Windows on ArmでGeForce RTX 4060が動作。RTX Spark用ドライバーを転用、ただし映像出力には非対応
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『黒神話:悟空』は平均21fps、映像出力とアンチチートには壁が残る
Armプロセッサを搭載したWindows PCは年々増えていますが、Intel・AMD向けパソコンのように市販のグラフィックボードを取り付けて使うことはできませんでした。GeForceのようなディスクリートGPUをWindows on Arm(Armプロセッサ上で動くWindows 11環境)で動かすためのドライバーを、NVIDIAが公開してこなかったためです。
中国の開発者VoidTech氏が、この状況に風穴を開けました。HuaweiのArmワークステーション「Qingyun W510」に、NVIDIAが2026年5月に発表した新型ArmベースPCプラットフォーム「RTX Spark」向けのARM64ドライバーを転用し、デスクトップ向けGeForce RTX 4060をWindows 11 Arm64上で動作させることに成功しています。DirectX 12、Vulkan、CUDA、ハードウェアアクセラレーションが有効になり、『黒神話:悟空』や『原神』、Blenderのレンダリングまで実際に動きました。
本記事では、この実験がどのような構成・手順で行われたのか、ベンチマーク結果が示す本当の意味、そして映像出力・アンチチートといった残された課題まで、公開されている情報を基に整理します。
目次
要点まず何が起きたか
中国の開発者VoidTech氏が、HuaweiのArmワークステーション「Qingyun W510」上で、デスクトップ向けGeForce RTX 4060をWindows 11 Arm64環境で動作させました。使用したのは、NVIDIAが2026年5月に発表したArmベースの新型PCプラットフォーム「RTX Spark」向けのARM64ドライバーです。DirectX 12、Vulkan、CUDA、ハードウェアアクセラレーションが有効になり、『黒神話:悟空』『原神』、Blenderのレンダリング、複数の3DMarkテストも実行されています。一方で、RTX 4060のHDMI・DisplayPort端子から映像を出力できず、ゲーム性能も本来の水準には届いていません。
構成HuaweiのArmワークステーションにRTX 4060を搭載
VoidTech氏が使用した主なハードウェアは以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| PC | Huawei Qingyun W510 |
| CPU | Huawei Kunpeng 920(24コア・Armv8.2アーキテクチャ) |
| メモリ | DDR4-2933 32GB |
| GPU | GeForce RTX 4060 8GB |
| OS | Windows 11 Arm64 |
| NVIDIAドライバー | 591.33 |
| CUDAバージョン | 13.1 |
Qingyun W510は、WindowsではなくLinux系OSでの利用を前提に設計されたワークステーションです。搭載されているKunpeng 920も、一般的なゲーミングPC向けCPUではなく、Huawei傘下のHiSiliconが開発したサーバー・ワークステーション向けのArmプロセッサにあたります。そのため今回の構成は、「市販のWindows on Arm PCへRTX 4060を挿しただけ」という単純なものではありません。
Windows 11を起動するには、起動時のハードウェア情報を管理するACPIテーブルの修正が必要だったほか、ネットワークやオーディオなど、Qingyun W510に搭載されている一部デバイスにはWindows用ドライバーが存在しません。VoidTech氏はオープンソースの修正プロジェクトを利用して、Windows 11 Arm64を起動できる状態に整えたとされています。
制約Windows on Armでは通常のGeForceドライバーを使用できない
Windows 11 Arm64には「Prism」と呼ばれるエミュレーション機能があり、Intel・AMD向けに作られたx86およびx64アプリケーションをArm PC上で実行できます。しかし、デバイスドライバーには同じ方法を利用できません。
Microsoftによると、Windows on Armで使用するカーネルモードドライバーは、Arm64向けのネイティブバイナリとして作られている必要があります。x64版のGeForceドライバーをPrismで変換し、Arm PCへそのままインストールすることはできません。これまで一般的なWindows on Arm PCでGeForceを利用できなかった理由のひとつが、NVIDIAから公開されたArm64版のGeForceドライバーが存在しなかったことです。状況を変えたのが、2026年5月に発表されたRTX Sparkでした。
出典:Microsoft Learn|Windows on Arm FAQ
手法RTX Spark用ARM64ドライバーをRTX 4060へ転用
RTX Sparkは、20コアのArm CPUとBlackwell世代のRTX GPUを組み合わせたNVIDIAの新しいPC向けプロセッサです。主な仕様は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| CPU | 20コア NVIDIA Grace CPU |
| GPU | Blackwell世代RTX GPU(最大6,144基のCUDAコア) |
| メモリ | 最大128GBのユニファイドメモリ |
| AI性能 | FP4演算で最大1ペタフロップ |
| 発表日 | 2026年5月31日 |
| 発売時期 | 2026年秋(ASUS・Dell・HP・Lenovo・Microsoft・MSIなどから発売予定) |
RTX SparkがWindows 11 Arm64上でRTX GPUを動作させるには、NVIDIA製のArm64ネイティブグラフィックスドライバーが必要になります。VoidTech氏はRTX Spark用ソフトウェアからこのARM64版NVIDIAドライバーを取り出し、デスクトップ向けRTX 4060を認識するように適用しました。
使用されたドライバーのバージョンは591.33で、NVIDIAの管理ツールではCUDA 13.1も認識されています。WindowsのDirectX診断ツール上ではDirectX 12とWHQL認証が表示され、VulkanやGPUハードウェアアクセラレーションも有効になりました。NVIDIAのドライバーは複数のGPUを共通コードでサポートする構造になっているため、RTX Spark向けドライバーの内部にも、デスクトップ向けGeForceを動作させるためのコードがある程度残っていた可能性があります。ただし、RTX 20・30・40・50シリーズがすべて同様に動くことが確認されたわけではありません。今回実際にテストされたデスクトップGPUはRTX 4060のみで、ほかの製品への対応は現時点では推測の域を出ません。
実測『黒神話:悟空』は1080pで平均21fps
RTX 4060を使用して、複数のゲームとベンチマークが実行されました。主な結果は以下のとおりです。
| テスト | Qingyun W510+RTX 4060 |
|---|---|
| 『原神』1080p | 約20〜25fps |
| 『黒神話:悟空』1080p・中設定 | 平均21fps(最高33fps・最低3fps) |
| NVIDIA Star Wars Reflectionsデモ | 約23〜25fps |
| 3DMark Speed Way | 2,252 |
| 3DMark Time Spy Graphics | 6,369 |
| 3DMark Night Raid GPU | 43,530 |
| 3DMark Solar Bay | 約32,370 |
『黒神話:悟空』のベンチマークでは平均21fps、最高33fps、最低3fpsを記録しました。『原神』も1080pで約20〜25fpsにとどまり、頻繁なカクつきが確認されています。一般的なx64環境と比べると、ゲーム性能は大幅に低い水準です。
同一のRTX 4060をRyzen 7 5800X環境で動作させた場合、『黒神話:悟空』は83fpsを記録しています。一方、Kunpeng 920環境では21fpsでした。『原神』もRyzen環境では上限の60fpsに達しましたが、Kunpeng環境では約25fpsとなっています。
| 項目 | Ryzen 7 5800X環境 | Kunpeng 920環境 |
|---|---|---|
| 『黒神話:悟空』1080p・中設定 | 83fps | 21fps |
| 『原神』1080p | 上限60fps | 約25fps |
| 3DMark Speed Way | 2,682 | 2,252 |
| 3DMark Time Spy Graphics | 10,939 | 6,369 |
ただし、この結果だけで「Arm環境ではRTX 4060が遅い」と判断することはできません。
分析性能低下の主因は古いArm CPUとx64変換
今回使用されたKunpeng 920は、2019年に登場したサーバー向けCPUです。24コアを搭載しているものの、ゲームで重要になるシングルスレッド性能やメモリ遅延では、現行のデスクトップ向けCPUに大きく劣ります。さらに今回動かしたPCゲームの多くはx64版であり、Prismを通じてArm64命令へ変換しながら実行されています。CPU側の処理が追いつかず、RTX 4060が待たされる場面が多かったと考えられます。
この点を示しているのが、先ほどの3DMarkの結果です。Arm64ネイティブで動くSpeed Wayでは、Kunpeng 920環境が2,252、Ryzen 7 5800X環境が2,682となっており、差は比較的小さい水準です。一方、x64変換を伴うTime Spy Graphicsのスコアは、Kunpeng環境が6,369、Ryzen環境が10,939まで広がっています。
つまり、Arm64ネイティブでGPU中心に処理するテストでは、RTX 4060は比較的本来に近い性能を発揮しています。一方、x64エミュレーションやCPU処理への依存度が高いゲームでは、Kunpeng 920が大きなボトルネックになったと分析できます。今回の21fpsという数字は、RTX 4060用ARM64ドライバーの性能だけを示すものではありません。
検証BlenderではCUDAレンダリングも動作
ゲーム以外では、x64版Blenderを使用したCUDAレンダリングもテストされました。BlenderはPrismによるx64変換で動作しているものの、RTX 4060をCUDA対応GPUとして認識し、タスクマネージャーではレンダリング中にGPU使用率が約89%まで上昇しています。
複数のNVIDIA RTXデモも実行され、レイトレーシングとDLSSが動作するケースが確認されました。ただし、テストされたデモのひとつではレイトレーシングを有効にできませんでした。ドライバーがRTX Spark向けであることや、GPUの識別処理が正常に機能していないことが原因として考えられていますが、正式には確認されていません。DirectX 12、Vulkan、CUDA、レイトレーシングの基本的な機能が動いた点は大きいものの、すべてのRTX機能が完全に利用できる状態ではありません。
課題RTX 4060の映像端子から出力できない
今回の実験における最大の問題は、RTX 4060から映像を出力できないことです。Windows 11はRTX 4060と接続されたディスプレイを認識したものの、グラフィックボードのHDMIおよびDisplayPort端子から実際の映像信号を出せませんでした。
RTX SparkはCPUとGPUが統合されたプロセッサであり、デスクトップ向けRTX 4060とは映像出力の構造が異なります。そのため、RTX Spark用ドライバーには、RTX 4060に搭載されているHDMI・DisplayPort用の表示エンジンやエンコーダーを制御するコードが含まれていない可能性があります。ただし、原因は開発元によって正式に確認されたものではありません。
VoidTech氏は回避策として、ホストPC側でリモートアクセスソフト「Sunshine」を動かし、別の端末からクライアントアプリ「Moonlight」を使ってWindowsのデスクトップとゲーム映像を受信しました。RTX 4060は映像のレンダリングを担当する一方、画面表示はリモートストリーミングで行う構成です。リモート配信を前提にすれば計算用GPUとして利用できる可能性はありますが、通常のデスクトップPCのようにモニターを接続して使うことはできません。
対応アンチチートを使用するゲームは依然として課題
動作しなかったゲームもあります。『アークナイツ:エンドフィールド』は起動直後に終了し、ゲーム画面まで進めませんでした。VoidTech氏は、同作が採用するAnti-Cheat Expert、またはx64変換との互換性が原因ではないかと推測していますが、正確な原因は特定されていません。
Windows on Armでは、ゲーム本体をPrismで動かせても、カーネルレベルで動作するアンチチートドライバーがArm64に対応していなければ起動できません。MicrosoftはRTX Sparkに向けて、Easy Anti-CheatやBattlEyeを含むゲーム環境の対応を進めていると説明しています。ただし、すべてのゲームやアンチチートがArm64に対応するわけではなく、サービスごとの対応が必要になります。GPU性能が向上しても、アンチチートや周辺機器のドライバーが対応しなければ、Windows on Armを一般的なゲーミングPCとして利用するのは難しいのが実情です。
出典:Windows Latest / Windows Blog公式
誤解Snapdragon X搭載PCへRTX 4060を追加できるわけではない
今回の結果を見て、Snapdragon X EliteやSnapdragon X Plus搭載PCにRTX 4060を接続できると考えるのは早計です。RTX Spark用ドライバーは、NVIDIAが既存のGeForce向けに正式公開したものではありません。また、一般的なWindows on ArmノートPCには、デスクトップGPUを接続するためのPCI Expressスロットが用意されていません。
ThunderboltやUSB4経由の外付けGPUについても、GPUだけでなく接続コントローラー、ファームウェア、電源管理、ディスプレイ出力など、複数のArm64対応ドライバーが必要になります。今回の方法はメーカーのサポート対象外であり、ドライバーの入手方法や改変内容も一般ユーザー向けには提供されていません。少なくとも現時点では、Windows on Arm PCを所有するユーザーがRTX 4060を追加するための実用的な手段ではありません。
意義本当の注目点はNVIDIA製ARM64ドライバーの完成度
今回の実験で重要なのは、RTX 4060が21fpsでゲームを動かしたことだけではありません。RTX Spark向けに開発されたARM64版NVIDIAドライバーが、製品構成の異なるデスクトップ向けGeForceを認識し、DirectX 12、Vulkan、CUDA、Blender、3DMark、レイトレーシング対応デモまで実行できた点に意味があります。映像出力やアンチチートなどの問題は残るものの、GPUの演算・描画機能の多くはすでに動作しています。
- RTX Spark向けドライバーが、製品構成の異なるデスクトップ向けGeForceを認識し、DirectX 12・Vulkan・CUDA・Blender・3DMark・レイトレーシング対応デモまで動かせた
- MicrosoftとNVIDIAはRTX Spark向けにスケジューラー、電力管理、DirectX 12、レイトレーシング、Prism、ユニファイドメモリなどを共同で最適化している
- NVIDIAはRTX Sparkについて、レイトレーシングやDLSSを使用したAAAゲームを1440p・100fps以上で動かせると説明している
- 映像出力・アンチチート対応など、未解決の課題が複数残っている
- 今回の検証環境は2019年登場のサーバー向けCPU「Kunpeng 920」であり、CPU性能・メモリ構成ともにRTX Sparkとは大きく異なる
- 実際にテストされたデスクトップGPUはRTX 4060のみで、ほかのRTX製品への対応は確認されていない
今回のKunpeng 920環境は、RTX SparkとはCPU性能もメモリ構成も大きく異なります。実験結果が低かったからといって、2026年秋に登場するRTX Spark搭載PCのゲーム性能が低いとは限りません。
展望GeForceのWindows on Arm正式対応につながるか
RTX Spark用ドライバーを流用すれば、Windows 11 Arm64上でRTX 4060の描画・演算機能を動かせることが実証されました。ただし、これはNVIDIAがデスクトップ向けGeForceのWindows on Arm対応を発表したことを意味しません。今後、NVIDIAがARM64版GeForceドライバーを一般公開するか、外付けGPUを含む既存のGeForce製品まで正式にサポートするかは不明です。
NVIDIAにとって当面の優先事項は、自社のArm CPUとBlackwell GPUを統合したRTX Spark搭載PCを安定して発売することでしょう。デスクトップ向けGeForceまで対応範囲を広げれば、検証しなければならないArmプロセッサ、マザーボード、PCIe構成、表示機器が大幅に増えます。
一方で、今回の実験は技術的な障壁がGPUそのものではなく、正式なドライバーとプラットフォーム側の対応にあることも示しました。NVIDIAが将来ARM64版GeForceドライバーを公開すれば、ArmワークステーションへのディスクリートGPU搭載、外付けGPU、AI処理専用GPUなど、RTX Spark以外の選択肢が生まれる可能性があります。現時点では実用品ではないものの、Windows on Armが内蔵GPUだけに限定された環境から、ディスクリートGPUを利用できるプラットフォームへ発展する可能性を示す実験です。
FAQよくある質問
総括まとめ|GeForceがWindows on Armへ広がるかは今後のNVIDIA次第
今回の実験により、RTX Spark用ドライバーを流用すればWindows 11 Arm64上でデスクトップ向けGeForceの描画・演算機能を動かせることが実証されました。ゲーム性能は本来の水準に届かず、映像出力やアンチチートの問題も残っていますが、これらは主にKunpeng 920という古いサーバー向けCPUや、正式対応前のドライバーに起因するものです。
NVIDIAがデスクトップ向けGeForceのWindows on Arm対応を正式に発表したわけではなく、当面の優先事項は2026年秋発売のRTX Spark搭載PCを安定して送り出すことになりそうです。それでも今回の実験は、技術的な障壁がGPUそのものではなく、ドライバーとプラットフォーム側の対応にあることを示しました。
RTX Spark用ARM64ドライバーを転用することで、Windows 11 Arm64上でデスクトップ向けGeForce RTX 4060のDirectX 12・Vulkan・CUDA・Blenderレンダリングが動作しました。一方で、HDMI・DisplayPortからの映像出力とアンチチート対応には課題が残っており、一般ユーザーがすぐに使える環境ではありません。
NVIDIAが将来ARM64版GeForceドライバーを一般公開するかどうかは明らかにされていませんが、今回の実験はWindows on Armがディスクリートグラフィックスを利用できるプラットフォームへ発展する可能性を示しています。RTX Spark搭載PCの正式な実機レビューが揃い次第、本記事は追記更新します。



