OptiScalerがFSR 4をRX 6000/7000に解放——AMDの「誤公開」から生まれた非公式INT8技術の全貌
AMDの「誤公開」が起こした非公式革命
- AMDが誤って公開したFSR 4のソースコード(MITライセンス)をもとに、コミュニティがINT8版DLLをビルド。これをOptiScalerが取り込んだことで、RDNA 4専用だったFSR 4がRX 6000/7000シリーズ(およびNVIDIA RTX 30/40系)でも動作するようになった。
- FSR 3.1比で画質は明確に向上するが、パフォーマンスは9〜20%低下する。RDNA 4が持つFP8専用ハードウェアを持たない旧世代GPUでは、INT8整数命令で代替するためオーバーヘッドが生じる。ただし解像度や設定によって差は変わる。
- 非公式ツールであるためEasyAntiCheat/BattlEye搭載ゲームでは使用不可。OptiScaler自体はGPL-3.0ライセンスのオープンソースで、シングルプレイゲームを中心に現在556タイトルで動作が確認されている。
目次
OptiScalerとは何か——「どのゲームでもFSR 4を使う」ためのプロキシDLL
OptiScalerは、ゲームが呼び出すアップスケーラー(DLSS・FSR・XeSS)のDLL呼び出しをインターセプトし、ユーザーが選んだ別のバックエンドに差し替えるツールです。ゲームの実行フォルダに専用のプロキシDLLを1枚置くだけで動作し、ゲーム本体のファイルを書き換える必要はありません。
たとえば「DLSSにしか対応していないゲーム」でも、OptiScalerを使えばバックエンドをFSR 4に変更してプレイできます。AMD製GPUを使っているのに「DLSS専用」で弾かれてきたユーザーにとって、特に恩恵が大きいツールです。
なぜFSR 4はRDNA 4専用なのか——FP8とINT8の違い
FSR 4はAMDの機械学習ベースのアップスケーリング技術で、従来のFSR 3.1(空間アップスケーリング)と異なり、ニューラルネットワークを使って映像を再構成します。その演算の核心にあるのがFP8(8ビット浮動小数点)専用命令です。
| 項目 | RDNA 4(RX 9000系) | RDNA 2/3(RX 6000/7000系) |
|---|---|---|
| AI演算命令 | FP8 WMMA(Wave Matrix Multiply-Accumulate) | DP4a(整数ドット積、INT8相当) |
| FSR 4モード | FP8(公式対応) | INT8(非公式・コミュニティビルド) |
| 処理オーバーヘッド | 約2〜4% | 約9〜20% |
| 画質(FSR 3.1比) | 大幅改善 | 明確に改善(FP8版より若干劣る) |
| AMD公式サポート | あり | なし |
RDNA 4が持つWMMA命令は、行列積演算をハードウェアレベルで加速するユニットです。FSR 4のニューラルネットワーク推論はこの命令に最適化されており、RDNA 4では処理コストが最小に抑えられています。RDNA 2/3にはWMMAが存在しないため、代わりにDP4a命令(整数ドット積)を使って近似しますが、これがパフォーマンスコストの原因です。
FSR 4 INT8 DLLの出所——AMDの「誤公開」事件
FSR 4 INT8版が誕生した経緯は、普通のソフトウェア開発の話ではありません。AMDが引き起こした「うっかりオープンソース公開」事件がすべての発端です。
実際の性能はどうなのか——RDNA 2/3での計測データ
「画質は上がるが速度は落ちる」——これがRDNA 2/3でのFSR 4 INT8の現実です。具体的にどの程度かを、実測データで確認します。
| GPU | アーキ | モード | FSR 3.1比 fps変化 | 処理時間(ms) |
|---|---|---|---|---|
| RX 6800 XT | RDNA 2 | Quality 1440p | 約−10% | 0.4ms → 1.2ms |
| RX 6800 XT | RDNA 2 | Performance 1440p | 約−13% | — |
| RX 7800 XT | RDNA 3 | Quality 1440p | 約−9% | — |
| RX 7800 XT | RDNA 3 | Performance 1440p | 約−12% | — |
| RX 9070 XT | RDNA 4(参考) | Quality 1440p | 約−3% | — |
一方、画質面では複数の検証者が「FSR 3.1を大幅に上回り、場面によってはXeSS DP4aより優れる」と評価しています。特に文字の鮮明さ・動く物体の輪郭・遠景の細部再現で差が出やすいとされています。
対応GPU・対応タイトルの実態——どこで使えてどこで使えないか
- RDNA 2(RX 6000系) — INT8モードで動作。9〜20%のオーバーヘッドあり
- RDNA 3(RX 7000系) — INT8モードで動作。9〜12%のオーバーヘッドあり
- RDNA 4(RX 9000系) — FP8公式対応。OptiScaler経由でさらに多くのタイトルに適用可能
- NVIDIA RTX 30/40系 — DP4a命令を持つため、INT8モードで動作(RDNA 2/3と同程度のオーバーヘッドと推定)
- DX11 / DX12 ネイティブタイトルの大多数(556タイトルで動作確認済み)
- EasyAntiCheat 搭載タイトル(Apex Legends、Fortnite等) — 起動拒否またはBANリスク
- BattlEye 搭載タイトル(Rainbow Six Siege等)
- EA AntiCheat 搭載タイトル(EA WRC等)
- Vulkan ネイティブタイトル(従来版では非対応。最新テストビルドで対応中)
- オンライン対戦を含むタイトル全般(シングルプレイ部分でも規約上グレーゾーン)
AMDの公式見解と今後の動向
AMDはINT8版FSR 4に対して公式には沈黙を続けています。CES 2026でAMD副社長のDavid McAfeeが「旧世代ハードウェアへの移植は非常に困難な技術的課題だ」と述べており、RDNA 2への公式対応は現時点では否定的です。
一方、複数の情報筋によればAMDはRDNA 3向けINT8版の開発チームに追加リソースを投入しているとされています。公式対応が実現すればOptiScalerを使わずともRX 7000系でFSR 4が使えるようになりますが、2026年3月時点では「no updates to share」の回答が続いています。
使う前に必ず知っておくべきこと
- オンライン対戦ゲームには絶対に使わない。EasyAntiCheat・BattlEye等の搭載ゲームでは起動を拒否されるか、最悪の場合アカウントがBANされる可能性があります。
- 非公式ツールであるため、ゲームアップデートで動作しなくなることがある。OptiScalerの更新で対応されることが多いですが、タイムラグが生じる場合があります。
- FSR 4 INT8 DLLはAMDの公式サポート対象外。AMDがMITライセンスを誤付与したコードに基づいており、法的には有効とみなされていますが、AMDの保証は一切ありません。
- RDNA 2ではパフォーマンスロスが生じる。元の fps に余裕がない場合(60fps付近など)はFSR 3.1の方が快適なプレイ体験になる可能性があります。