DirectXがシェーダーカクつきを根絶へ——GDC 2026発表のAdvanced Shader Delivery・DXR 2.0・AI統合を徹底解説
GDC 2026で発表された3つの技術革新
Advanced Shader Delivery・DirectX Linear Algebra・DXR 2.0——PCゲームの「なぜカクつくのか」問題に、MicrosoftがOSレベルで回答を出した
- シェーダースタッター根絶:「Advanced Shader Delivery」がコンパイル済みシェーダーをストアで事前配布。ゲーム起動時・プレイ中のカクつきをOSレベルで解消。NVIDIA対応は今年後半、AMD・Intel・Qualcommは近日中
- AIをDirectXに統合:「DirectX Linear Algebra」でDLSS/FSRのようなAI推論をDirectX標準APIで直接実行可能に。2026年4月にパブリックプレビュー開始
- DXR 2.0でレイトレの重さを100倍改善:加速構造のビルド速度が最大100倍になる「Clustered Geometry」など3機能を追加。2026年晩夏プレビュー予定
目次
なぜ今、DirectXが「グラフィックスAPI」から脱皮するのか
DirectXはWindows 95時代からPCゲームの基盤として機能してきました。しかし近年、ゲーマーからの不満として繰り返し挙がるのが「シェーダーコンパイルによるカクつき」と「レイトレーシングが重すぎる」という2点です。
この2つは実は同じ根本問題を持ちます。GPUが処理できる形式(マシンコード)に変換する作業——コンパイル——がゲームプレイの最中に発生しているという構造的な問題です。
MicrosoftはGDC 2026(3月11〜14日)で、この問題に対してDirectX本体を書き換えるという答えを出しました。従来型のグラフィックスAPIとしての役割に加え、AIによるレンダリング計算をDirectX標準に取り込み、開発者が別ミドルウェア(DLSS SDK、FSR SDKなど)を使わなくてもOS標準機能として呼び出せる方向へ舵を切ったのです。
Advanced Shader Delivery——ゲームのカクつきをOSが事前に解決する
「初めてそのエリアに入るとカクつく」「1回目はガクガクするが2回目からは滑らか」——PCゲームを遊んでいれば一度は経験したことがあるはずです。これはシェーダーコンパイルスタッターと呼ばれる現象で、GPUが特定の描画処理を初めて実行する際に、ソースコードをマシンコードへ変換する作業(コンパイル)がリアルタイムで走るために起きます。
従来の対策は「ゲームを一定時間プレイさせてシェーダーキャッシュを蓄積する」か「起動前に長時間のシェーダーコンパイルを走らせる」かの2択でした。どちらも完全な解決策ではありませんでした。Advanced Shader Delivery(ASD)はこの問題をゲームのダウンロード・インストール段階で潰す設計です。
- 初回プレイ時にその場でシェーダーをコンパイル
- コンパイル中はフレームが止まる→カクつき
- GPU×ドライバーの組み合わせで挙動が変わる
- 開発者も全組み合わせをテスト不可能
- 開発者がSODBを収集→PSDBを事前生成
- ゲームDL時にユーザーのGPU向けPSDBを配布
- 起動後はコンパイル済みを読み込むだけ
- Intel:ロード時間を最大3倍改善と実測報告
ASDの仕組み——4つのステップ
ASDは開発者・Microsoft・ユーザーが協調して動くシステムです。ゲーム側に一定の実装作業が必要ですが、一度対応すれば全ユーザーが恩恵を受けられます。
各GPUメーカーの対応時期
DirectX Linear Algebra——DLSS・FSRの「中身」をOSに統合する試み
現在、AIを使ったアップスケーリング(DLSS、FSR、XeSSなど)は各社がそれぞれ独自のSDKとして配布しています。開発者はDLSSならNVIDIA SDKを、FSRならAMD SDKを個別に組み込む必要があり、管理の手間がかかります。
DirectX Linear Algebra(DXLA)とDirectX Compute Graph Compilerは、こうしたAI推論の処理をDirectX標準のAPIとして呼び出せる基盤を作ることを目指しています。Shader Model 6.9で追加されたCooperative Vectors(ベクター・行列演算)をさらに拡張し、行列×行列演算・スレッド間データ共有・バッチ実行に対応したのがDXLAです。
HLSLシェーダーの中でMLモデルの推論を直接実行できる低レイヤーAPI拡張。AMD(WMMA経由)・NVIDIA・IntelがDay Oneサポートを表明。スーパー解像度・デノイジング・ニューラルテクスチャ圧縮など、あらゆるAIレンダリング処理の基盤になる
MLモデル全体のグラフをGPUネイティブ性能で実行するコンパイラAPI。モデルをフレームワークから読み込み、デバイス向けに最適化・オペレーター融合を行いD3D12キューに統合。AMD GPUOpenではFSRの研究デモとしてこの技術を使ったMLアップスケーリングが動作している
ただし、DXLAはあくまで「低レイヤーのAPI基盤」です。DLSS・FSRが直ちに廃止されるわけではなく、各社が独自に磨いてきた学習済みモデルや独自最適化は引き続きSDKとして機能します。将来的には「DirectX標準機能としてのアップスケーリング」という形になる可能性はありますが、現時点ではまだ開発者向けのプレビュー段階です。
DXR 2.0——レイトレーシングの「重すぎる問題」を構造から解決
レイトレーシングが重い理由のひとつに、加速構造(BVH、BLASとも呼ばれる)のビルドコストがあります。レイをシーン内のポリゴンと衝突判定するためにGPUが事前に構築するデータ構造で、特に動くオブジェクトが多いシーンでは毎フレームの更新に相当なGPU時間を消費します。DXR 2.0はこのボトルネックを3方向から叩きます。
| Tier | 必須機能 | 想定ハードウェア |
|---|---|---|
| Tier 1.2 | Opacity Micromaps(OMM)・SER | 既存レイトレ対応GPU(ドライバー更新で対応可能性あり) |
| Tier 2.0 | Tier 1.2の全機能+Clustered Geometry+PTLAS+Indirect Operations | 新世代GPU(2026〜2027年以降) |
DXR 2.0の仕様は2026年3月18日時点でv0.20ドラフト段階です。「出荷前の改良を前提とした」プレリリース状態であり、Tier 2.0に完全対応するGPUが市場に登場するのは2026〜2027年以降になります。Tier 1.2(OMM対応)については既存のレイトレ対応GPUがドライバー更新で対応できる可能性があるとMicrosoftは示唆しています。
リリーススケジュール——いつ、何が使えるようになるか
PCゲーマーにとって何が変わるか
3つの技術はそれぞれ時間軸が異なりますが、最も早く・広く体感できるのはASDです。NVIDIAドライバーが今年後半に対応すれば、RTXユーザーはASD対応ゲームで「初見でもカクつかない」体験が得られます。ただし、ゲーム側の対応が必要なため普及には時間がかかります。
MicrosoftはGDC 2026で「DirectXをMLが中核のグラフィックスプラットフォームへ転換する」と明言しました。短期的にはASDによるスタッター解消がゲーマーに一番早く届く恩恵です。中長期的には、AIレンダリングが「一部のGPU専売ミドルウェア」から「DirectX標準機能」へと格上げされていく流れが始まったGDCと言えます。