MSI「創業以来最大の難局」——ゲーミングPC・GPU価格が9ヶ月で最大30%値上がりへ。ASUS・ZOTACも同調
ゲーミング製品を最大30%値上げへ
2026年3月13日の決算説明会でMSIゼネラルマネージャーが「今年は創業以来最も厳しい年」と宣言。GPU・ゲーミングノートなどを9ヶ月かけて15〜30%値上げする方針を発表しました。ASUS・ZOTACも同様の危機感を表明しており、ゲーミングPC価格の本格的な上昇局面が始まっています
- MSIが2026年を「創業以来最も厳しい年」と宣言し、GPU・ゲーミングノート等を9ヶ月かけて15〜30%値上げする方針を決算説明会で発表。ASUS・ZOTACも同様の危機感を表明済み
- 主因はDDR5 16GBモジュールが昨年同時期の$40→$170〜200(約4〜5倍)に高騰したこと。GDDR7不足・AI大手によるメモリ買い占め・NVIDIAのGPU供給が通常比約20%不足が複合的に重なっている
- 国内でも大手PCメーカー13社中6割超が値上げ実施済みまたは予定。正常化の見通しは早くとも2027年で、それ以前に価格が下がる可能性は低い
目次
「最も厳しい年」——業界3社が語った本音
今回の価格危機を象徴するのは、PCゲーミング業界の主要メーカー3社が相次いで発した強い言葉です。
「今年は弊社創立以来、最も厳しい年だ」
2026年3月13日の決算説明会で投資家に向けて発言。PCゲーム市場が2026年に10〜20%縮小すると予測し、低価格帯GPUの生産を約30%削減して中〜高価格帯に経営資源を集中する方針を表明。
「メモリ不足は2027年には正常化し始めるだろうが、誰も最初に価格を下げたくない」
1月5日から一部製品の値上げを実施。「供給が改善しても各社が一斉に値下げに踏み切らない限り、価格は高止まりする」という業界の構造を正直に認めた発言として広く引用されている。
「現状は極めて深刻で、GPUメーカーとディストリビューターの存続そのものが脅かされている」
韓国向け顧客への書面で警告。2%還元プログラムを停止し、安定供給が困難であることを正式に通知。業界で最も強い表現で危機感を示したメッセージとして注目を集めた。
3社ともに「自社の問題」ではなく「業界全体の構造問題」として語っているのが共通点です。Lenovo・Dell・HP・Acerも顧客に対して15〜20%の値上げを通知済みで、今回のMSI発表はその流れの中での一つの節目に過ぎません。
なぜ今これほどの値上げが起きるのか
単純な企業の利益追求ではなく、複数の要因が重なった構造的な問題です。
Microsoft・Meta・Google等がHBM(AI向け高帯域幅メモリ)とDDR5を大量確保。2026年のDRAM生産量の約20%をAI用途が消費する見通し(IDC)。Samsung・SK Hynix・Micronがより利益率の高いHBM・エンタープライズ向けに生産をシフトし、コンシューマー向けの割り当てが激減した。
DDR5 16GBモジュールが昨年同時期の約$40から$170〜180に高騰(スポット取引では$200超)。約4〜5倍の値上がり。GDDR7も同様で、RTX 5060 Ti 16GB等はメモリコストが採算ラインを超えて生産困難な状態に。MSIの在庫は「1〜2ヶ月分しか確保できていない」という。
NVIDIA自身もBlackwell世代のAI向けGPU(H100/H200等)製造をTSMCの先端ファブで優先しており、ゲーミング向けGB202/GB206の製造枠が圧縮されている。MSIの試算ではNVIDIA GPU供給が通常比約20%不足。NVIDIAのCFOも「供給制約はゲーミング部門への逆風。数四半期はタイトな状況が続く」と公式に認めている。
メモリ原価高騰+供給不足+需要の高止まりが重なり、メーカーが値下げ競争ではなく「高値維持」を選択しやすい環境が生まれている。ASUSの「誰も最初に価格を下げたくない」という発言はこの構造を端的に示している。
値上げの対象と幅——何がどれくらい上がるのか
| 対象製品 | 値上げ幅 | 実施時期 | 主な影響 |
|---|---|---|---|
| グラフィックスカード(GPU) | 15〜30% | 9ヶ月かけて段階的 | 低価格帯で最大の影響 |
| ゲーミングノートPC | 15〜30% | 同上 | DDR5搭載モデルを直撃 |
| マザーボード(メモリ搭載モデル) | 15%前後 | 同上 | DDR5対応機種全般 |
| プリビルドPC・ゲーミングPC | 15〜20% | 各社で異なる | 国内BTO各社に波及 |
| DDR5メモリ単体(小売) | 約4〜5倍(実績) | すでに高騰済み | 自作ユーザーに直撃 |
MSIは低価格帯GPUの生産を約30%削減し、RTX 5060 TiやRTX 5070クラスに集中する方針を明らかにしています。これは「安いGPUほど利益率が低く、メモリ高騰の影響を吸収できない」という事情によるものです。値上げ幅が最も大きいのは皮肉にも、これまで最も手が届きやすかった入門〜ミドルクラスの製品です。
日本市場への影響
海外の話ではなく、日本市場でもすでに影響が出ています。
PC Watch(2026年2〜3月調査)によると、国内大手PCメーカー13社のうち6割超が値上げ実施済みまたは予定。値上げ幅は「11〜20%」が多数を占める。「需要にマイナスの影響がある」と回答したメーカーも6割強に達した。
マウスコンピューター「メモリやSSDの価格が2倍以上に高騰」、Dynabook「DRAMがこれまでにない急激な幅で値上がり」。VAIOは長期戦略契約で安定供給を確保し値上げ予定なしと回答し、対照的な状況になっている。
Tom’s Hardware(2026年1月)が「GPU crisis hits Japan」として報道。RTX 5060 Ti以上のモデルは入荷してもすぐ売り切れる状態が続き、一部小売店は入荷待ちで空棚をカーテンで目隠しするなどの対応を迫られた。複数の小売店が購入個数制限を設定済み。
ドル建てで15〜30%上昇する値上げが、円安によってさらに増幅される構造。仮に1ドル=155円水準が続けば、$100の価格上昇が約1万5,500円に相当する。「米国での値上げ幅」をそのまま円に換算すると、日本での値上げ幅はさらに大きくなる可能性がある。
「10〜20%市場縮小」——PCゲーム市場の見通し
MSIは2026年のPC市場が10〜20%縮小すると予測しています。これはIDCなどの調査機関の見通しとも大筋で一致しており、「過度な悲観論」ではないと言えます。
Huang Jinqing GM発言。メモリ・GPU供給不足が買い控えを招くと予測。低販売量でも価格上昇でカバーする戦略を明言。
PC出荷台数は「10年以上で最大の落ち込み」と下方修正。ただし価格上昇により市場規模(金額)は2,740億ドルに増加する見通し。
「2027年に正常化し始めるだろうが、誰も最初に価格を下げたくない」。SK Hynixは「2026年分の供給はほぼ完売済み」と表明しており、短期回復は期待薄。
注目すべきは「出荷台数は減るが市場規模(金額)は増える」というIDCの予測です。メーカーは台数が売れなくても単価を上げることで売上を維持できる構造であり、これが「誰も最初に価格を下げたくない」という行動を後押ししています。消費者にとって不利な均衡が当面続く見通しです。
今どうすればいいか——2026年の購入判断
この状況を踏まえた上で、今ゲーミングPCやGPUの購入を検討している方へ率直な見解をまとめます。
- 現在のPCがプレイしたいゲームの要件を満たしていない
- RX 9060 XT(16GB・FSR 4対応)やRTX 5060 TiなどMSRP付近で買えるモデルがある
- 9ヶ月後には15〜30%高くなると想定すると、待つコストが高い
- 用途が1080p〜1440pゲームで、現行世代で十分な性能が得られる
- 現在のPCで問題なくゲームができている
- RTX 5080・5090クラスの最上位を狙っている(在庫が改善する可能性がある)
- 2027年以降の価格正常化を待てる余裕がある
- AMD RX 9060 XTの在庫が潤沢で、RTX 50より入手しやすい状況を活用できる