くの開発会社に選ばれています。一方で、UE5採用タイトルではシェーダーコンパイル時のカクつきや移動時のスタッター、CPU負荷の高さが繰り返し話題になってきました。ただし、これらの問題はUE5そのものだけが原因とは言えません。同じUE5を使っていても、開発期間や技術力、アセット管理の方法、シェーダーの事前コンパイル、ストレージからの読み込み方式によって最終的な仕上がりは大きく変わります。だからこそ、UE5と拮抗できる汎用エンジンの選択肢が増えることは、開発会社にとっての技術競争を促し、結果的にPCゲーマーにも良い影響を与える可能性があります。
誤解注意CRYENGINEは本当にUE5より軽いのか
CRYENGINEという名前だけで「軽い」と判断するのは早計です。ゲームの負荷は、オブジェクト数、テクスチャ解像度、影の品質、物理演算、NPCの数、レイトレーシングの有無、ストリーミング処理の実装など、多くの要素の組み合わせで決まります。エンジンの名前が変わっても、これらの要素次第で必要スペックは大きく変動します。2025年2月4日に発売された『キングダムカム・デリバランス II』は、広大なオープンワールドと高密度な街並みを比較的安定したパフォーマンスで動かしていると評価されましたが、これは一般公開版のCRYENGINEをそのまま使ったものではなく、開発元のWarhorse Studiosが前作から長期間かけて独自に改良を重ねたバージョンです。CRYENGINEを採用したからといって自動的に軽くなるわけではなく、開発チームの技術力に依存する部分が大きいと考えるべきです。
KCD2の快適な動作を根拠に「CRYENGINEはUE5より軽い」と一般化するのは誤りです。同作の完成度はWarhorse Studiosによる長期的な独自最適化の成果であり、一般公開版のCRYENGINE 5.7.1をそのまま使った場合に同じ結果が得られる保証はありません。
実例Kingdom Come: Deliverance IIが示した可能性
『キングダムカム・デリバランス II』は、広い屋外マップだけでなく、多数のNPCが生活する街並み、建物の内部、森林、戦闘、天候の変化までを一つの世界として描いています。オープンワールドゲームでは、プレイヤーの移動に合わせて大量のデータを継続的に読み込む必要があり、この処理をどれだけスムーズに行えるかが体感の快適さを左右します。同作の完成度は、CRYENGINEが適切に改良されれば、現代的な規模のゲームでも十分に活用できることを示しています。ただし、Warhorse Studiosが手掛けたカスタム版が外部の開発者に提供される予定があるという情報は確認されていません。一般公開版の5.7.1とは別物として捉える必要があります。
有志CRYENGINE Community Editionとは
公式版の更新が停滞するなか、コミュニティ主導で「CRYENGINE Community Edition」という取り組みが進められています。これはCRYENGINE 5.7 LTSを土台に、不具合修正や新機能を追加する非公式のパッチプロジェクトで、MITライセンスのもとGitHub上で公開されています。ただしCRYENGINE本体を再配布する権限はないため、利用するにはまずCrytek公式からCRYENGINE 5.7のソースコードを入手し、そこにCommunity Editionのパッチを適用してエンジン自体をビルドする必要があります。公式版そのものを置き換える独立エンジンではなく、既存のCRYENGINEを有志が補強するプロジェクトという位置付けです。
CRYENGINE 5.7 LTSのソースコードは、登録した開発者向けの非公開GitHubリポジトリで配布されています。公式サイトでは、CRYENGINEアカウントとGitHubアカウントを用意し、ユーザーダッシュボードからGitHubアカウントとの連携を申請、承認までおよそ48時間待つという手順が案内されています。誰でも即座に入手できる完全なオープンソースエンジンとは、公開の仕組みが異なる点に注意してください。
壁ドキュメント・学習コンテンツ不足という課題
CRYENGINEを検討する際にもう一つ無視できないのが、ドキュメントや学習コンテンツの少なさです。Unreal EngineやUnityは、公式ドキュメントに加えて動画講座、書籍、オンラインコース、コミュニティの投稿が非常に多く蓄積されています。CRYENGINEにも公式ドキュメントは用意されていますが、更新が止まっている領域では最新の開発環境と情報がずれている可能性があります。利用者が減れば、ネット上で見つかる実践的な情報も比例して減っていきます。エンジンの機能や描画性能だけでなく、問題が起きたときにどれだけ早く解決できるかも、開発チームがエンジンを選ぶ際の重要な判断材料になります。
系譜O3DE(Open 3D Engine)は代わりになるのか
CRYENGINEの代替候補として名前が挙がることがあるのが、Linux Foundation傘下のOpen 3D Foundationが運営するオープンソースエンジン「O3DE(Open 3D Engine)」です。O3DEは、Amazonが2015年前後にCrytekからCRYENGINEの技術をライセンスして開発した「Amazon Lumberyard」を土台としており、2021年7月にオープンソース化されました。この経緯から「CRYENGINEのオープンソース版」と紹介されることもありますが、Amazonによる大規模な再設計を経て、現在は実質的に別のエンジンになっています。CRYENGINE向けに作られたプロジェクトや機能をそのままO3DEへ移行できるわけではなく、O3DEの存在自体が、CRYENGINE公式版の更新停滞を補う理由にはなりません。
費用CRYENGINEのライセンスと利用条件
CRYENGINEは、開発を始める時点での初期費用は必要ありません。公式サイトでは、フルソースコードと各種エンジン機能へアクセスできる開発プラットフォームとして案内されています。商用タイトルとして販売する場合は、1プロジェクトにつき年間5,000ドル(または5,000ユーロ)までの売上はロイヤリティが免除され、それを超える売上に対して5%のロイヤリティが発生する仕組みです。ゲーム以外の用途(軍事関連プロジェクト・ギャンブル・シミュレーション・科学・建築・ポルノグラフィなど)への利用は、標準ライセンスの規約上禁止されています。これらの用途で使いたい場合は、Crytekへ個別に問い合わせる必要があります。開発を始める時点だけでなく、実際に販売する段階でも最新のライセンス規約を確認する必要があります。Community Editionを併用する場合も、追加パッチ部分のMITライセンスと、CRYENGINE本体のライセンスは別物として扱う必要があります。
判断今からCRYENGINEで開発するのはおすすめか
2026年時点で、CRYENGINEを万人に薦められる状況ではありません。一般公開版の更新が長期間停滞していること、今後のロードマップが明確に示されていないことは、新規採用を検討するチームにとって明確なリスクです。情報量、対応プラットフォームの広さ、既製アセットの豊富さ、外部サービスとの連携を重視するなら、Unreal EngineやUnityのほうが導入しやすいのが実情です。
- C++でエンジン自体を改造できる技術力を持つチーム
- CRYENGINEの描画表現や地形処理の完成度を評価し、独自に保守できる体制がある開発者
- すでにCRYENGINEでの開発経験があり、KCD2のように1つのエンジンを長期間かけて改良し続ける方針を取れるチーム
- 短期間でリリースし、豊富なアセットストアやコミュニティの知見に頼りたいチーム
- 複数プラットフォームへの展開や外部サービス連携を重視するチーム
- 公式のロードマップや長期的な開発サポートを前提に計画を立てたいチーム
展望CRYENGINEが復活する可能性はあるか
Crytekは、CRYENGINEの一般公開版を完全に放棄すると発表したわけではありません。Hunt: Showdown 1896で使われているCRYENGINE 5.11の存在から、社内での技術開発自体は続いているとみられます。しかし、一般の開発者向けに次期バージョンをいつ公開するのか、具体的なロードマップは明らかになっていません。今後、一般公開版の更新が再開され、最新のGPUやゲーム機への対応、ドキュメントや開発ツールの整備が進めば、CRYENGINEが再び注目される可能性はあります。一方、社内専用のエンジンとしての運用が続くだけであれば、外部の開発者向けプラットフォームとしての存在感はさらに低下していくおそれもあります。有志によるCommunity Editionの活動だけでは、大規模タイトル向けエンジンの開発・サポート体制を維持するには限界があり、CRYENGINEが本格的に復活するにはCrytek自身による継続的な支援が欠かせません。
FAQよくある質問
総括まとめ|使われなくなったのではなく、更新が止まっているだけ
CRYENGINEは性能が劣っていたために使われなくなったわけではありません。Hunt: Showdown 1896やキングダムカム・デリバランス IIを見る限り、現在でも高品質なグラフィックスと大規模なゲームを実現できる技術的な土台は残っています。一方で、一般開発者向けの最新版は2022年5月公開のCRYENGINE 5.7.1 LTSのままで、長期間の更新停滞、ドキュメントや学習コンテンツの不足、今後のロードマップの不透明さが、新規採用を難しくしている主な要因です。
キングダムカム・デリバランス IIの優れた動作を理由に、CRYENGINEがUnreal Engine 5より必ず軽いと結論づけることはできません。開発元Warhorse Studiosによる長期の独自改良が大きな要因であり、エンジン名だけで性能を判断するのは早計です。それでも、Unreal Engineに対抗できる汎用エンジンの選択肢が増えることは、開発会社にもPCゲーマーにもメリットがあります。Crytek社内の新しいCRYENGINEが一般公開されるか、有志によるCommunity Editionがどこまで発展するか、今後の動きに注目です。
一般公開版のCRYENGINEは2022年5月公開の5.7.1 LTSから更新が止まっていますが、Crytek社内ではHunt: Showdown 1896向けにCRYENGINE 5.11を使うなど開発が続いています。キングダムカム・デリバランス IIの優れた動作は開発元Warhorse Studiosの長期的な独自改良が大きな要因で、一般公開版そのものの性能を示すものではありません。
今からCRYENGINEを新規採用するかどうかは、更新停滞やドキュメント不足のリスクと、独自の描画表現・改造の自由度を天秤にかけて判断する必要があります。Crytekが一般公開版の開発をどこまで再始動させるかが、今後の注目点です。

