Steamの低評価レビューは高評価より短時間で投稿されやすい|1,503万件の学術研究で分かったプレイ時間と文章量の傾向
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1,503万件超のレビューを分析した学術研究で判明
出典:先行研究の原論文|ScienceDirect掲載論文(Computers in Human Behavior, 2023年)/Steamworks公式ドキュメント
Steamで気になるゲームを買う前、多くの人は好評率のパーセンテージだけを見て判断しがちです。ただ、同じ「低評価」でも、数時間で見切りをつけて投稿された不満と、数十時間遊び尽くしたうえで書かれた辛口レビューは、性質がまったく違います。ハンガリー・パンノニア大学の研究チームが発表した最新の分析は、この違いを大規模なデータで裏づけました。大規模マルチプレイのジャンルでは、低評価レビューが投稿された時点のプレイ時間は中央値でわずか187分だったのに対し、高評価レビューは565分にまで達していたのです。
この研究は、Steam公式APIを使って2023年3月ごろから約1か月間にわたり収集された英語レビュー1,503万2,567件を対象にしています。シングルプレイやCo-op、大規模マルチプレイ、非同期型マルチプレイなど、プレイヤーがゲームにどう参加しているかを示す「プレイヤー参加モード(PEM)」ごとに、レビューの長さ、投稿時点のプレイ時間、そしてレビューに表れる感情までを体系的に集計しています。論文は科学誌Heliyonに2026年7月23日付で採択され、7月28日にオンライン公開されました。
この記事では、報じられた分析結果を一次情報に基づいて整理したうえで、なぜ低評価は早く投稿されやすいのか、なぜ文章は長くなりやすいのかという背景を考察します。さらに、同じ研究チームが2023年に発表した別の大規模分析の結果もあわせて紹介し、Steamのレビューを読むときにプレイ時間の表示までチェックすべき理由と、Valveが公表している好評率のしきい値についても解説します。
目次
要点まず何が明らかになったか
低評価レビューは高評価レビューよりも短いプレイ時間で投稿されやすく、大規模マルチプレイでは中央値187分(低評価)対565分(高評価)という差が確認されたこと。低評価レビューの方が文章量も長くなりやすい傾向があること。一方でプレイ時間そのものとレビューの長さには相関が見られなかったこと。低評価には怒り・悲しみ・恐れ、高評価には喜び・期待の感情が表れやすいこと。Steamの好評率が40%を下回るとストア上の露出に影響が出る仕組みがあること。
研究概要1,503万件超のレビューをパンノニア大学が分析
今回の研究を発表したのは、ハンガリーのパンノニア大学に所属するTibor Guzsvinecz氏らの研究チームです。従来のゲーム体験・感情に関する研究は、特定のゲームジャンルや個別の機能に焦点を当てたものが多かった一方、この研究はプレイヤー参加モード(Player Engagement Mode、以下PEM)という切り口で、レビューの傾向を横断的に比較した点が特徴です。
研究チームは、各タイトルに対してシングルプレイやCo-op、大規模マルチプレイ、非同期型マルチプレイなど、プレイ形態に基づいて10種類程度のPEMから該当するものを割り当てたと報じられています。このPEM分類の詳しい内訳(10種類すべての名称や境界線の定義)までは報道の範囲では明らかになっていないため、本記事でも代表的な例を挙げる程度にとどめます。
短時間プレイ低評価レビューほど短いプレイ時間で投稿される
分析の結果、低評価レビューは高評価レビューよりも投稿文が長く、そしてより短いプレイ時間の段階で投稿される傾向が全体的に確認されました。この傾向がとりわけ大きく表れたのが、大規模マルチプレイのジャンルです。投稿時点でのプレイ時間を中央値で比較すると、低評価と高評価のあいだに次のような差がありました。
単純計算でも3倍近い差があり、低評価レビューを書いたプレイヤーの多くは、まだゲームの本編を十分に体験しきっていない段階でレビューを投稿している可能性がうかがえます。一方、高評価レビューを書いたプレイヤーは、9時間を超えるプレイを経てなお満足度を保っているという見方もできます。
考察|なぜ低評価は早く投稿されるのか
研究チームは、この差が生じる理由について、バグや操作性の悪さ、期待外れといった否定的な体験がプレイの早い段階で表れやすく、プレイヤーがそこで早期にプレイを切り上げて不満を投稿する可能性があると考察しています。逆に高評価レビューは、ある程度長くプレイを続けたうえで「このゲームは良い」という確信を持ってから書かれるケースが多いと考えられます。
研究チームはこの結果を踏まえ、ゲーム開発への示唆にも触れています。序盤の体験を単なる操作チュートリアルとして設計するのではなく、物語への関心や映像・音響による没入感、感情的な雰囲気づくりまで含めた多面的な導入体験として設計することが、低評価レビューを減らすうえで重要になり得るという指摘です。
文章量低評価レビューの方が長文になりやすい
今回の分析では、低評価レビューは高評価レビューよりも投稿文が長くなりやすいことも確認されました。同じ研究チームは2023年にも、別の大規模データセットで同様の傾向を報告しています。当時の論文はSteamのレビュー3,598万3,481件を対象にしたもので、文章量の中央値を比較すると次のような結果でした。
低評価レビューが高評価レビューの2倍以上の語数になっているのが分かります。不満点を具体的に説明しようとすると、良かった点を一言で伝えるよりも自然に文章が長くなるという傾向は、今回の最新研究でも2023年の先行研究でも一貫して見られたことになります。
プレイ時間と文章量には相関が見られなかった
一方で、意外な結果もありました。投稿時点のプレイ時間そのものと、レビューの文章量の間には、実質的な相関が見られなかったと報告されています。つまり「長く遊んだ人ほど長文を書く」という単純な関係は成立していません。研究チームは、レビューの長さを左右しているのはプレイ時間そのものではなく、体験に対する感情的な強さや印象深さ、ゲームに対する意見のはっきりした度合い、そしてプレイヤー個人のレビュー投稿習慣などである可能性を挙げています。
非同期型マルチプレイはレビューが長くなりやすい
PEMごとの違いにも注目が集まっています。非同期型マルチプレイ(対戦相手とリアルタイムで同時に操作するのではなく、順番にターンをやり取りするような形式のマルチプレイ)は、高評価・低評価のどちらでも平均語数がもっとも多いPEMだったと報じられています。研究チームは、ターン制や時間差のあるやり取りによって、プレイヤーが自分の体験を振り返りながら詳細に書き込みやすくなる可能性を指摘しています。
感情分析低評価は怒りと悲しみ、高評価は喜びと期待
研究チームは、自然言語処理の分野で広く使われている英語の感情辞書「NRC Emotion Lexicon」を使い、各レビューに含まれる感情も分析しています。この辞書は「怒り」「期待」「嫌悪」「恐れ」「喜び」「悲しみ」「驚き」「信頼」という8種類の基本感情と、ポジティブ/ネガティブという2種類の感情極性をスコア化する仕組みです。
分析結果を評価の高低で比べると、次のような違いが見られました。
- 低評価レビューには「怒り」「悲しみ」「恐れ」が多く表れる傾向
- 高評価レビューには「喜び」「期待」が多く表れる傾向
評価の方向性と感情の種類がおおむね一致するという結果自体は、直感的にも納得しやすいものです。ただし、PEMごとに見るとさらに細かい違いも確認されています。
Co-opゲームは高評価で「信頼」の感情が目立つ
Co-op(協力プレイ)のPEMでは、低評価・高評価のいずれでも感情表現の強度が全体的に低めだったと報じられています。感情がまったく表れないわけではなく、他のPEMと比べると起伏が小さいという意味です。それでも高評価レビューに限ると「信頼」の感情が相対的に多く見られたとされ、協力プレイの満足度には、仲間やゲームシステムに対する信頼感が関わっている可能性がうかがえます。
読み方Steamレビューを読むときに意識したいポイント
好評率だけでなくプレイ時間も確認する
今回の研究結果を踏まえると、Steamのレビュー欄で低評価が並んでいたとしても、それぞれの投稿者がどのくらいプレイした時点で書いているかを見てみる価値があります。Steamのレビュー一覧には投稿者のプレイ時間が表示されており、序盤だけで見切りをつけた低評価が多いのか、長時間プレイしたうえでの辛口評価が多いのかによって、そのレビュー群の重みは変わってきます。
発売直後のレビューは変動しやすい
今回の研究は特定の発売時期に限定したものではありませんが、低評価が早いプレイ時間で投稿されやすいという傾向は、発売直後にレビューの評価が大きく動きやすい理由の一端を説明しているとも言えます。発売直後は初期不具合や序盤の粗さに対する低評価が集中しやすく、パッチ対応が進むにつれて評価が変化していくタイトルは珍しくありません。発売直後の好評率だけで購入判断を固めるのではなく、しばらく時間を置いてから評価の推移を見る、あるいは長時間プレイしたユーザーのレビューを個別に探してみるといった読み方も有効です。
好評率40%のラインとSteamworksの基準
レビューの評価そのものが、Steamストア上での見え方に影響することもValveの公式ドキュメントで説明されています。Steamworksの公式ドキュメントによれば、ゲームの好評率が40%以上(Mixed以上)である限り、レビュー評価はストア上のアルゴリズムによる露出において不利な要因にはなりません。好評率が40%を下回って「やや不評」の水準に落ちると、フィーチャーされる機会が減りやすくなるとされています。
好評率が40%を下回ると「やや不評」の表示になり、Steamストア内でのおすすめ表示・特集掲載などの機会が減りやすくなります。逆に40%以上を保っていれば、露出面では大きな不利益はないとされています。
限界この研究で分かっていないこと
今回の研究には、いくつか留意すべき制約があります。研究チーム自身も報道の中で、今後の課題として次のような点を挙げています。
- 対象がSteam上の英語レビューのみで、他言語のレビューや他のプラットフォームは含まれていない
- 各ゲームにつき収集時点で最新の最大1,000件までしか取得していない
- NRC Emotion Lexiconによる感情分析は単語ベースであり、皮肉や文脈依存の表現までは捉えきれない可能性がある
- アンケートやインタビューのような質的調査は行われておらず、なぜ特定の感情が生じるのかという「理由」の部分までは踏み込んでいない
研究チームは今後、他のプラットフォームや言語のレビューを取り入れることや、質的調査を組み合わせることで、こうした限界を補っていく必要があるとしています。今回の結果は大規模なデータに基づく傾向であり、個別のゲームやレビューすべてに当てはまるわけではない点を踏まえて読むのが適切です。
結論まとめ|低評価は早くて長い、高評価は遅くて短い
ハンガリー・パンノニア大学の研究チームが1,503万2,567件のSteamレビューを分析した結果、低評価レビューは高評価レビューよりも短いプレイ時間で投稿されやすく、文章量は長くなりやすいという傾向が確認されました。大規模マルチプレイでは、低評価レビューの投稿時点のプレイ時間が中央値187分だったのに対し、高評価レビューは565分に達していました。
一方でプレイ時間そのものとレビューの文章量には相関が見られておらず、レビューの長さを決めているのは体験の感情的な強さや印象深さだと考えられています。感情分析では低評価に怒り・悲しみ・恐れ、高評価に喜び・期待が多く表れ、Co-opでは高評価時の「信頼」が目立つなど、プレイ形態ごとの特徴も見えてきました。Steamのレビューを読むときは、好評率のパーセンテージだけでなく、投稿者のプレイ時間や投稿タイミングまで確認すると、より実態に近い評価を読み取れそうです。



