Microsoft、生成AIで物語やクエストを書き換えるゲーム特許が成立済み|7月公開の継続出願は範囲拡大、表情分析も記載
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7月公開の継続出願は範囲を拡大、カメラで表情を読む構成も記載
出典:Google Patents「US12589308B2」、USPTO「US 2026/0183672 A1」公報PDF、Microsoft Research「Emergence」、arXiv「Player-Driven Emergence in LLM-Driven Game Narrative」、arXiv「GENEVA」、Microsoft Game Dev「Xbox and Inworld AI partner」、Microsoft Game Dev「Project Explora」、Microsoft Research「WHAM」、Official Microsoft Blog(2026年2月20日)、Steamworks「AI Content on Steam」
Microsoftが、プレイヤーの行動や反応をもとに生成AIでゲームの物語を変える技術を米国で権利化しています。2026年7月2日に公開された特許出願「US 2026/0183672 A1」の名称は「Generative Narrative Game Experience With Player Feedback」です。どのルートを進み、どのキャラクターや物に何度も関わったかを分析し、その結果をもとにAIがまだ遊んでいない部分のストーリー構造まで組み替える仕組みが書かれています。
ただし、2026年になって急に出てきたアイデアではありません。同じ発明は2023年6月25日に最初の出願が行われ、2026年3月31日に「US 12,589,308」として特許が成立しています。7月に公開されたのは、成立の直前に出しておいた継続出願で、請求項を読み比べると、成立済みの特許よりも条件の少ない広い範囲を押さえにいく内容になっています。
公報では、マイクやカメラでプレイヤーの発言や表情を読み取り、盛り上がり具合の計算に使う構成まで記載されています。成立済み特許と継続出願の違い、発明者が関わったMicrosoft Researchの研究、そしてXboxやPCのゲームに実際に入るのかを、公報と公式資料から整理します。
目次
要点まず押さえたい3つの事実
元の特許US 12,589,308は2026年3月31日に成立済みで、7月公開のUS 2026/0183672は2026年2月18日に出された継続出願です。継続出願の請求項1は「プレイヤーの行動をもとに生成モデルが物語の構造を変える」だけで成り立つ、成立特許より広い書き方になっています。MicrosoftはXboxやPCの特定タイトルにこの技術を使うとは発表していません。
経緯2023年の出願から継続出願まで
特許の履歴をたどると、アイデアが公になったのは2024年末です。2023年6月に米国で出願された時点では非公開でしたが、2024年12月26日に出願公開(US 2024/0424405 A1)され、誰でも内容を読める状態になりました。同じ発明は国際出願(WO 2025/006277)と中国にも出されています。
- 2023年6月25日:米国で最初の出願(出願番号18/213,868)
- 2024年6月19日:国際出願(PCT)を提出(のちに中国でも出願)
- 2024年12月26日:米国で出願公開(US 2024/0424405 A1)
- 2026年2月18日:継続出願を提出(出願番号19/543,679)
- 2026年3月31日:元の出願がUS 12,589,308として特許成立
- 2026年7月2日:継続出願がUS 2026/0183672 A1として公開
継続出願は、元の出願が審査中のうちに、同じ明細書をもとに別の請求項で権利を取り直すための手続きです。元の特許が成立する約6週間前に提出されているため、成立する範囲を見届ける前に、別の書き方で権利を広げる準備をしていたことになります。発明者は元の特許と同じ7人で、出願人はMicrosoft Technology Licensing, LLCです。
比較成立済み特許と継続出願は何が違うのか
両者の明細書(技術の説明部分)はほぼ同じですが、権利の範囲を決める請求項1が違います。成立済みの特許は条件が多く、継続出願はそのうち多くを外しています。
| 項目 | US 12,589,308 | US 2026/0183672 |
|---|---|---|
| 状態 | 2026年3月31日に成立 | 審査中(2026年7月2日公開) |
| 出願日 | 2023年6月25日 | 2026年2月18日(継続出願) |
| AIの書き方 | foundation model(基盤モデル) | generative model(生成モデル) |
| 物語を変える根拠 | 場面ごとと全体の2種類のエンゲージメント指標 | プレイヤーのゲーム内での関わり方 |
| エンゲージメント指標 | 請求項1の必須条件 | 請求項2以降の追加条件 |
| 現実の反応の利用 | 請求項3で音声・映像から取得 | 請求項3で現実の反応を利用 |
成立済みの特許で権利が及ぶのは、場面ごとの「ローカルなエンゲージメント指標」と、プレイ全体を通した「グローバルなエンゲージメント指標」の両方を計算し、それを使って基盤モデルが物語を変える仕組みに限られます。どちらか一方しか計算しない設計なら、この請求項には当てはまらない余地がありました。
継続出願の請求項1は、物語の構造をたどるプレイヤーの経路を追跡し、ゲーム内の物やキャラクターとの関わりを監視し、生成モデルで物語の構造を変える、の3段階だけです。指標の計算は請求項2以降に回されており、成立すれば、指標をどう計算するかに関係なく「行動を見て生成モデルが物語状態グラフを組み替える」仕組みを押さえられます。ただし審査中のため、このままの範囲で成立するとは限りません。
仕組み物語を「ノードのつながり」として扱い、AIが足し引きする
中心になるのは「Narrative State Graph(物語状態グラフ)」です。ゲーム内の出来事の区切りを1つずつノード(点)として持ち、それをリンク(線)でつないだ地図のようなものです。扉を開けるには先に鍵を見つけておく、といった条件のつながりもこのグラフで表します。
成立済み特許の請求項では、AIがこのグラフに対して、ノードの追加・削除、ノード同士のリンクの追加・削除を行えるとしています。さらにノードを「メインクエスト」「サイドクエスト」「クエスト外」「ミニゲーム」の区分に分け、ある場面をサイドクエストからメインクエストへ移すといった組み替えも請求項に入っています。多くのプレイヤーが夢中になった寄り道が、次の版では本筋に昇格するような変化です。
盛り上がり具合は、関わった時間・頻度・強さで測ります。明細書では、戦闘で次々に強い武器へ持ち替えていく行動を、熱中度が高まっているサインの例として挙げています。反対に、開発者の想定外の近道でゴールまで飛ばしてしまい、ゲームがつまらなくなる場合は、その近道をふさぐ修正も想定しています。一方で、プレイヤーに好まれている近道はそのまま残すとも書かれています。
NPCとの会話もこの仕組みに組み込まれています。AIが操作するNPCにプレイヤーが話しかけると、その入力をプロンプトにして生成モデルが応答を作ります。明細書では、NPCがサイドクエストを提案するだけでなく、そのクエストに必要な物や場所、ルールをゲーム内に新しく作る構成も説明しています。こうしてプレイ中に生まれた展開は、グラフに新しいノードとして書き足せる設計です。
変更の単位は1人だけではありません。複数のプレイヤーの指標を集計してゲーム全体を変える方法と、1人ひとりや遊び方の似たグループごとに別バージョンを作る方法の両方が書かれています。前者はアップデートでゲームを作り替えるイメージ、後者はプレイヤーごとに内容が少しずつ違うゲームのイメージです。
注意点マイクとカメラでプレイヤーの反応を読む構成もある
プレイヤーとして特に確認しておきたいのが、ゲーム外の反応まで使う構成です。明細書では、マイクやカメラで取得した音声と映像を、プレイヤーの許可を得たうえで手元のPCなどで動く機械学習モデルで処理し、発言や表情から反応を読み取って盛り上がり具合の計算に加えるとしています。ネットに投稿されたプレイ動画や配信を同じように分析する例も挙げられています。
ここで書かれているのは「許可を得たうえで」「ローカルで処理する」という条件付きの構成です。とはいえ、実際の製品で採用されれば、ゲーム起動時にカメラやマイクの利用許可を求められる場面が出てくることになります。表情を読み取る機能をオフにしても物語の変化が働くのか、どこまでのデータがサーバーへ送られるのかは、製品ごとのプライバシー設定を見るまで分かりません。
研究の系譜発明者はMicrosoft Researchの物語生成チーム
特許の発明者を研究論文と照らし合わせると、この技術の出どころが見えてきます。発明者のうちSudha Rao氏、Weijia Xu氏、Nebojsa Jojic氏、Chris Brockett氏、Bill Dolan氏の5人は、GPT-4で分岐ストーリーを作って図にする研究「GENEVA」(2023年11月公開)の著者と一致します。
GENEVAは、Microsoft Researchの「Emergence」というプロジェクトの成果の1つです。このプロジェクトでは、ゲームの作り手・プレイヤー・生成AIが一緒にゲームを育てていく方法を研究しています。発明者のうち4人が共著者に入った2024年4月公開の論文では、GPT-4がNPCを演じる謎解きテキストアドベンチャーを28人のゲーマーに遊ばせ、プレイログを物語のノードのグラフに変換しました。その結果、元の物語にはなかった新しい展開(エマージェントノード)をプレイヤーが自分で生み出していたことを確かめています。発見や探索、試行錯誤を楽しむタイプのプレイヤーほど新しいノードを多く生む傾向もあったと報告しています。
論文の実験は、プレイが終わった後にログを分析して新しい展開を見つけるところまででした。特許はその先の、プレイヤーが生んだ展開を盛り上がり具合で評価し、生成モデルで物語に組み込んでゲームへ戻す工程までを含んでいます。研究で確かめた現象を、ゲームを作り替える仕組みとして権利化した流れと読めます。
製品寄りの動きもあります。Xboxは2023年11月、生成AIのNPC技術を持つInworld AIと複数年の提携を発表しました。そこで示された計画は、脚本や会話ツリー、クエストの作成を助ける「AI design copilot」と、ゲームに組み込んでストーリーやクエスト、会話をプレイヤー向けに動的に生成する「AI character runtime engine」の2本立てです。2024年のGDCでは、プレイヤーの選択に合わせて変わる物語を作る開発ツール「Narrative Graph」がInworldとXboxの共同開発として発表されています。
一方、Microsoftのゲーム向け生成AIとして知られる「Muse」は別系統の技術です。MuseはWHAM(World and Human Action Model)と呼ばれるモデルで、ゲーム映像とコントローラー操作を生成します。物語の構造を扱う今回の特許とは狙いが違います。そのWHAMについては、2026年9月23日付でチームと技術がMicrosoft.AIの製品部門へ移ったことが、Microsoft Researchのプロジェクトページで告知されています。
ゲームのAIキャラクター全般の現状は、NVIDIA ACEの実ゲーム搭載状況をまとめた記事で、NPC会話にAIを使うタイトルがどこまで出ているかを整理しています。
製品化次のXboxゲームに入るとは決まっていない
特許が成立していることと、Xboxの新作ゲームにこの仕組みが入ることは別の話です。公報にはXbox、Game Pass、特定のタイトル名は出てきません。Microsoftも、どのゲームにこの技術を採用するとは発表していません。
Microsoft Gamingの経営方針からも、すぐに全面導入されるとは考えにくい状況です。2026年2月にCEOに就任したAsha Sharma氏は、就任時の公式ブログで「目先の効率を追ったり、魂のないAIスロップでエコシステムを氾濫させたりはしない」と書き、ゲームは人間が作る芸術だと明言しています。経緯はPhil Spencer氏の退任とAsha Sharma氏の就任をまとめた記事で紹介しています。
もっとも、同氏の発言は「AIを使わない」という意味ではなく、作り手の役割を置き換えるような使い方をしないという趣旨です。継続出願の請求項18にも、ゲームデザイナーの意見を受けながら生成モデルが物語を変えていく構成が入っています。実用化されるとしても、デザイナーが監修したうえでサイドクエストやNPCの会話を増やす、といった限られた場面から始まると見るのが現実的です。
Microsoftは同じ時期に、ゲームの区切りで広告を出してプレイ時間を与える特許出願も公開しています。こちらも製品化は未定で、ボス戦後の広告表示に関する特許の記事で請求項を読み解いています。
見分け方AIが物語を変えるゲームかどうかの確かめ方
こうした仕組みを使ったゲームがPCで出てきたとき、購入前に手がかりになるのがSteamの開示制度です。Steamでは2024年1月から、生成AIを使った作品にストアページでの開示を求めています。区分は、開発中に作っておく「事前生成」と、ゲームの実行中にAIが作る「ライブ生成」の2つです。
プレイヤーの行動を見てその場で物語を作り替えるゲームは、後者のライブ生成に当たります。ライブ生成を使う作品には、違法なコンテンツを生成しないための対策を申告する義務があり、プレイヤーはSteamオーバーレイから問題のある生成物を通報できます。Steamでの開示状況の全体像はSteam新作の生成AI開示率を3年分調べた記事で紹介しています。
- ストアページの「AI生成コンテンツの開示」欄に、ゲーム中にAIが内容を生成する旨の説明があるか
- 起動時や設定画面で、マイク・カメラの利用許可を求めてこないか。求めてくる場合、拒否しても遊べるか
- プレイ内容の分析データをサーバーへ送る旨が、利用規約やプライバシー設定に書かれていないか
- 攻略情報が通用しにくくなる点を、フレンドと同じ展開を楽しみたい遊び方と両立できるか
評価プレイヤーにとっての良い面と気になる面
- 気に入ったNPCや寄り道に、用意された以上の会話やクエストが続く可能性がある
- 周回プレイでも展開が変わり、ストーリーゲームを長く遊べる
- 多くのプレイヤーが退屈した場面や抜け道を、アップデートで直しやすくなる
- 開発側の分岐シナリオ制作の手間が減り、小規模チームでも分岐の多い作品を作りやすい
- 好まれる展開ばかり強化され、作り手があえて置いた緊張や不快な場面が薄れるおそれ
- 生成されたクエスト同士の矛盾や、NPCの設定のぶれを防げるかは未知数
- カメラやマイクの反応データを使う設計には、許可とデータの扱いの確認が欠かせない
- プレイヤーごとに内容が違うと、攻略情報や感想の共有がしにくくなる
FAQよくある質問
まとめまとめ|注目は「権利の範囲を広げにいった」こと
Microsoftの「Generative Narrative Game Experience With Player Feedback」は、プレイヤーの行動や反応から盛り上がり具合を測り、生成AIが物語のグラフにノードを足したり削ったりする技術です。2023年に出願され、2026年3月31日にUS 12,589,308として成立しています。
7月に公開されたUS 2026/0183672は新しい発明ではなく、成立済み特許の継続出願です。請求項1からエンゲージメント指標の条件を外し、「行動を見て生成モデルが物語を変える」仕組みをより広く押さえようとしています。発明者はGPT-4での分岐ストーリー生成を研究してきたMicrosoft Researchのメンバーで、XboxはInworld AIとも物語生成ツールを共同開発してきました。
一方、特定のXboxゲームやPCゲームへの搭載は発表されておらず、Microsoft Gamingのトップは「魂のないAIスロップ」を出さない方針を公言しています。AIが物語を変えるゲームがPCで出てきたときは、Steamの「ライブ生成」の開示と、マイク・カメラの利用許可の有無を購入前に確かめるのが確実です。



