AMD EPYC 9996「Vera比2.24倍」の内訳|コア単価では77%にとどまる理由
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コア単価で比べるとVeraの約77%にとどまる理由
AMDが2026年9月18日に公開した資料は、次世代サーバーCPU「EPYC 9996」がNVIDIAの次世代CPU「Vera」に対しSPECrate 2026 Integerで2.24倍のスコアを記録したと主張しています。この数字だけを見ると圧勝に見えますが、EPYC 9996は256コア、Veraは88コアという構成で比べており、コア数の差を差し引いて1コアあたりで比較すると、EPYC 9996のスコアはVeraの約77%にとどまります。
AMD Newsroomと製品ページの脚注データを実際にたどると、2,070点対925点という総合スコアの根拠となった512コアと176コアという母数の差、同じEPYC 9996が資料によって2,070点にも2,250点にもなる食い違い、そして「100kWラックで3.4倍」という主張が別ページでは「3.3倍」になっている理由まで確認できます。
EPYC 9006がZen 6とZen 6cという2系統のコアを使い分ける仕組みや、256コアという数字がそのままゲーム性能に直結しない理由は既存記事で整理済みのため、ここでは触れません。今回新たに公開されたNVIDIA Vera比較の数字そのものを掘り下げます。
出典:AMD Newsroom「EPYC CPUs Deliver for Every Layer of the Agentic AI Stack」(2026年9月18日公開)、AMD EPYC 9006 Series公式製品ページ(2026年9月24日確認)
目次
要点AMDの脚注データが示す4つの数字
| 比較の軸 | AMDの脚注データが示す内容 |
|---|---|
| 256コア9996 vs Vera | 2ソケット合計で2,070点(512コア)対925点(176コア)、総合2.24倍。1コアあたりでは約4.04点対約5.26点で、EPYC 9996はVeraの約77% |
| 96コア構成 vs Vera | 1,210点(192コア)対925点(176コア)、1コアあたり6.3点対5.3点で約1.2倍。AMDはこちらを「1.2倍の per-core 性能」と発表文の見出しで使用 |
| 9996 vs 前世代9965 | 同じ2P EPYC 9996でも、9965との比較では2,250点(AOCC 6.0)。Vera比較で使われた2,070点(GCC 15.2)と180点の差 |
| 100kWラック比較 | 9月18日のNewsroom記事は3.4倍、製品ページ(6月分析基準)は3.3倍。算出に使うSPECのバージョンが2017から2026に変わったための差 |
発表の中身34ページのホワイトペーパーで示された比較
AMDは2026年9月18日、EPYC 9006シリーズ(開発コードネーム「Venice」)に関する34ページのホワイトペーパーをNewsroomで公開しました。比較対象はIntel Xeon 6980P、AWS Graviton5、そしてNVIDIA Veraの3つで、SPECrate 2026 Integer、Redis、NGINX、STREAM Triadのメモリ帯域、100kWラック規模の試算など複数の指標が並びます。
AMDはVenice(EPYC 9006)がすでに量産段階に入っており、主要クラウド事業者が年内に展開を始めるとしています。ただしIntel Xeon 6980PやAWS Graviton5との比較の一部は自社計測に基づく一方、NVIDIA Veraとの比較値はAMDが実機を測定したものではなく、NVIDIAが自ら公開したVeraのホワイトペーパーの数字を引用したものです。両社の製品を同じ環境で動かして比べた第三者計測は、現時点で存在しません。
内訳256コアの内訳をコア単価まで計算する
AMDが「2.24倍」の根拠として示す脚注(9xx6-050)は、2ソケット構成のEPYC 9996(512コア合計)がSPECrate 2026 Integerで推定2,070点、2ソケット構成のVera(176コア合計)が推定925点としています。単純に割ると2,070÷925で約2.24倍です。
SPECrate系のベンチマークは、SPEC(Standard Performance Evaluation Corporation)自身が「テスト実施者が何コピーを同時実行するかを選べるスループット指標」と説明している通り、並列実行するコピー数が多いほどスコアが伸びやすい仕組みです。つまりコア数が多い側が有利になりやすい指標である以上、総合スコアの倍率だけでアーキテクチャの優劣を語るのは早計です。
そこでコア数で割った1コアあたりのスコアを計算すると、EPYC 9996は2,070÷512で約4.04点、Veraは925÷176で約5.26点になります。4.04を5.26で割ると約0.77、つまりEPYC 9996のコアあたりスコアはVeraの約77%です。2.24倍という総合スコアの大部分は、512対176という約2.91倍のコア数差から生まれている計算になります。
NVIDIA公式によると、Veraは88基の「Olympus」コアを搭載し、Spatial Multithreadingという仕組みで176スレッドを生成します。AMDの脚注が示す「176」は2ソケット構成(88コア×2)の合計コア数で、GPUとは1.8TB/sのNVLink-C2Cで接続され、メモリはLPDDR5Xを最大1.5TB・最大1.2TB/sで搭載します。
出典:NVIDIA Vera CPU公式ページ、SPEC CPU 2026 Result Fields(SPECrateの定義)(2026年9月24日確認)
別の比較AMDが発表文の見出しに使った「1.2倍」は96コア構成の数字
AMDのプレスリリース本文が見出しで強調しているのは、実は256コアの9996ではなく、別の96コア構成との比較です。脚注(9xx6-049)では、2ソケット合計192コアの「96c HFプロセッサー」がSPECrate 2026 Integerで推定1,210点(1コアあたり6.3点)、対するVeraが925点(1コアあたり5.3点)で、コア単価は約1.2倍としています。
この「96c HF」は、既存記事で解説したZen 6(高周波数)とZen 6c(高密度)の使い分けのうち、高周波数側に相当する構成とみられます。256コアの9996がコア密度を優先した構成であるのに対し、コア数を絞って動作周波数を上げた構成ではVeraとの差が縮まる、という関係です。
ドイツのPC Games Hardwareは、この1.2倍という数字の根拠としてAMDの脚注が「96c HFプロセッサー」という型番と「96コアに絞ったEPYC 9996」という2通りの説明を使っており、どちらの製品を指しているのか判然としないと指摘しています。同じ主張の裏付けとなる脚注の記載自体に揺れがある点は、数字を読む際に留意すべきポイントです。
世代比較前世代EPYC 9965との比較では同じ9996が2,250点に
AMDの公式ブログ「The Agentic Era Runs on a CPU Foundation」は、EPYC 9996を前世代の9965と比較しています。ここでの2ソケットEPYC 9996(512コア、AOCC 6.0でコンパイル)のSPECrate 2026 Integerスコアは推定2,250点で、9965(384コア、AOCC 5.1)の1,270点に対して約1.77倍(約78%増)としています。
注目したいのは、Vera比較に使われた2,070点と、9965比較に使われた2,250点は、どちらも同じ「2ソケットEPYC 9996」を指しながら180点(約8.7%)違う点です。両方の脚注とも社内データの基準日は2026年7月22日で統一されていますが、Vera比較はGCC 15.2、9965比較はAOCC 6.0と使用コンパイラが異なります。同じ製品の同じベンチマークでも、比較相手が変わるとAMDが提示するスコア自体が変わることになります。
ラック比較「100kWで3.4倍」は製品ページでは「3.3倍」
Newsroom記事(9月18日公開)は、100kWの電力予算のラックで、EPYC 9996が「Veraベースのプラットフォームの推定3.4倍のスループット」を実現するとしています。ところが同じAMDのEPYC 9006製品ページを確認すると、同じ100kW比較の見出し表でEPYC 9996は「Up to 3.3x」と表記されており、数字が一致しません。
この比較の元になっている脚注(9xx6-021)は、Dell IR7000をベースにしたラックへEPYC 9996を126基(600W×126)、Veraを176基(450W×176)搭載するモデルで、コア数では32,256対15,488、比率にして約2.08倍になります。コア数の差だけでスループット差の半分近くを説明でき、残りが1コアあたりの性能差に相当する計算です。
3.3倍から3.4倍への変化は、算出に使うワークロードの基準をSPECrate 2017からSPECrate 2026へ切り替えたことによるものです。製品ページの3.3倍はSPECrate 2017を含む6月時点の分析(脚注の基準日表記による)、9月18日公開のNewsroom記事が使う3.4倍はSPECrate 2026に更新した7月時点の分析で、同じ「EPYC 9996は100kWラックでVeraの3倍強」という主張でも、AMD自身の公式ページ同士で表記が食い違っている状態です。
前提条件コンパイラと「測定済み」表記にも注意点がある
- Intel Xeon 6980P・AWS Graviton5との比較はAMDの自社実機計測で、Redis 2.9倍・NGINX 3.7倍などの数値には具体的な計測条件が公開されている
- 256コア・512スレッド、16チャネルDDR5、PCIe Gen 6といった基本スペックは製品ページで確定情報として公開済み
- Vera側の数値はすべてNVIDIA公開資料からの引用で、AMDによる実機計測ではない。両社とも「AMD engineering projections」「preliminary」「subject to change」と明記された推定値
- 海外メディアHardware Bustersの検証では、ホワイトペーパー内のVenice側ベンチマークにGCC 16.1、Vera側の参照データにGCC 15.2と異なるコンパイラが使われている可能性が指摘されている。同メディアとPC Games Hardwareはいずれも、ラック比較のスライドに「measured(測定済み)」と表記されながら、脚注では「モデル」と説明される不一致も指摘
出典:Hardware Busters「AMD’s First Official EPYC Venice Benchmarks Aim Straight at NVIDIA Vera, and the Compilers Don’t Match」(2026年9月20日)、PC Games Hardware「AMD Epyc vs. Nvidia Vera」(2026年9月20日)
影響ゲーミングPCユーザーがすべきことは特にない
今回の発表で影響を受けるのは、サーバーやクラウド、AIインフラを検討している法人の購買担当者です。EPYC 9006もVeraも一般向けデスクトップ製品ではなく、今回の数字がRyzenのゲーム性能や発売時期を左右するものではありません。256コアという数字がゲーム性能に直結しない理由は、既存記事の該当セクションで解説済みです。
むしろ今回の件から持ち帰れるのは、メーカー発表の「◯倍」という数字を見るときの視点です。SPECrate系の指標はコア数が多いほど有利になりやすく、公表される倍率がアーキテクチャの優劣なのか、単なる物量差なのかは、分母のコア数まで確認しないと判断できません。EPYC 9006とVeraはどちらもまだ一般に出荷されていない製品で、SPEC.orgへの公式かつ監査済みの結果はまだ提出されていません。実機による第三者計測やSPEC.orgの公式結果が出るまでは、今回の「2.24倍」を確定した性能差として扱わないのが妥当です。
FAQよくある質問
AMDが2026年9月18日に公開したEPYC 9996とNVIDIA Veraの比較は、SPECrate 2026 Integerで総合2.24倍という数字が目を引きますが、内訳は512コア対176コアという母数の差が大きく寄与しています。1コアあたりのスコアで見ると、EPYC 9996はVeraの約77%にとどまります。
同じEPYC 9996でも、比較相手や使用コンパイラによって2,070点と2,250点という異なるスコアが使われ、100kWラック比較の倍率もAMD公式サイト内で3.3倍と3.4倍の2通りが存在します。Vera側の数値はNVIDIA公開資料からの引用で、AMDによる実機計測ではありません。
どちらの製品もまだ一般出荷前で、SPEC.orgへの公式な監査済み結果も提出されていません。ゲーミングPCの購入判断に影響するニュースではなく、メーカー発表の性能倍率は分母のコア数まで確認してから受け止めるのが安全です。

