『オーバーウォッチ』実験で判明|荒らしに見えるかは報酬・対象・評判の3条件で決まる、290人調査で加算的作用を確認【2026年8月】
本記事にはアフィリエイト広告(Amazon・楽天市場等)のリンクが含まれています。
荒らしに見えるかは報酬・対象・評判の3条件で決まる、290人調査で加算的作用を確認
出典:Sage Journals掲載論文「Trolling is in the Eye of the Beholder」(Velez氏ら、Communication Research 2026年8月号 Vol.53 No.6、pp.808-843)、著者John A. Velez氏へのインタビューを掲載したPsyPostにもとづきます。本記事の情報は2026年8月14日時点のものです。
オンラインの対戦ゲームで、味方や敵の何気ない行動を「荒らし(トローリング)」だと感じた経験がある人は少なくないはずです。しかし実際にその行動を取った本人には、荒らす意図がまったくなかったというケースも十分にあり得ます。米インディアナ大学ブルーミントン校のJohn A. Velez氏らの研究チームが、学術誌『Communication Research』2026年8月号(Vol.53, No.6, pp.808-843)に発表した論文で、この「荒らしの認識」を左右する具体的な条件を実験的に検証しました。論文自体は2025年4月にオンライン先行公開されており、正式掲載を機に改めて注目を集めています。
研究では、日常的にゲームをプレイする米国成人290人に『オーバーウォッチ』の録画プレイ映像を見せ、キャラクター「ラインハルト」が倒れた相手の上でエモート(ダンス)を行う場面を評価してもらいました。この行為自体は良くも悪くも取れる曖昧なものです。研究チームはここにゲーム内報酬の有無・行為の対象(味方か敵か)・コミュニティの評判(荒らしが多いか礼儀正しいか)という3つの条件を組み合わせ、参加者が抱く「荒らし意図」の認識がどう変化するかを調べました。
結果からは、この3条件が互いを打ち消し合うのではなく、手がかりがひとつ増えるごとに”荒らしらしさ”の印象が積み上がっていく「加算的」な関係にあることが分かりました。さらに、荒らしだと感じた度合いが強い人ほど、自分自身も報復的な攻撃行動を取りたいという欲求が強まる傾向も確認されています。本記事では、実験の具体的な数値、研究が抱える限界、開発者・モデレーターへの示唆まで、論文と研究者インタビューにもとづいて整理します。
目次
要点まず何が明らかになったか
実験方法オーバーウォッチの録画映像に3条件を組み合わせて提示
実験には、日常的にビデオゲームをプレイする米国在住の成人290人が参加しました。参加者が見せられたのは、『オーバーウォッチ』のプレイ映像を約3分間にわたって録画したものです。映像ではラインハルトを操作するプレイヤーが、倒れた相手キャラクターの上でダンス系のエモートを実行します。音声チャットとテキストチャットはあらかじめ無効化されており、このエモートだけが唯一の対人シグナルとして提示されました。
研究チームはこの映像に、次の3つの条件を組み合わせて操作しました。
- 条件1 ゲーム内報酬 そのエモートを行うと10ポイントのゲーム内報酬が付くと説明される場合と、報酬がまったくない場合を比較しています。
- 条件2 行為の対象 エモートの相手が敵チームのキャラクターだった場合と、味方チームのキャラクターだった場合を比較しています。
- 条件3 コミュニティの評判 「このコミュニティは荒らしが多い」と事前に説明された場合と、「礼儀正しいコミュニティ」と説明された場合を比較しています。
参加者は映像を見たあと、そのプレイヤーにどの程度「荒らす意図」があったと感じたかを7段階で評価しました。あわせて、もし自分が実際にそのゲーム内にいたとしたら、相手プレイヤーへどう対応したいかも尋ねられています。選択肢には、侮辱・嫌がらせ・意図的なプレイ妨害といった報復的な行動も含まれていました。
結果3条件それぞれで荒らし認識の平均スコアが変化
7段階評価(数値が高いほど「荒らしの意図があった」と判断されたことを示す)の結果は、次の通りです。
- ゲーム内報酬の有無 報酬ありの場合は平均4.03、報酬なしの場合は平均4.69でした。同じエモートでも、ゲーム上の合理的な理由が示されるだけで悪意があると判断されにくくなっています。
- 行為の対象(敵か味方か) 敵の上でエモートした場合は平均4.12、味方の上でエモートした場合は平均4.60でした。味方には協力的な行動を期待するぶん、その期待を裏切る行為のほうが悪意として解釈されやすいと考えられます。
- コミュニティの評判 礼儀正しいコミュニティと説明された場合は平均4.08、荒らしが多いと説明された場合は平均4.63でした。まったく同じ行為でも、そのコミュニティに対する先入観だけで悪意として受け取られやすくなる可能性を示しています。
加算的作用手がかりが増えるほど荒らしらしさが積み上がる
今回の結果で研究チームが特に意外だったと述べているのが、この3条件の関係性です。Velez氏はPsyPostのインタビューで「最も驚いたのは、効果が相互作用ではなく加算的だったことです。つまり各手がかりは別々に荒らしを示唆しますが、より多くの手がかりが含まれるほど効果が強くなります」と説明しています。
当初の想定では、ある手がかりが別の手がかりの意味づけを変える「相互作用」が起きる可能性もありました。しかし実際には、報酬がない・味方への行為・荒らしの多いコミュニティといった手がかりが単純に積み重なるほど、「荒らしだ」と判断される可能性が高まっていく構造だったといいます。荒らしを連想させる要素がひとつ増えるたびに、印象が段階的に悪化していくとイメージすると分かりやすいでしょう。
波及効果荒らし認識の強さが報復的な攻撃欲求を媒介する
研究チームは、参加者が「荒らしだ」と認識した度合いと、報復的な行動を取りたいという欲求の関係も分析しています。その結果、荒らしだと認識した度合いが高い人ほど、自分自身も侮辱や嫌がらせ、意図的なプレイ妨害といった攻撃的な行動を取りたいという傾向が強まることが確認されました。論文の要旨でも、荒らしの認識が報復的なハラスメントへの欲求を媒介したと述べられています。
Velez氏はPsyPostに対し、プレイヤー本人の実際の意図よりも、周囲がその行動をどう解釈したかのほうが重要になると説明しています。本人には荒らすつもりがまったくなくても、別のプレイヤーがそれを荒らしだと解釈すれば、その認識自体が新たな攻撃的行動の引き金になり得るという考え方です。整理すると、次のような連鎖が成立する可能性があります。
曖昧な行動を見る → 周囲の手がかりから悪意を推測する → 荒らされたと感じる → 正義感や報復目的で相手を攻撃する → その行動を別のプレイヤーが新たな荒らしと認識する、という悪循環が起こり得ます。
研究の限界録画映像への受動的な視聴で、実際の対戦とは条件が異なる
この研究の結果を読む際には、実験ならではの制約も踏まえておく必要があります。研究チーム自身が論文で明記している主な限界は次の2点です。
ひとつは、参加者が実際にプレイしたのではなく、事前に録画・演出された映像を受動的に視聴したという点です。実戦では、プレイヤー自身が操作に集中していたり、戦況への感情の高まりがあったりするため、周囲の手がかりをどこまで冷静に処理できるかは今回の実験結果と異なる可能性があります。もうひとつは、音声チャットとテキストチャットを意図的に排除していた点です。実際のゲームでは、プレイヤー同士が「今のは冗談」「ミスだった」といった形で意図を直接伝え合うことも多く、そうした言語的なやり取りが、今回確認された環境的な手がかりの影響を上回る可能性があります。
したがって、「オンラインゲームの荒らしの大半は勘違いした自警団的な行動である」と断定するのは早計です。今回の実験が示しているのは、あくまで曖昧な行動の解釈と報復欲求の関係であり、実際のオンラインゲーム全体に存在する荒らしのうち、どれだけの割合が誤解にもとづくものかまでを測定した研究ではありません。
示唆開発者・モデレーターへの応用可能性
研究チームは、この結果が開発者やコミュニティ運営に応用できる可能性にも触れています。誤解されやすいものの実質的には無害な行為に、小さなゲーム内報酬などの「正当な理由」をあらかじめ持たせておけば、悪意があると解釈されにくくなる可能性があるといいます。また、コミュニティモデレーターが「どのような手がかりの組み合わせが報復行動を誘発しやすいか」を理解しておくことで、対立が拡大する前に介入できる可能性も指摘されています。
Q&Aよくある質問
総括まとめ|荒らしと感じるかどうかは状況の手がかり次第
今回の研究が示したのは、プレイヤーの行動が「荒らし」に見えるかどうかは、その人の本当の意図だけで決まるわけではないという点です。ゲーム内報酬の有無・行為の対象・コミュニティの評判という3つの手がかりが、相互作用ではなく加算的に積み重なることで、まったく同じ行動でも印象が大きく変わることが実験的に示されました。
さらに、荒らしだと感じた度合いが強いほど、自分自身も報復的な行動を取りたいという欲求が強まる媒介効果も確認されています。一方で、この結果は録画映像を受動的に視聴し、音声・テキストチャットを排除した実験環境で得られたものであり、実際のオンラインゲーム全体における荒らしの割合を測定したものではない点には注意が必要です。「このゲームは民度が悪い」といった先入観自体が、荒らしと感じやすくなる一因になり得るという指摘は、日々オンラインゲームを遊ぶプレイヤーにとっても示唆に富む内容といえるでしょう。
米インディアナ大学ブルーミントン校のJohn A. Velez氏らの研究チームが、学術誌『Communication Research』2026年8月号に発表した論文で、プレイヤーの行動が「荒らし」に見えるかどうかを左右する条件を実験的に検証しました。米国成人290人に『オーバーウォッチ』の録画映像を見せた結果、ゲーム内報酬の有無・行為の対象(味方か敵か)・コミュニティの評判という3条件は、相互作用ではなく加算的に荒らし認識のスコアを押し上げていました(報酬なし4.69、味方への行為4.60、荒らしの多いコミュニティ4.63など)。さらに、荒らしだと感じた度合いが強い人ほど、報復的な攻撃行動を取りたいという欲求も強まる媒介効果が確認されています。ただし本研究は録画映像を受動的に視聴し、音声・テキストチャットを排除した実験環境で得られた結果であり、実際のオンラインゲーム全体の荒らしの割合を測定したものではありません。

