390TBのゲームアーカイブ「Myrient」が閉鎖——AI需要によるメモリ高騰が、ゲーム保存を殺しつつある

390TBのゲームアーカイブ「Myrient」が閉鎖——AI需要によるメモリ高騰が、ゲーム保存を殺しつつある

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GAME PRESERVATION
390TBのゲームアーカイブが消える

世界最大級のゲーム保存サイト「Myrient」が3月31日に閉鎖。AI需要によるメモリ・ストレージ価格の高騰が、個人で運営されていたアーカイブにトドメを刺しました

この記事のポイント
  • 390TB、21以上のデータベースを収録していたゲームアーカイブ「Myrient」が3月31日に閉鎖
  • 運営者は月6,000ドル以上(約90万円)を自腹で負担。AI需要によるDRAM +90%、NAND +55%の価格高騰が直撃
  • ボランティアが385TBの全データバックアップに成功。分散型の「Minerva Archive」として存続へ
目次

Myrientとは何だったのか

Myrient(myriad + entertainment)は、検証済みのゲームROM/ISOを広告なし・登録不要・速度制限なしで公開していたアーカイブサイトです。NES、SNES、PlayStation、Sega Saturn、DOSゲームからアーケード基板まで、No-IntroやRedumpのチェックサムで品質検証された390TBのデータを、個人が実質一人で運営していました。

単なる「ROMサイト」ではありません。全データが既知の良品チェックサムで検証され、学芸員的なキュレーションが施されたデジタルアーカイブです。研究者、エミュレーション開発者、レトロゲームコミュニティにとって、最も信頼できるソースのひとつでした。

なぜ閉鎖に追い込まれたのか

直接的な理由は3つです。

1
月6,000ドル以上の自腹負担トラフィックとインフラのコストに対して寄付が追いつかず、運営者が毎月約90万円を自費で補填し続けていました。
2
AI需要によるストレージ価格の高騰2025年後半からDRAM・NAND Flash価格が急騰。サーバーのキャッシュメモリとストレージのアップグレードが必要でしたが、費用を賄えなくなりました。
3
商業利用ダウンローダーの横行サイトの保護機構と寄付メッセージをバイパスし、有料機能を設けてMyrientのコンテンツを商用利用するダウンロードマネージャーが横行していました。

AI需要がゲーム保存を殺す構造

Myrient閉鎖の背景にある構造は、PCゲーマーなら見覚えがあるはずです。GPU価格を高騰させているのと同じメカニズムがストレージにも波及しています。

メモリ種別2026年Q1の上昇率背景
通常DRAM+90〜95%(前四半期比)AIデータセンター向けに供給の大半を優先配分
PC用DRAM+100%超(過去最大)民生向け供給が逼迫
NAND Flash+55〜60%AI用SSDの需要急増
エンタープライズSSD+53〜58%(過去最大)データセンター建設ラッシュ

TrendForceの報告では、2026年に生産されるメモリチップの最大70%がAIデータセンター向けに出荷される見込みです。残りの30%を民生用PC、ゲーム機、そしてMyrientのような非営利プロジェクトが奪い合う構図です。

月6,000ドルの自腹が限界に達したのは、この価格上昇が直撃したからです。

ボランティアが385TBを救った

閉鎖発表から2週間。Reddit上にr/SaveMyrientが立ち上がり、数百人のボランティアが分散バックアップに動きました。

2026年3月14日、モデレーターが「385TBのミラーが100%完了・検証済み」と発表。全データは「Minerva Archive」として分散型で存続する予定で、トレント生成とWebサイト公開が進行中です。

390TBから385TBへの差分は、バックアップ検証後に除外された重複・破損データです。実質的に全コンテンツの救出に成功しています。

「ゲームの87%が消滅危機」という現実

Myrient閉鎖の意味を理解するには、ゲーム保存の全体像を知る必要があります。

Video Game History Foundation(VGHF)の2023年調査によると、米国で2010年以前にリリースされたゲームの87%が入手不可能または消滅の危機にあります。現在の市場で合法的に入手できるのは、ゲーム史全体のわずか13%です。

映画や音楽と違い、ゲームはハードウェアに依存します。サーバー停止、デジタルストア閉鎖、ハードウェアの経年劣化で丸ごと消失するリスクがある。その中でMyrientのようなアーカイブは、法的にはグレーゾーンでありながら、事実上ゲーム保存の最後の砦として機能していました。

任天堂は2018年にLoveROMsを1,220万ドルの和解金で閉鎖させ、2024年にはVimm’s Lairから3,000以上のROMを削除させています。公式のレトロゲーム配信(Nintendo Switch Online等)はカタログが限定的で、87%の「消えゆくゲーム」を救う意思は見えません。

PCゲーマーにとっての意味

Steam Deckでレトロゲームをエミュレーションしている人、DOSBOXで旧作を遊んでいる人にとって、Myrientは「検証済みのクリーンなROMが確実に手に入る場所」でした。

Minerva Archiveによるバックアップの成功で全データの消失は免れましたが、「常時稼働のWebサイト」から「トレント経由の分散配布」への移行は、アクセスの敷居を確実に上げます。野良サイトからのダウンロードにはマルウェア混入や改変ROMのリスクがあり、Myrientが提供していた品質保証は簡単に代替できません。

まとめ——「個人の善意」に頼る保存の限界

Myrientの閉鎖が示したのは、デジタルゲームの保存が個人の善意と財力に依存しているという構造的な脆さです。月90万円の自腹は、いつか限界が来るに決まっています。AI需要による価格高騰がその「いつか」を早めただけです。

385TBのバックアップを成功させたコミュニティの行動力は称賛に値します。しかし、次のMyrientが現れたとき、同じように救えるとは限りません。ゲーム保存は個人のボランティアではなく、業界と公的機関が責任を持つべき領域です。その日が来るまで、87%のゲームは消え続けます。

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ゲーミングスタイル管理人

自作PC愛好家・ゲーム歴15年超

ゲーミングPC歴は15年以上。毎年パーツを更新しながら最新トレンドを追いかけています。初心者にもわかりやすく、上級者も満足できる情報発信を心がけています。